三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』感想/深い闇を抱えながらも優しい主人公に心動かされる物語

おすすめ小説

闇を抱えていませんか?

私は幼い頃に色々あったので闇を抱えていた時期もありましたが、

三浦しをんさんの小説『まほろ駅前多田便利軒』を読んで、深い闇を抱えながらも他人に優しく接する主人公たちに心が動かされました。

それだけでなく、お節介焼きと変わり者の二人が織り成すユニークな物語としても楽しめたんですよね。

スポンサーリンク

『まほろ駅前多田便利軒』の情報

タイトル まほろ駅前多田便利軒
著者 三浦しをん
おすすめ度 4.0
ジャンル ヒューマンドラマ
出版 文藝春秋 (2009/1/9)
ページ数 351ページ (単行本)
第135回直木賞を受賞した作品です。
瑛太さんと松田龍平さんが主演で映画化されています。

おすすめ理由

  • お節介焼きと変わり者の主人公に惹きつけられる
  • 続きが気になってページをめくる手が止まらなくなる
  • 闇を抱える二人のセリフが心に残る
  • 煙草を吸うシーンや怪我のシーンが多い

『まほろ駅前多田便利軒』の簡単な紹介

便利屋をしていた多田の前に高校時代の同級生である行天が突然現れて、二人で行動を共にする物語が描かれています。

とはいえ、二人は高校時代の親友でもなければ、話したことさえありませんでした。

そんな二人が、心に抱えている闇を隠しながら、付き合っていく姿が描かれていたのでページをめくる手がとまらなくなったんですよね。

闇を抱えているからこそ、発せられる彼らのセリフが心に突き刺さります。

それだけでなく、お節介焼きと変わり者の二人が織り成すユニークな物語としても楽しめました。

『まほろ駅前多田便利軒』のあらすじ

ここからは、『まほろ駅前多田便利軒』に収録されている6つの短編について、あらすじを紹介していきます。

(ショートストーリーとして挿入されている『曽根田のばあちゃん、予言する』と『曽根田のばあちゃん、再び予言する』は省略しています。)

