自分がどういう人間か説明できますか?
私はなんとなくは説明できますが、望月麻衣さんの小説『満月珈琲店の星詠み』を読んで、改めて自分とはどういう人間なのか考えてみたくなりました。
さまざまな悩みを抱えていた主人公たちが、占星術をきっかけに自分と向き合い、前向きに行動していく姿に励まされたからです。
『満月珈琲店の星詠み』の情報
おすすめ理由
- 満月珈琲店で提供されるデザートを食べてみたくなる
- 前向きに変わっていく主人公たちに励まされる
- 自分が輝くには自分を理解することがはじめの一歩だとわかる
- ラストに向かうにつれて失速していく
『満月珈琲店の星詠み』の簡単な紹介
今回は、望月麻衣さんの小説『満月珈琲店の星詠み』を紹介します。
悩みを抱えて苦しんでいた主人公たちが、満月珈琲店で人間の言葉が話せるネコたちと出会い、前向きに変わっていく姿が描かれている物語です。
売れなくなったシナリオ・ライターや、自分にも他人にも厳しくて息苦しくなったテレビディレクター、そして、久しぶりに再会した女性に恋心を抱くIT会社の経営者たちが、
満月の夜にだけ現れる満月珈琲店で星詠みをする猫たちと出会い、自分の本音と向き合うことで、これからの人生を前向きに捉えていきます。
もともとこの小説は、イラストからスタートしたということもあり、満月珈琲店で提供されるデザートのイラストがとても美味しそうで、実際に食べてみたくなりました。
とはいえ、物語としては、ラストに向かうにつれて失速していくように感じました。
『満月珈琲店の星詠み』のあらすじと感想
ここからは、『満月珈琲店の星詠み』に収録されている(プロローグとエピローグを除く)3つの短編について、あらすじと感想を紹介していきます。
『水瓶座のトライフル』:売れなくなったシナリオ・ライター
あらすじ
物語の主人公は、大学生の頃にドラマ・シナリオ大賞を受賞して一躍有名になった芹沢瑞希。
しかし、彼女は30代になると、手掛けたドラマの視聴率が取れず、世間からバッシングされたので仕事から逃げ出してしまいました。
40歳になった今では、ソーシャルゲームの脇道エンドのシナリオを書いています。
だからこそ彼女は、かつて一緒に仕事をしていたテレビ会社のディレクターに勇気を振り絞って企画書を送ったのですが、ホテルのロビーで不採用だと言い渡されました。
こうして未来が閉ざされたように感じていた瑞希でしたが、
その場にいた瑞希のファンだという見知らぬ男性から、時代を読む力を知りたかったら「満月珈琲店に行くといいよ」と声をかけられたので、行ってみたところ…。
感想
この小説では、猫たちに星詠み(占星術)をしてもらい、悩みが解決していく主人公たちの姿が描かれています。
ここで占星術について、その一部を簡単に紹介すると、占星術では、年齢に応じてやるべきことがあるという考えがあるそうです。
たとえば、生まれてから7歳までの「月期」に親とちゃんと向き合っておかないと、20代半ばの「太陽期」に大きく衝突してしまうと言います。
また、8歳から15歳までの「水星期」に学問と向き合わなければ、30代半ばの「火星期」で学び直すことが多くなるそうです。
そして、16歳から25歳までの「金星期」で恋愛と向き合わなければ、それ相応の相手としか出会えないというんですよね。
つまり、そのとき、そのときにやるべきことに向き合わなければ、いつかその補習をする必要に迫られるという考えです。
他にも、少し前までは皆が必死になって同じ方向に向かって泳いでいく「魚座」の時代でしたが、
今では、一人一人が個性を発揮して振る舞う「水瓶座」の時代に突入したと言います。
それにも関わらず、瑞希は人気だった魚座時代のシナリオを書き続けていたので、売れなくなったのだと指摘されました。
また、彼女は素敵な空間にいることで力が発揮できるタイプでしたが、お金が心配になって格安な家に引っ越し、始末ばかりしていたので、売れなくなったのだと言われるんですよね。
占星術で今の自分を見つめ直すという切り口が面白い物語です。
『満月アイスのフォンダンショコラ』:自分に厳しいテレビディレクター
あらすじ
物語の主人公は、テレビディレクターの中山明里。
彼女は自分にも他人にも厳しいところがあり、芹沢瑞稀に企画書が通らなかったことを告げた後、何のフォローもせずに帰ったことを気にしていました。
また、彼女は以前、広告代理店で営業をしている塚田巧といい関係になりましたが、後から彼が既婚者だということを知り、自分を責め続けていました。
そんな彼女の前に、既婚俳優と不論をして週刊誌にスクープされた鮎川沙月が謝罪に来ます。
しかし、メインで出演する予定だったドラマの降板を告げると、沙月は「私以外にも不倫をしている人はいっぱいいるのに、どうして私だけこんな目に遭うんですか?」と逆ギレし始めました。
その後、公園で一人酔っ払っている沙月を見つけた明里は、たまたま視線の先にあった「満月珈琲店」に彼女を誘って入ったところ…。
感想
この物語では、なぜ自分だけが責められなければいけないの?という女優・鮎川沙月に対するひとつの答えが描かれています。
彼女の問いに猫たちは、この世界に善悪はないけれど、誰かを傷つければ、それは大きくなって跳ね返ってくるという鏡の法則があると言いました。
そのため、自分の行動が及ぼす影響を正しく把握すること、具体的には、不倫をしたら、仕事を失うことがセットだと知って行動することが大切だと言います。
一方、自分にも他人にも厳しいテレビディレクターの中山明里に対しては、人に対して厳しいのは、自分を赦し、甘やかせてこなかったからだと言います。
結局、我慢しすぎて時々爆発してしまうのだから、しっかり自分を甘やかせて、人は人と認められる心の大きさを保つほうが健全だと言うんですよね。
自分が何が好きで、どういう人間なのかを知ることが、幸せへの第一歩だとわかる物語が楽しめました。
『水星逆行の再会』:似たようなトラブルが続いている経営者
あらすじ
物語の主人公は、最近、似たようなトラブルが続いているIT会社の経営者である水本隆。
彼は、大学時代からの友人であり、起業のパートナーである安田雄一と二人で会社を経営していましたが、
本来であれば安田が受けもつWEBサイト作成の依頼を、黙って自分で引き受けようとしていました。
依頼主である早川恵に恋心を抱いていたからです。
彼女と出会ったのは偶然でした。昼休みにパンを買いに出かけたときに、「もしかして、水本君?」と声をかけられたのです。
隆はまったく彼女のことを覚えていませんでしたが、小学校のときに登下校班が同じで、3つ年上だと言われます。
さらに、彼女は「あの時はありがとう」と言い出し…。
感想
この物語では、似たようなトラブルが続くのは、そういう星まわりの時期があるからだ、という前提で描かれています。
そして、占星術などでそういう時期だと気づけば、これまで以上に注意するなどの対策ができると主張しています。
とはいえ、物語としては、どちらかと言えば、なぜ猫たちが芹沢瑞稀や中山明里たちを手助けしたのか?を解き明かすための前振りとして描かれているように思います。
そのため、先ほど紹介した2つの物語と比べると、悩みもゆるく、登場人物たちの星詠みに対する反応も鈍かったので、失速したような印象を受けました。
まとめ
今回は、望月麻衣さんの小説『満月珈琲店の星詠み』のあらすじと感想を紹介してきました。
占星術をきっかけに自分と向き合い、変わっていく主人公たちの姿を通して、改めて自分とはどういう人間なのか?と考えるきっかけを与えてくれる物語が楽しめます。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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