南杏子『いのちの停車場』は今を精一杯生きようと思える物語

おすすめ小説

「死」についてどれだけ考えていますか?

私は死にまつわる物語を読むたびに考えてきましたが、しばらく経つと忘れていることに気づきました。

しかし、南杏子さんの小説『いのちの停車場』を読んで、いずれ死ぬことを思い出し、改めて今を精一杯生きようと思えたんですよね。

おすすめ度:4.5

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こんな人におすすめ

  • 死について考えさせられる物語に興味がある人
  • 法律の無力さを描いた物語を読みたい人
  • 感動で涙が止まらなくなる物語が好きな人
  • 南杏子さんの小説が好きな人

あらすじ:救急センターから訪問診療医に転身した女医の物語

物語の主人公は、62歳の白石咲和子。

彼女は東京にある城北医科大学の救急センターで、副センター長として働いていましたが、

多くの医師が日本救急学会の総会に出ているときに大規模な交通事故が起き、2人しか受け入れられないところを7人の患者を受け入れたことがきっかけで辞職に追い込まれました。

アルバイトの事務員である野呂が、手助けをしようと虫垂炎の少女に点滴を打ったため、その姿を見た母親が大騒ぎをし、マスコミに告発すると言ってきたからです。

こうして咲和子は、その責任をとって実家のある金沢に帰省することになりましたが、

家に帰ると近所にある「まほろば診療所」の2代目・仙川徹が手伝いを心待ちにしていると父から言われます。

仙川が坂道で転んで骨折していたので、在宅専門でやっている診療所としてはお手上げ状態だったからです。

こうして、咲和子は、東京から追いかけてきた野呂と一緒に在宅医療に向き合うことになりましたが…。

という物語が楽しめる小説です。

感想①:救急センターと訪問診療医では根本的に考え方が違う

咲和子は救急センターで1時間に10人以上の患者を観てきたこともあり、

仙川から1日5件と聞いたときは、移動時間も含めて午前中には終わるだろうとたかを括っていました。

しかし、一件目でその思いは見事に打ち砕かれます。

大学病棟では、患者や家族の要望のもと、医師は思う存分に診察を行い、患者は少々苦しくても黙って診察や治療を受け入れますが、

在宅では特有の嫌な臭いがしたり、胃瘻のチューブに黒カビがあっても金がかかるからと交換を拒否されたり、お薬を出しても飲んでもらえなかったりしたからです。

他にも、

  • とてつもない不摂生が原因で糖尿病が極限まで悪化した59歳の男性
  • 薬を間引いて飲むために大量の残薬がある72歳の女性
  • 同居している娘夫婦と一切口をきかず家庭内独居の状態にある83歳の女性
  • 網膜色素変性症によりほとんど視力を失った一人暮らしの75歳の男性

など、医療行為だけでなく、生活や介護についても考える必要に迫られる「問題を抱えた患者」が多いことがわかります。

『チーム・バチスタの栄光』では、大学病院で働く大変さが描かれていましたが、

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この物語では、在宅医療は、病院での治療とは根本的に異なる大変さがあることがわかる物語です。

感想②:今を精一杯生きようと思える

この小説では、先ほど紹介した「胃瘻のチューブの交換を拒否された患者」を含めて、咲和子が6人の患者と向き合う姿が描かれています。

それぞれ簡単に紹介していくと、

  • 「妻を早く死なせたい」と口癖のように言っていた徳三郎が、実際に妻の死期が近くなると、戸惑い恐れる物語
  • ラグビーのプレイ中に脊髄を損傷したIT企業の社長が、両手両足がほとんど動かせなくなったため、在宅で「幹細胞治療」という最先端医療を施せと要求してくる物語
  • 患者本人は訪問診療を拒否していましたが、近所から異臭がするというクレームもあって、市の地域包括支援センターが介入を決定し、ゴミ屋敷での在宅医療をすることになった物語
  • 厚生労働省の統括審議官が、国として40兆円の国民医療費を税金で賄うのが難しいため、率先して在宅ケアへの転換をする物語
  • 末期癌になった6歳の少女が死ぬ前に海を見たいと願う物語
  • 咲和子の父が「もう死にたい」「楽にさせてくれ」と願う物語

です。

どれも死を身近に感じる物語なので、健康に生きられていることに感謝し、今を精一杯生きようと思えるんですよね。

『死ぬときに後悔すること25』の感想にも書きましたが、死ぬときに後悔しないように生きていこうと思える物語でした。

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感想③:ラストは考えさせられる

さて、この物語では、ラストに咲和子が父の要望を叶えるべきかどうか悩みます。

父の要望が、楽に死なせてほしいというものだったからです。

父は脳梗塞による後遺症で、「脳卒中後疼痛」という感覚障害になり、少しの接触や振動でも強い痛みを感じるようになりました。

モルヒネなどで脳の機能全体を落としても、完全には痛みは取れません。

だからこそ、父は「死にたい」「楽にさせてくれ」と繰り返し言うようになりましたが、日本では安楽死は殺人行為、または自殺幇助という罪に問われます。

そこで咲和子が下した決断は…。

ぜひ実際に読んで涙してください。

ちなみに、東野圭吾さんの小説『沈黙のパレード』の感想にも書いたように、法律は時によって無力だとわかる物語でもありました。

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 法律を守って生きていますか?  もちろん私は法律を守って生きていますが、東野圭吾さんの小説『沈黙のパレード』を読んで、法律は時によって無力であるだけでなく、加害者を守る武器にもなることに気づきました。  久しぶりのガリ...

まとめ

今回は、南杏子さんの小説『いのちの停車場』のあらすじと感想を紹介してきました。

死について考えさせられるだけでなく、感動できる物語でもあるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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