『多田便利軒、繁盛中』:謎の同級生と暮らすことになった主人公の物語

物語の主人公は、便利屋の仕事をしている多田啓介。

本来、便利屋は正月は暇なはずでしたが、佐瀬という中年女性から、しばらく犬を預かって欲しいという依頼を受けたので、いつもと勝手が違っていました。

それだけでなく、岡さんから依頼された庭掃除をした帰りに、高校時代の同級生である行天春彦と出会います。

彼は高校三年間で「痛い」の一言しか喋らなかった変わり者だったので、多田とも仲がいいわけではありませんでした。

しかし、行くあてがないようだったので、仕方なく事務所に泊めたところ…。


『行天には謎がある』:犬の飼い主を探す行天の物語

「一晩だけ泊めてやる」と多田が言ってから、2ヶ月が経ちましたが、行天は今も事務所に居座っていました。

便利屋の仕事にはついてきましたが、たいして役に立ちません。

そこで、多田はチワワの飼い主を探してこいと行天に言ったところ、彼はダンボールにマジックで「チワワあげます」と書いて、町中に立つという変わった行動を取りました。

そのせいで事務所にイタズラ電話がじゃんじゃんかかってきましたが、ルルという女性からチワワが欲しいという電話がかかってきます。

ところが、事務所に来た彼女は「コロンビア人の娼婦です」と言ったので、多田は断ろうとしますが、行天が公平ではないと言い出し…。

『働く車は満身創痍』:生意気な子供を家に送り届ける物語

今回、多田便利軒に来た依頼は、田村という教育ママから塾に通う息子を迎えに行って欲しいというものでした。

その子は由良と言い、家では名作劇場を見るなど大人しい子を演じていましたが、食わせ者でした。

多田の車を「だせえ」と言ったり、コンビニでからあげくんを買って、その袋を道に捨てるような子だったのです。

そんな由良の姿を見た行天は、タバコのポイ捨てをしている自分のことは棚にあげて、

「俺は躾のなってないガキがきらいなんだよ。塾に通わせて交通渋滞を引き起こすまえに、あのサルにはほかに教えるべきことがあると思う」

と怒りましたが、彼のヤバさはこんなものではありませんでした。

なぜなら、由良が関わっていたのは…。

『走れ、便利屋』:行天の元妻が多田の前に現れる物語

多田は一人で墓参りに行った後、岡さんから頼まれたバスの運行チェックをしている最中に熱中症で倒れました。

このとき、たまたまバスから降りてきた子連れの女性医師に助けられます。

その女性は三峯凪子といい、行天の元妻だと言いました。彼女が連れていた女の子は、凪子と行天の娘でした。

そこで多田は、彼女たちを事務所に連れていき、行天の帰りを待ちますが、凪子から衝撃の事実を聞かされます。

一方、その頃。行天は、厄介ごとに巻き込まれて…。

『事実は、ひとつ』:女子高生の身辺警護をすることになった物語

まほろ市の裏社会で幅を利かせている星から、女子高生の身辺警護をして欲しいと依頼されます。

その女子高生は、新村清海といい、マスコミに追いかけられていました。

清海の友人である芦原園子の両親が何者かに殺され、園子自身も行方不明になっていたので、詳しく教えて欲しいと言うのです。

こうして多田は、清海を匿いながら便利屋の仕事をすることになりましたが、行天は彼女が何か隠していることに気づきます。

彼女が隠していたのは…。

『あのバス停で、また会おう』:行天に喧嘩をふっかける多田の物語

木村妙子という中年の女性から「プレハブの納屋を整理したい」という依頼を受けた帰りに、20代後半の男性が声をかけてきます。

その男性は、北村周一と名乗り、生みの親である木村妙子の様子を教えて欲しいと言いました。

もうすぐ結婚することになったので、一大転機を迎える前に、生みの親のことを知りたいと言うのです。

多田はすぐに断りましたが、行天が引き受けたので喧嘩になり…。

スポンサーリンク

『まほろ駅前多田便利軒』の感想

ここからは、『まほろ駅前多田便利軒』の感想を紹介していきます。

お節介焼きの多田と変わり者の行天に惹きつけられる

この物語の主人公である多田は、お節介焼きでした。

高校時代にまったく会話をしたことがない行天が、行くあてもなく困っていることがわかると、事務所に泊めてあげたり、

ある事情で引き取るしかなくなった犬も、仕事をしながら飼い主を探すなど、他人のことを考えて生きていました。

一方、多田とコンビを組むことになった行天は、とても変わり者でした。

高校時代は成績も見た目もよかったので、他校の女性には人気がありましたが、

高校三年間で彼が喋ったのは、小指が切断したときの「痛い」だけだったので、周りの人たちから距離をとられていました。

そんな二人が久しぶりに再会し、闇を抱えながらも、一緒に行動していく姿が描かれているんですよね。

正反対の二人が互いに自分の闇を隠しながら、関係を築いていく姿に一気に惹き込まれました。

続きが気になってページをめくる手が止まらなくなる

たとえば、『走れ、便利屋』では、

すべて、あとから聞いた話だ。あの日、行天はひとを殺すつもりだったのだという。多田はいつも、気づくのが遅いのだ。

という書き出しから始まるので、続きが気になってページをめくる手が止まらなくなりました。

もちろん、これだけではありません。

高校時代に裁断機を使っていた行天は、ふざけていた男子生徒にぶつかられて小指が切断したのですが、多田がなぜかそのことを悔いていたり(もちろん、多田がふざけていた男子生徒ではありません)、

多田も行天もかつて結婚していて子供がいるようでしたが、なぜか今では二人とも離婚して一人で暮らしているので、その理由も気になります。

他にも、なぜ行天は、正月の帰省を終えて、駅に向かおうとしていたときに、話したことさえなかった多田をみつけて終バスを見送ったのか?など、気になる謎が次々と提示されるんですよね。

このように、多田と行天の過去と未来が気になり、一気読みしてしまいました。

闇を抱える二人のセリフが心に残る

ここまで紹介してきたように、多田と行天は闇を抱えていましたが、そんな二人だからこそ、彼らのセリフが心に突き刺さります。

たとえば、『行天には謎がある』で、行天は多田に自称コロンビア人娼婦のルルにチワワをあげろと言いますが、その理由を、

「あんたにとって、チワワは義務だったでしょ」「でも、あのコロンビア人にとっては違う。チワワは希望だ」

と言いました。

「誰かに必要とされるってことは、だれかの希望になることだ」という意味が込められていたので、行天の優しさにグッときました。

また、『事実は、ひとつ』では、多田が便利屋を始めた理由を、

「だれかに助けを求めることができたら、と思ったことがあったからだ。近しいひとじゃなく、気軽に相談したり頼んだりできる遠い存在のほうが、救いになることもあるかもしれないと」

と言い、また『働く車は満身創痍』では、母親から興味を持たれていないことを嘆く由良に向かって、生きていてもやり直せることなんてほとんどないけれど、

「だけど、まだだれかを愛するチャンスはある。与えられなかったものを、今度はちゃんと望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。そのチャンスは残されている」

と温かい言葉をかけます。

そんな多田と行天が抱える闇の深さと、心の温かさが伝わってくる物語だったので、心が動かされました。

まとめ

今回は、三浦しをんさんの小説『まほろ駅前多田便利軒』のあらすじと感想を紹介してきました。

深い闇を抱えながらも、他人に優しく接する主人公たちに心が動かされる物語です。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました