物語の途中で雰囲気がガラッと変わる小説はお好きですか?
私は読み進めていくうちにグイグイ引き込まれていく物語が好きですが、
海堂尊さんの小説『チーム・バチスタの栄光』は前後半で雰囲気がガラッと変わるだけでなく、一気に面白くなるので惹きつけられました。
前後半で違う物語を読んでいるかのような雰囲気が味わえるので、二度楽しめるミステリーなんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 前後半で雰囲気がガラッと変わる物語を読んでみたい人
- 現実の問題を訴えかけている物語に興味がある人
- 田口・白鳥シリーズが好きな人
- 海堂尊さんの小説が好きな人
あらすじ:患者の愚痴を聞き続ける医師が主人公の物語
物語の主人公は、不定愁訴外来と呼ばれる患者の愚痴を聞き続ける仕事をする田口公平。
彼は出世欲がなく、病院の片隅で患者の愚痴を聞き続けていましたが…。
なぜか高階病院長に呼び出され、アメリカ帰りのスーパースター・桐生が起こした術死の調査を依頼されました。
桐生は心臓外科医として成功率が6割程度のバチスタ手術を、これまでほぼ失敗することなく成功させてきましたが、ここ3件は連続して失敗していました。
しかし、桐生にはどう考えても術死につながるようなミスが思い当たりません。
そこで桐生が病院長に相談したところ、田口に白羽の矢が当たったのです。
こうして田口はチーム・バチスタの関係者に事情聴取をすることになったのですが、彼の調査も虚しく、またしても患者が死亡します。
何かあると感じた田口は病院長に泣きついたところ…。
という物語が楽しめる医療ミステリー小説です。
感想①:前半と後半で雰囲気が異なる物語が楽しめる
この物語の前半では、優しくて真面目な田口先生が、病院長たちに振り回されながらも真相に向かって行動する姿が楽しめますが、
後半になるとゴキブリを彷彿させる、はちゃめちゃな厚生労働省の役人・白鳥が参画します。
白鳥の登場によって、前半とは異なるスピーディーなストーリー展開に、まったく違う物語を読んでいるかのような楽しみが味わえるんですよね。
白鳥圭介は、ロジカルモンスターと呼ばれていましたが、そのあだ名の通り、純粋に理論だけを追及していました。
そのため、病院長から「思ったことは口にしないと精神的にやられる」とアドバイスされるほど個性が強い人物です。
そんな白鳥がチーム・バチスタの関係者に事情聴取をしたところ、田口の事情聴取とはまったく異なる彼らの一面が明らかになりました。
受け身な事情聴取をする田口に対して、白鳥は攻撃的な事情聴取をしたからです。
攻撃的になると人は本性を現すからだと言うのですが…。
そのせいで白鳥は相手を泣かせ、殴られ、嫌われましたが、平然としていました。
東野圭吾さんの小説『マスカレード・ホテル』でも、正反対な性格の二人が事件解決に向かって嫌々ながらも協力する姿が楽しめましたが、
この物語でも、正反対な二人の漫才のようなやり取りが楽しめます。
感想②:力には光と闇があることがわかる
そんな田口・白鳥の「でこぼこコンビ」が、チーム・バチスタが抱えている闇に迫っていくわけですが、
またしても患者が死亡します。白鳥がいない間に手術が行われたのです。
白鳥はすぐに現場に駆け込み、事件の真相を明らかにしていきます。その真相とは…。
この続きは実際に読んでもらうとして、ラストでは力には光だけでなく闇の部分があることがわかります。
百田尚樹さんの小説『影法師』の感想でも、光があるところには必ず闇があると書きましたが、

光があるところには必ず闇があるため、闇を受け入れてコントロールできる人こそが力がある人間だと教えてくれる物語でした。
感想③:Aiの必要性を訴えている物語
さて、この小説ではAi(オートプシー・イメージング、死亡時画像病理診断)という解剖前にCTを撮る新しい解剖の形が必要だと随所で訴えています。
それは、司法解剖には年間1万体分の予算しかつけられていないため、正しく死因が解明されずに埋葬された人が大勢いるかもしれないからです。
ところが、実際は多くの法医学者が自分の仕事を奪われるかもしれない…という理由でAiを反対していると言います。
まさに既得権益との戦いですが、『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』で描かれている黒人差別と同じように現実の課題が描かれているので、最後まで興味深く読めました。
しかも、その訴えが田口と白鳥の漫才のようなやり取りを読んでいるうちにスッと入ってくるところが、この物語のスゴイところだと思います。
まとめ
今回は、海堂尊さんの小説『チーム・バチスタの栄光』のあらすじと感想を紹介してきました。
前後半で雰囲気がガラッと変わる魅力的なミステリーなので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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