少し理不尽な目にあっただけで、夢を諦めていませんか?
私は理不尽な目に遭うとすぐに諦めてしまいがちですが、
南杏子さんの小説『ブラックウェルに憧れて』を読んで、行動し続ければ現実は少しずつ変わっていくことがわかりました。
それだけでなく、女性医師たちが受けてきた差別に心が痛む物語でもあったんですよね。
おすすめ度
おすすめ度:
- 医療の世界では女性への差別がまかり通っている事実がわかる
- 行動し続ければ現実は少しずつ変わっていくと前向きな気持ちになれる
- ラストがあまり印象に残らない
作品の簡単な紹介
今回は、南杏子さんの小説『ブラックウェルに憧れて』を紹介します。
2018年に新聞やニュースで何度も取り上げられた医学部不正入試問題を覚えていますか?
東京医科大学の不正入試が発覚したことをきっかけに、全国の医学部で、女性や浪人生を不利に扱ったり、特定の受験生を優遇するといった不正が行われてきたことが明らかになった問題です。
この事実が明らかになったとき、「差別はダメだが、このケースでは仕方ない」と考えている人が一定数いることがわかりました。
しかし、自分が差別されたとしても、本当に仕方ないと言える内容でしょうか。
気軽に仕方ないと発言していた人は、この小説を読んで、真剣に考えて欲しいと思います。
ちなみに、一部の男性医師がクソだということはよくわかりましたが、物語としてはラストが少しインパクトに欠けるように感じました。
あらすじ:医学部の不正入試問題について取材を受ける教授の物語
物語の主人公は、中央医科大学で解剖学教室の教授を勤める城之内泰子。
彼女のもとに大日新聞の原口久和という記者が、医学部の不正入試問題について尋ねにきました。
彼が取材にきた医学部の不正入試問題とは、女子学生を一律減点にしたというもので、原口は「なぜ女性医師は声を上げないんですか!」と挑発してきます。
泰子は挑発に乗らないように、「なぜ差別する側でなく差別される側に尋ねるのか?」と聞き返しましたが、心の中では快哉を叫びたい思いでした。
ようやく強者が弱者の意見に耳を傾け始めたからです。
こうして原口の取材を受けることになった泰子が語った内容とは…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:5人の女性医師が差別に苦悩する姿に心が痛む
この小説では、あらすじで紹介した城之内泰子の物語を含めて、5人の女性医師たちの物語が描かれています。
先ほど紹介した泰子の物語を除いて、それぞれ簡単に紹介していくと、
- 白内障オペチームのリーダーに、誰よりも手術が上手い長谷川仁美ではなく、オペが下手な後輩男性医師が選ばれる物語
- アルツハイマーになった父の介護をするために、フリーの健康診断医として仕事をこなす坂東早紀の物語
- 夫から離婚を言い渡されたタイミングで、救急医から医療搬送をするエスコート・ドクターに転身を迫られる椎名涼子の物語
- 新生児科の副部長として3歳の娘よりも自分の身体よりも仕事を優先して奮闘する安蘭恵子の物語
どの物語も差別を受けながらも奮闘する女性医師の姿が描かれているんですよね。
櫻田智也さんの小説『蝉かえる』では、女性蔑視の行動をとる人たちや、来日する海外の人たちに対して平気で差別をする人たちの姿が描かれていましたが、

この小説では、女性というだけで差別される医師たちの姿が描かれていたので心が痛みました。
感想②:医療の世界では差別が当たり前になっている
先ほども紹介したように、女性医師たちは女性というだけで他の男性医師たちから差別を受けていましたが、
それは想像していた以上に酷いものでした。
たとえば、白内障オペチームのリーダーに長谷川仁美ではなく、オペが下手な後輩男性医師が選ばれる物語では、
仁美がリーダーに選ばれなかった理由を、生理休暇を取るからだと言われます。
実際、彼女は生理の期間は痛みと出血が酷かったため、当直に入れず、オペは他の先生に代わってもらっていました。
手術予定日をずらしてもらうこともあったので、そのブランクをなかったことにするのは逆差別だと言われたのです。
もちろん、この発言そのものが差別以外の何ものでもありません。
何の実力もない男性医師をリーダーにする理由にもなりません。
とはいえ、他の女性医師たちも同じような差別を受けていました。
女性というだけで見下されたり、教授と寝れば人事も思い通りになると言われたり、
脳のつくりが違うから男性よりも劣っていると根拠のない説で非難されたりと、あらゆる差別を受けていたんですよね。
町田その子さんの小説『チョコレートグラミー』では、つらい現実に直面する女性たちの物語が描かれていましたが、

この小説では、医療の世界では女性への差別がまかり通っている事実がわかる物語が描かれていたので、怒りが湧いてきました。
感想③:行動し続ければ現実は少しずつ変わっていく
さて、この小説では、「行動し続ければ現実は少しずつ変わっていく」をテーマに描かれているように思います。
これまで紹介してきたように、理不尽な差別を受けてきた女性医師たちでしたが、そんな彼女たちに泰子は、
「理不尽な現実があるとしても、負けちゃだめよ。止まったら負け。泣いたって何も変わらない。あなたたち一人一人が、自分の目指す道をひたすら歩んでいくしかない」
と言います。
さらに、向井千秋さんの「宙返り 何度もできる 無重力」という短歌を通して、
向井さんが心臓外科医から宇宙飛行士に転身されたように、誰もが何度でも宙返りできると言うんですよね。
辻堂ゆめさんの小説『十の輪をくぐる』では、オリンピックに励まされてつらい現実から立ち上がる人たちの姿が描かれていましたが、

この小説では、行動し続ければ少しずつでも現実は変わっていくと思える物語が描かれていたので、励まされました。
まとめ
今回は、南杏子さんの小説『ブラックウェルに憧れて』のあらすじと感想を紹介してきました。
どれだけ理不尽な目にあっても、行動し続ければ現実は少しずつ変わっていくと思える物語が楽しめるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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