毒親の支配からは逃れられない?/柚月裕子『教誨』感想

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自分の意思や価値観を誰かに支配されていませんか?

もちろん、ある程度はまわりの影響を受けますが、『教誨』を読んで、意思や価値観を誰かに支配されてしまうと、次々と不幸が押し寄せてくることがわかりました。

特に、両親の影響は大きく、毒親の支配からはすぐにでも抜け出すべきですが、簡単には逃れられないのかもしれないと思えてきました。

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『教誨』のおすすめポイントとあらすじ

おすすめ度:3.7

  • 死刑囚が遺した言葉の真意が知りたくてページをめくる手が止まらなくなる
  • 田舎町に住む人たちの言動に怒りと悲しみが込み上げてくる
  • ラストは胸が張り裂け、涙が溢れ落ちそうになる
あらすじ
32歳の吉沢香純は、10年前に娘と近所に住む少女の2人を殺した遠縁の三原響子の遺骨と遺品を受け取るために東京拘置所を訪れました。亡くなった響子の母以外は誰も面会に来なかったので、香純の母が身元引受人に指名されたからです。こうして母の代わりに東京拘置所を訪れた香純は、刑務官から響子が死刑になる直前に「約束は守ったよ、褒めて」と言ったと聞かされます。香純は、この言葉の真意が気になり、関係者に話を聞こうとしますが…。

『教誨』の感想

自己肯定感が低いと、何をしても上手くいきません。

『教誨』に登場する死刑囚・三原響子も、自己肯定感が低く、次々と不幸が押し寄せてきました。

彼女は娘を心から愛していましたが、毒親に支配されており、またある出来事が重なったせいで、気づけば娘を殺していました。

もちろん、娘を殺した罪は響子にありますが、そこに至るまでの経緯を知ると、違う一面が浮かび上がってきます。

響子は、幼い頃から父親に「どうしてお前はなにもできないんだ」「俺に恥をかかせるな」「馬鹿、低脳」と言われ、何度も殴られてきました。

運動や勉強が苦手で、人付き合いも苦手だったので、父親が怒るのは自分が馬鹿だからだ、母親が困るのは自分が悪いからだと思い込んでいました。

一方で、旧習深い田舎町に住んでいたこともあり、自己肯定感が低い彼女は、幼い頃からいじめられ、大人になってからも変な男ばかりが寄ってきました。

こうして、ずっと誰かに蔑まれ、疎まれてきた響子でしたが、ようやく愛し愛される相手が見つかります。

その相手こそが娘でしたが、ある出来事が重なり、殺してしまいました。

このように、『教誨』は胸が張り裂けそうになるほど悲しい物語ですが、自己肯定感が低いと、次々と不幸が押し寄せてくることがわかります。

特に、親の影響は大きく、「悪いのは自分だ」という洗脳を解かないかぎり、幸せにはなれないことが痛いほど伝わってきました。

親から離れたところで、別の誰かが親の役割を演じるからです。

とはいえ、毒親の洗脳を解くのは簡単ではありませんが、『教誨』を読んで、自分のすべてを受け入れてくれる人と出会えるかどうかで、その後の人生は大きく変わるように思えてきました。

ある意味、運次第なところはありますが、それほど毒親の支配から逃れるのは難しいことなのかもしれません。

二人の少女を殺し、死刑を執行された女性が言い遺した、「約束は守ったよ、褒めて」という言葉に込められた真意に迫る物語に興味がある方におすすめの小説です。

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