今村夏子『あひる』は現実から目を背ける人たちの滑稽な姿が描かれている物語

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現実から目を背けていませんか?

もちろん、誰もが現実から目を背けたくなることもあると思いますが、

今村夏子さんの小説『あひる』を読んで、現実から目を背けると滑稽な人生を歩むことになると気づきました。

現実から目を背けずに、現実を受け入れていこうと思える物語なんですよね。

おすすめ度:4.0

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こんな人におすすめ

  • 現実から目を背ける人たちの滑稽な姿が描かれた物語に興味がある人
  • 代替品では満足できない理由を知りたい人
  • 子供の鋭さと残酷さが描かれている物語を読んでみたい人
  • 今村夏子さんの小説が好きな人

あらすじ:あひるを使って子供たちを惹きつけようとする家族の物語

物語の主人公は、医療系の資格を取るために終日実家で勉強している私。

私のほかに家には両親がいましたが、弟の将太は10年前に結婚して家を出て行ったので、娘である私と3人で暮らしていました。

そんな私の家に、「のりたま」と名付けられたあひるがきます。

前の飼い主は父が働いていた頃の同僚でしたが、隣の県で暮らす息子一家と同居することになったので、手放すことになったのです。

こうして私の家にのりたまがやって来たわけですが、のりたまが来てすぐに高学年の小学生たちが家に来るようになります。

のりたまを見に来たのですが、両親は孫ができたみたいだと喜びました。

ところが、しばらくすると、のりたまはストレスで食欲が落ち、どんどん衰弱していきます。

そこで、父がのりたまを病院連れて行ったところ…。

その日から子供たちは私の家に来なくなりました。

それから2週間が過ぎ、のりたまが病院から帰ってくると、私は以前の「のりたま」とは違うあひるに変わっていることに気づきます。

しかし、両親は緊張した面持ちで私の様子を伺っていたので黙っていました。

また、この日から再び子供たちが家に来るようになりましたが、両親は子供たちに麦茶を振る舞ったり、飴やバナナを持たせたりします。

さらに、家にあげて宿題をさせるようになりました。

その結果…。という物語が楽しめる小説です。

感想①:現実から目を背ける人たちの滑稽な姿が描かれている短編集

この小説は、先ほどあらすじで紹介した『あひる』を含めて全部で3つの短編で構成されています。

どの短編も現実から目を背ける人たちの滑稽な姿が描かれているんですよね。

『あひる』では、私の両親は孫の顔が1日も早く見たいと願っていましたが、私はいまだに実家暮らしで結婚する予定はなく、

弟は結婚したものの、子供はおらず、直接言うと怒られるので、母は毎日神棚の前で30分祈っていました。

ところが、のりたまが来たことで、小学生の子供たちが家に寄ってくるようになります。

私の両親は、孫ができない寂しさを近所の子供たちで埋めようとしたのです。

『おばあちゃんの家』では、家から15歩ほど離れた場所で暮らすおばあちゃんとみのり一家の姿が描かれています。

しかし、みのりの両親はおばあちゃんのことを邪魔者扱いしており、おばあちゃんの家でみのりがどんな失敗をしてもおばあちゃんを叱りました。

ところが、ある日。おばあちゃんが独り言を言うようになります。

初めに気づいたのは弟でしたが、みのりの両親はラジオでも聞いていたのだろうと相手にしませんでした。その結果…。

『森の兄弟』では、大好きな漫画を買ってもらえないモリオが、

友達にその漫画を借りるも、手の汗でページが濡れてしまい、また妹のモリコが落書きをしたので、怒られるところから始まります。

こうしてモリオは漫画を借りられなくなりましたが、その代わりにたまたま入った他人の敷地で、家の窓から顔を出したおばあちゃんと出会い、会いに行くようになりました。

そのおばあちゃんは敷地に生えているビワを取ることを許してくれ、飴までくれるようになります。

しかし、お母さんがある物を用意してくれたので…。

というように、どの短編でも現実から目を背ける人たちの滑稽な姿が描かれているんですよね。

東野圭吾さんの小説『赤い指』では、現実から目を背ける人たちの衝撃の姿が描かれていましたが、

この物語でも、現実から目を背ける恐ろしさと滑稽さが伝わってきました。

感想②:代替品では満足できない?

あらすじで、のりたまが病気になると、新しいのりたまが家にやってきたと書きましたが、

それは、あひるは死んでも代わりがきくというメッセージが込められているように思います。

もっといえば、私の両親はのりたまを見に来る子供たちに麦茶やお菓子、ご飯やケーキを振る舞うようになりましたが、

どの子の名前も覚えていませんでした。

つまり、自分に懐いてくれる子供であれば、誰でも良かったのです。

私の両親が本当に欲しいのは孫で、「のりたま」や「のりたまを見に来る子供」を代替品として利用していたんですよね。

とはいえ、どれだけ代替品を手に入れたところで、満足できません。

だからこそ、本当に欲しいものが手に入った瞬間に、代替品すべてを手放す姿が描かれています。

『望んでいるものが手に入らない本当の理由』の感想に、欲しい物を手に入れたいのなら、これまで拒絶していたものを受け入れようと書きましたが、

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この物語では、本当に欲しいものにフタをして目を背けても、代替品では満足できずに、おかしな行動をとってしまうことがわかります。

感想③:子供の鋭さと残酷さが描かれている

さて、この物語では、子供の鋭さと残酷さが描かれています。

たとえば、『あひる』では、のりたまが死んでも、新しいのりたまと仲良くしていた子供たちでしたが、

お墓を作ると、「三匹とも?」「一匹目、二匹目もこの中にいるの?」と聞いてきました。

子供は意外と鋭いんですよね。

一方で、子供たちはあひるがいれば私の家に来ましたが、いなくなると顔を出さなくなります。

そこで、私の両親は子供たちにお菓子やご飯を振る舞うようになりましたが、

お饅頭などあまり好きでない物を渡すと、のりたまの餌箱に突っ込んだりしました。

また、鍵がなくなったと嘘をついて、夜ご飯を食べにくる子まで現れます。

漫画『進撃の巨人』では、この世界は残酷だと気づける物語が描かれていましたが、

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この物語では、無邪気な子供たちの鋭さと残酷さに心が締め付けられました。

まとめ

今回は、今村夏子さんの小説『あひる』のあらすじと感想を紹介してきました。

現実から目を背ける人たちの滑稽な姿が描かれている物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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