2017年に積水ハウスが55億円もの大金を「地面師」に騙し取られたことをご存知ですか?
私はまったく知りませんでしたが、この事件をモチーフにした小説があると知り、早速読んでみました。
それが、新庄耕さんの小説『地面師たち』です。
地面師たちの賢さと恐ろしさに惹き込まれ、また物語のスリリングな展開に一気読みしました。
地面師たちの賢さと恐ろしさに惹き込まれる
他人が所有する土地を利用して詐欺を働く者(地面師)と聞いて、どんなイメージが思い浮かびますか?
私は「ヤバい人たち」を思い浮かべましたが、その通りでした。
この小説では、チームで行動する5人の地面師たちが登場しますが、首謀者であるハリソン山中は、元暴力団員であり、彼のもとで土地情報を集める竹下は薬物中毒者でした。
他の3人も似たようなものでしたが、彼らが地面師として動き出すと、そこらのサラリーマンよりもプロフェッショナルな行動をとります。
まずは竹下が、念入りに土地情報を調べ、騙し取れそうな物件が見つかれば、不動産取引や法律の知識が豊富なハリソン山中がGoを出します。
次に、ターゲットとなる土地所有者の「なりすまし役」を麗子が見つけてきて、司法書士の後藤と、売主の代理人を演じる辻本拓海が、流した嘘情報に食いついてきた買主を相手に交渉を進めます。
そして最後に、「なりすまし役」を交渉の場に連れていき、取引が成立して金が銀行に振り込まれると、地面師たちは海外に逃亡するなど、しばらく行方をくらませるんですよね。
この事件の主犯格は、麗子が見つけてきた「なりすまし役」なので、地面師たちを捕まえるのは難しいという仕組みです。(「なりすまし役」は切り捨てる前提での計画です。)
それだけでなく、詐欺にあった買主が「騙された」と警察に駆け込んでも、素性不明な人たちがのさばる不動産業界では、取引も複雑なため、誰が真の被害者かわかりにくいことも関係していました。
詐欺にあった買主が、実は加害者で、金融機関から金を騙し取ろうとしているとも考えられるからです。
このように、少ないリスクで数十億円もの大金を騙し取る地面師たちの賢さと恐ろしさに惹き込まれる物語です。
騙される人たちの心理状態に興味が湧く
とはいえ、どれだけ地面師たちが念入りに準備をしても、何十億円もの金を騙し取るなんて不可能だと思いませんか?
私なら、売主本人がギリギリまで同席せず、しかも第三者が売主の代理人として出席するような怪しげな取引をしようとは思いません。
ところが、地面師に乗せられた買主たちにも、買わざるを得ない事情があるため、騙されてしまうことがわかります。
この物語に登場する大手ハウスメーカーの役員である青柳隆史は、開発本部長として順調に進んでいた大型プロジェクトが突然頓挫したので、急遽穴埋めの開発用地を用意しなければいけませんでした。
そうしないと、社長への道が閉ざされてしまうからです。
だからこそ、東京都市圏で数十億円規模の土地を見つけるのは不可能だと頭ではわかっていながらも、部下たちを怒鳴り散らしていたわけですが、
そんな青柳に地面師たちが100億円超えの土地を売りたいと言ってきたので、まんまと取引をしてしまうんですよね。
2017年に積水ハウスが55億円もの大金を地面師に騙し取られたのも、社長が現地視察をしたことで、いわゆる「社長案件」になり、怪しいと思いながらも、担当者たちが取引を成立させてしまったからでした。
※詳しくは、『保身 積水ハウス、クーデターの深層』に書かれています。私も未読なので読んでみたい!
このように、騙される側にも何らかの事情があることがわかり、そんな彼らの心理状態に興味が湧く物語です。
ハラハラ&ドキドキの展開に一気読みしてしまう
ここまで紹介してきたように、この小説では、地面師たちの賢さと恐ろしさに惹き込まれ、騙される側の心理状態にも興味が湧く物語ですが、
それだけでなく、『ミッション:インポッシブル』のようなハラハラ&ドキドキする展開にページをめくる手が止まらなくなります。
しかも、ラストは思わずニヤっとするような終わり方だったので、余韻まで楽しめました。
余談ですが、こういった悪役が主人公の物語では、ついつい悪役を応援してしまうのが面白いと思います。
私は普段は正義感が強い方だと思うのですが、それでも悪役を応援してしまうところに、ストーリーのもつ力を感じました。
まとめ
今回は、新庄耕さんの小説『地面師たち』を紹介してきました。
以上、3つの魅力がある物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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