ネットやSNSなどで他人を批判していませんか?
私は批判するようなことは書き込まないようにしていますが、
海堂尊さんの小説『ジェネラル・ルージュの凱旋』を読んで、これからも批判するのはやめようと思いました。
安全地帯からどれだけ叫んだところで、誰かを傷つけるだけで、何の役にも立たないんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 救急医療の大変さを知りたい人
- 安全地帯から他人を批判する愚かさがわかる物語を読んでみたい人
- 田口・白鳥シリーズが好きな人
- 海堂尊さんの小説が好きな人
あらすじ:同期の癒着疑惑を調査することになった田口先生の物語
物語の主人公は、患者の愚痴を聞き続ける仕事をする田口公平。
彼は、伝説の歌姫である水落冴子の担当医になり、慌てふためいていましたが、それよりも気になることがありました。
それは、
『救命救急センター速水部長は、医療代理店メディカル・アソシエイツと癒着している。
VM社の心臓カテーテルの使用頻度を調べてみろ。ICUの花房師長は共犯だ』
という匿名の内部告発文書が田口先生の院内ポストに投げ込まれていたからです。
田口先生は早速、高階病院長に相談したところ、「エシックス・コミュニティにお願いしましょう」と言われます。
しかし、エシックスは、バチスタスキャンダルのときに表舞台から姿を消した曳地助教授が立ち上げた組織でした。
当時、リスクマネジメント委員長だった曳地助教授を、バチスタスキャンダルで地に落としたのは田口先生だったんですよね。
つまり、エシックスは、対田口リベンジ・チームとして立ち上がった組織だったのです。
それでも田口先生は、エシックスの沼田委員長に会いに行きますが…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:『ナイチンゲールの沈黙』と同じ時系列で物語が進んでいく
この小説では、前作『ナイチンゲールの沈黙』と同じ時系列で物語が進んでいきます。
そのため、物語は前作同様に伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院するところから始まります。
ただし、『ナイチンゲールの沈黙』では、看護師の浜田小夜が中心となって小児医療を舞台に描かれていきましたが、
この物語では小夜と同期の看護師・如月翔子が中心となって、ICU(集中治療室)を舞台に物語が進んでいきます。
このように、同じ時系列の物語が違う視点で描かれているので、『ナイチンゲールの沈黙』とのつながりが楽しめるんですよね。
伊坂幸太郎さんの小説『ホワイトラビット』でも、同じ時系列の物語を複数の異なる人物の視点で楽しむことができましたが、

この物語でも前作との意外な繋がりを楽しむことができました。
ちなみに、『ナイチンゲールの沈黙』と『ジェネラル・ルージュの凱旋』は、もともとはひとつの物語として描かれていたそうです。
しかし、上下巻としての出版が許されなかったため、このように2冊に分離して出版することになったそうです。
感想②:救急医療を維持していく難しさが描かれている
この物語では、これまでの海堂尊さんの小説で描かれてきた小児医療、終末医療に続いて救急医療を維持する難しさが描かれています。
救急医療は、もともとは命を救うための組織であり、金儲けよりも患者優先で行動するのが当たり前でしたが、
行政が切り捨てたため、赤字垂れ流しの組織となってしまいました。
この赤字に立ち向かうことになったのが速水です。
しかし、速水は赤字を無視して患者優先で行動していたので、アメリカ帰りの三船事務長から敵視されていたんですよね。
それにも関わらず、速水はより多くの患者を救うために、救急ヘリを要望していました。
残念ながら、機体導入に五億、年間維持費として二億という巨額の投資が必要になるため、実現できませんでしたが…。
川村元気さんの小説『億男』では、お金では幸せにはなれない主人公の姿が描かれていましたが、

この物語では、お金がなければどれだけ人のためであっても行動できない現実の厳しさが描かれています。
感想③:安全地帯から批判するだけの人間はぶっ潰せ
さて、この物語では、安全地帯から批判するような人間はぶっ潰せというテーマで描かれているように思います。
エシックス・コミニティという安全地帯から吠える沼田委員長をはじめとする面々に、
田口が、白鳥が、速水が真正面から闘いを挑んでいくんですよね。
そんな彼らの姿に感動します。
とはいえ、これは他人事ではありません。
『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』にも書かれていましたが、ネットには正義の力を振りかざす人たちが大勢います。
叩きやすい人を見つけて、正義の名の下に制裁を加えれば誰もが正義の味方になれるからです。
他人を救う力がなくても、他人の人生を破壊するパワーは誰もが持てます。
しかし、そうやって正義の味方になったとしても、誰かを傷つけるだけで、誰の役にも立ちません。
そんな情けない人間にならないでおこう…と思える物語でした。
まとめ
今回は、海堂尊さんの小説『ジェネラル・ルージュの凱旋』のあらすじと感想を紹介してきました。
救急医療を維持していく難しさと、安全地帯から他人を批判する人たちの情けなさがわかる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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