自分がなぜ存在しているのか説明できますか?
私はなんとなくは説明できますが、村上春樹さんの小説『風の歌を聴け』を読んで、きちんと説明できるようになりたいと思いました。
ありきたりな物語にも関わらず、生死感を問われているような気がして、心に深く突き刺さったからです。
『風の歌を聴け』の情報
おすすめ度の理由
『風の歌を聴け』のあらすじ
物語の主人公は、大学の夏休みに海辺の街に帰郷した僕。
僕は、帰郷してから、3年前の大学に入った年に知り合った鼠と呼ばれる男と一緒に、ジェイズ・バーでビールを飲み明かしていました。
そんなある日、相当な金持ちの家に生まれた鼠が、「金持ちなんて・みんな・糞食らえさ」と言い出します。
彼が金持ちを嫌っていたのは、何も考えていないからという理由でした。
少しばかり頭は要るけれど、一度金持ちになってしまえば、グルグルと同じところを回っていればいいだけだと言います。
そんな鼠がジェイズ・バーに来なかったある日、小指のない女性が酔って洗面所で頭を打って倒れていたので、僕は彼女の傷の手当てをして家まで送っていきました。
そして僕は、4本指の彼女に好意を抱くようになりますが、実は彼女は…。という物語が楽しめる小説です。
『風の歌を聴け』の感想
この小説の面白いところは、物語のすべてが書かれていないところです。
「行間を読め!」というレベルではなく、ごっそりと情報が欠落しています。
とはいえ、ヒントが散りばめられているので、それをもとに読み解いていくと、まるでパズルのピースを当てはめていくような快感が味わえます。
そうして出来上がった物語は、とても「ありきたり」なものでしたが、大きなテーマを背景に描かれているので、いろいろと考えさせられました。
まず、物語の冒頭では、自分の思いを伝える難しさと大切さについて問いかけてきます。
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
「文章をかくという作業は、とりもなおさず自分と自分をとりまく事物との距離を確認することである。必要なものは感性ではなく、ものさしだ。」
と、ハートフィールドという架空の作家に言わせています。
その一方で、幼い頃にひどく無口だった主人公の僕は、両親に連れて行かれた精神科医で次のように言われます。
文明とは伝達である。もし何かを表現できないなら、それは存在しないのも同じだ。いいかい、ゼロだ。
つまり、完璧な文章など存在しないけれど、自分の物差しで何かを表現できなければ、存在する理由なんてないと言っているのです。
これがこの小説の大きなテーマであるレゾンデートル(存在理由)につながっていきます。
この物語の登場人物は、誰もが自分の存在理由について悩んでいました。
貧富の差が理由で結婚を反対されて子供をおろさなくてはいけなくなったことや、それに対して何も行動できなかったこと、昔の彼女が首を吊って自殺をしたことなど、自分という存在は本当に意味があるのか?と悩む姿が描かれていくんですよね。
そのため、ありきたりな物語にも関わらず、生死感を問われているような気がして、心に深く突き刺さりました。
パズルのような謎解き要素だけでなく、自分の存在理由について深く考えたくなる物語が楽しめる小説です。
まとめ
今回は、村上春樹さんの小説『風の歌を聴け』のあらすじと感想を紹介してきました。
パズルのような謎解き要素だけでなく、自分の存在理由について深く考えたくなる物語が楽しめる小説です。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
コメント