小学5、6年生になった頃、「大人になんてなりたくない!?」って思っていませんでしたか?
私は思っていました。異性を意識しはじめたり、身体の変化を受け入れる勇気がなかったりしたので、モヤモヤしていたんですよね。
そんな懐かしい記憶がよみがえってくる物語が西加奈子さんの小説『まく子』です。
少し不思議なお話ですが、前向きになれたり、優しい気持ちなれたりする物語です。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 思春期の懐かしい記憶を再び味わいたい人
- 少し不思議な物語が好きな人
- 最後に驚きと感動が味わえる物語が好きな人
- 西加奈子さんの小説が好きな人
あらすじ:気になる異性と出会う11歳の少年の物語
物語の主人公は、ひなびた温泉地に住む11歳の南雲慧(なぐも さとし)。
彼は、「大人になんてなりたくない!」と思っていました。
なぜなら、これまで一緒に遊んでいた友達が、性教育を受けてからは、カッコつけたり、大人ぶったりして得体の知れない何者かに変化しようとしていたからです。
そんな想いを抱いていた慧の前に、コズエという女の子が現れます。
彼女は、他の子とは違い、ポケットに入れた小銭や神社に敷いてある玉砂利、道端に積んである干し草など、
とにかくなんでも「まく」子ども…大人になろうとしていない子どもでした。
そんな彼女に心を奪われた慧でしたが、実は彼女は…という物語です。
性に興味を持つことに罪悪感を覚える
慧が大人になりたくなかったのは、周りにいる大人たちを尊敬できなかったことも関係していました。
たとえば、慧の父は女たらしで、これまで2回以上浮気をしています。
25歳のゾノは、いまだに無職で小学生相手に最新刊の漫画を見せびらかして自慢してくるキモい大人で、
ミライと呼ばれるおじさんは、誰に対しても「私は君の未来だ」と語りかけるちょっと頭のおかしな人でした。
ほんの少し前まで優しく遊んでくれた良も、中学生になった途端、いきがってヤンキーになってしまいました。
慧は、そんな大人たちの仲間になりたくなかったんですよね。
なかでも浮気をした父の影響は大きく、女性に「好き」という感情を持つこと、性に興味を持つことに罪悪感を覚えていました。
私も思春期の頃に罪悪感を覚えていたのでわかるのですが、母を裏切っているような感覚に陥るんですよね。
まったくそんなことは無いのに…。
そんな懐かしい感情がよみがえってくる物語です。
初恋の淡い思い出を再び味わえる
異性に興味を持つことに罪悪感を覚えていた慧が変わったのは、コズエと出会ったことがキッカケでした。
コズエはとても美人で皆の注目の的でしたが、他の子たちのように自分を飾ろうとはしませんでした。
誰とでも分け隔てなく話します。
慧はそんなコズエにすぐに好意を持ちましたが、自分からは話しかけられませんでした。
「一緒に帰ろう」と誘われても、断ってしまいます。
ところが、常磐城でひとり寝転んでいた慧の前に、コズエが現れるんですよね。慧を探して来てくれたというのです。
慧はもしかして…と期待に胸を膨らませますが、残念ながら、慧に好意を持っているわけではありませんでした。
しかし、これがきっかけで二人は常磐城でこっそり会う関係に発展していきます。
そして、慧は徐々に自分の想いを彼女に打ち明けるようになりました。
そんな慧の姿を通して、初恋の淡い記憶がよみがえってくる物語です。
変化を受け入れる勇気が湧いてくる
とはいえ、慧とコズエが常盤城で二人きりで話していたのは、とても不思議な内容でした。
コズエは、自分は別の星からやって来た生命体で、永遠に生きることができると言います。
地球にやって来たのは、「死」とは何かを知るためで、「死」の意味を理解し、納得できれば死にたいと思って地球に来たと言うのです。
では、なぜ彼女は永遠に生きられるのかと言うと、彼女を構成する小さな粒子が永遠に変わらないからだと言います。
私たち地球人は、人や植物、建物など、ありとあらゆるものと粒子を交換して生きています。ずっと変わり続けているんですよね。
そのため、歳をとったり、大人になったり、死んだりするわけですが、まったく変化しないコズエにとって、それは魅力的な出来事でした。
そこでコズエは…。
これから起こる変化を楽しもうと思える物語です。
まとめ
今回は、思春期の頃に感じていたモヤモヤした気持ちを思い出させてくれる西加奈子さんの小説『まく子』を紹介してきました。
それだけでなく、「変化するのは魅力的なことだ」「どんな人も自分のひとつの可能性である」「他人の言葉をもっと信じてみよう」など、
前向きな気持ちや優しい気持ちになれる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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