読んでいて苦しくなったり、温かい気持ちになったりと、心が揺さぶられました。
人の気持ちを理解するのは難しく、相手の考えはこうだと勝手に思い込んで悩んでしまいがちですが、一歩踏み出す勇気があれば、多くの悩みは消えていくことがわかりました。
また、悩みと向き合い、痛みを乗り越えるほど、人は強く、そして優しくなれるのだと励まされる物語でした。
『ぎょらん』の情報
おすすめポイント
『ぎょらん』のあらすじ
大学一年生のときに親友を亡くした御舟朱鷺は、親友の「ぎょらん」を口にしたせいで、30歳になっても悩み苦しみ、ニートから抜け出せずにいました。
「ぎょらん」とは、人が死ぬ瞬間に遺す、いくらのような赤い珠で、口にすると、死者の最後の思いが見えると言います。
朱鷺の親友が遺した思いは、想像を絶するほど酷いものでしたが、妹の華子は、そんな兄の苦悩を知らずにいたので、愛する上司を失った悲しみから、彼の最後の思いを知りたいと言いました。
そこで朱鷺は、彼氏のぎょらんを探しに行こうと言って、華子を連れ出しますが…。
『ぎょらん』の感想
ぎょらんに悩まされるニートの成長物語に引き込まれる
『ぎょらん』は、身近な人たちの死に悩み苦しむ6人の短編から構成されています。
どの短編も、生と死について考えさせられ、心が揺さぶられましたが、すべての短編に登場するニートの御舟朱鷺の成長物語としても、引き込まれました。
朱鷺は、最初の短編では、働きもせずに家に引きこもって、母に漫画を捨てられただけで腹を立てて暴れるような典型的なニートでしたが、妹が愛する人を失って苦しんでいることを知ると、兄として行動し始めます。
そして次の短編では、このままではダメだと奮起した朱鷺が、葬儀屋でアルバイトを始め、そこで出会った夫を亡くした女性に励まされて、正社員を目指します。
とはいえ、順調には進まず、長年働いていなかったこともあり、上司からは「小学校から出直して来なさいよ!」と怒鳴られ、話し言葉も「〜であります」と違和感丸出しでした。
そんな朱鷺が、葬儀屋の仕事を通して人と関わりながら、少しずつ成長していく姿に、前向きな気持ちになれる物語です。
痛みを乗り越えて強く、優しくなろうと励まされる
とはいえ、個人的にいちばん心に残ったのは、「人は痛みを乗り越えるほど優しくなれる」というメッセージです。
たとえば、高校生の菅原美生は、出席日数が足りないせいで、ボランティア部の人たちと一緒に介護付優良老人ホームに行くことになりましたが、そこでの日々は、想像していた以上に過酷でした。
逃げ出したくなるほど辛いものでしたが、他のボランティア部の人たちのように、老人やそこで働く人たちをバカにしたりはしませんでした。
熱い料理が食べられない老人に対して、「わたしは、ああはなりたくないな。赤の他人に世話を焼いてもらいながら、くだらないワガママ言ってるんだよ」とバカにしたり、そこで働く介護士に対して「あたし絶対就きたくないって思った。だって底辺だもん」と見下したりしませんでした。
なぜなら、美生も痛みを抱えていたからです。
美生の母は、お菓子に玩具、習い事や学校など、自分が許すもの以外を認めませんでした。
しかし、美生が反発してからは、父も母から自由になりたいと言って家を出ていき、母も自分のこと以外は何もしなくなったので、日々痛みを感じていたのです。
だからこそ、美生は老人ホームで出会った老女に優しく接したり、さらにその老女が、過去に美生の母と親子以上の関係にあったことを知ると…。
というように、痛みと向き合っている人ほど、相手を見下したり、馬鹿にしたりせず、むしろ相手を労わる強さと優しさを身につけていることがわかりました。
特に、朱鷺の母の強さと優しさには圧倒されました。
引きこもっていた朱鷺との約束が明らかになったとき、母の強さと優しさに、涙がこぼれ落ちそうになりました。
本当の強さとは、痛みを知り、その痛みを乗り越えて、他人に優しくできることなのだと気づかされました。
私も、目の前にある痛みを乗り越え、他人に優しくできる強さを身につけていきたいと思います。
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