一色さゆり『飛石を渡れば』は自分を取り戻せる場所があれば人生は豊かにできると思える物語

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自分を見失っていませんか?

私は少し忙しくなると、すぐに自分を見失ってしまいがちですが、

一色さゆりさんの小説『飛石を渡れば』を読んで、自分を取り戻せる場所を持ちたくなりました。

忙しい毎日に追われても、自分を取り戻せる場所があれば、人生は豊かにできると思える物語だったんですよね。

おすすめ度:4.0

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こんな人におすすめ

  • 京都市内の不動産屋で働く主人公の物語に興味がある人
  • ムダにこそ意味がある理由を知りたい人
  • 自分を取り戻せる場所を持ちたくなる物語を読んでみたい人
  • 一色さゆりさんの小説が好きな人

あらすじ:京都市内の不動産屋で働く主人公の物語

物語の主人公は、京都市内の不動産を扱う仲介会社で働く中川星那。

彼女は今の会社に勤めて7年が経ちましたが、突然働き方改革を進めようとする会社に戸惑っていました。

今まで一生懸命働いてきたのに、いきなり「残業をゼロにしろ」「休日出勤をするな」と言われて困っていたのです。

それは、プライベートの満たされなさを、仕事の忙しさで埋めていたからですが、そんな思いを尊敬する課長に漠然と伝えたところ、

仕事は生きていくための義務なんだから、人に迷惑がかからない程度に必要な収入を稼げば、あとは好きなことをしていればいいのよと言われるんですよね。

そこで星那は、亡くなった祖母が先生をしていた茶道を習いはじめたところ…。

という物語が楽しめる小説です。

感想①:茶道の先生を中心に人とのつながりが楽しめる

この小説では、あらすじで紹介した中編と、12の短編が楽しめます。

あらすじで紹介した中編と最後の短編は、中川星那が主人公として描かれていますが、

その他の短編は、星那の祖母である修子とその関係者が主人公となって物語が進んでいきます。

短編のいくつかを紹介していくと、

  • 夫の実家にやってきた香織が、亥歳なのになぜか茶室に虎の掛軸がかかっていた理由を気にする物語
  • 修子の夫である昭が、息子の雅人に「中川堂薬房」を引き継いで引退しようとする物語
  • 5年ほど前から中川修子の庭を手入れするようになった襄(じょう)が、長年会っていないイギリスにいる父のことを思い出す物語
  • 茶室に長い間棲んでいる白蛇と座敷童の物語
  • 書家として10年夢を追いかけてきた坂本が夢敗れて実家に帰る物語

どれも茶道の先生である中川修子とつながりのある人たちの物語が描かれているんですよね。

伊吹有喜さんの小説『BAR追分』では、BAR追分というお店を中心に、美味しい食事とお酒が飲みたくなる物語が描かれていましたが、

伊吹有喜『BAR追分』はつらいことがあったときは美味しいものを食べようと思える物語
つらいことがあったとき、どうしていますか? 私は大好きなB‘zの音楽を聴いてストレスを発散していますが、 伊吹有喜さんの小説『BAR追分』を読んで、美味しいものを食べるのもありかもと思えました。 美味しいものを食べて、また明日から頑張...

この小説では、茶道の先生を中心に人とのつながりが楽しめる物語が描かれていました。

感想②:ムダにこそ意味がある

先ほどあらすじで、星那は茶道を習いはじめたと書きましたが、

稽古に行くと覚えることがどんどん増えていきました。

しかし、お点前のなかで繰り返される動作の多くは、「どうしてやるの?」と疑問に思うようなことばかりでした。

そもそも、茶道とはなにを習うものなんだろうと疑問に思います。

日常生活のなかで、誰かに抹茶を点てるなんて場面はまずありません。

それにも関わらず、雁字搦めのオリジナリティの欠片もない動作を反復し、頭に叩き込んだところで何の役に立つのかと思っていたんですよね。

しかし、ある出来事があって、お茶の不便さや非効率さにこそ、何かの答えがあったりすることに気づきました。

浅田次郎さんの小説『天切り松 闇がたり1』では、効率を上げて無駄を減らすのは自殺行為かもしれないと思える物語が描かれていましたが、

浅田次郎『天切り松 闇がたり1』感想/効率を上げるのは自殺行為!?
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この小説でも、無駄を切り捨てた先に待っているのは、時間に追われる人生だとわかる物語が描かれていました。

感想③:自分を取り戻せる場所を持ちたくなる

さて、この小説では、「自分を取り戻せる場所を持とう」をテーマに描かれているように思います。

ここまで紹介してきたように、主人公の星那は満たされないプライベートを仕事の忙しさで埋めてきましたが、物足りなさを感じていました。

仕事で認められて、貯金できるだけの収入も得ており、一緒に何かを楽しんだり、泣き言を聞いてくれる友人もいましたが、それでも物足りなさが消えませんでした。

それは、情熱とまでは言いませんが、もっとゆるやかに、ひとつの物事にこだわりを持ちたいと思っていたからです。

コンビニの商品で簡単に食事を済ませ、ネット通販で買い物をして、壊れたりすればゴミの日に出せばいい、という生活は便利でしたが、たまに嫌になります。

古くなったら、要らなくなったら、さっさと取り壊し、新しく建て直す不動産屋の仕事と同じで、本当に大切なことを見失っている気がしたからです。

だからこそ、茶道という心温まる一服、知的な仕掛け、何気ない会話が味わえる場所、

すなわち、忙しくて自分を見失いそうになったときに、ゆったりとした時間が流れている、自分と向き合える場所が必要だと痛感したんですよね。

凪良ゆうさんの小説『滅びの前のシャングリラ』では、地球滅亡を前にして自分と向き合う人たちの物語が楽しめましたが、

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当たり前の日常に感謝していますか? 私はどうしてもおざなりにしてしまいがちですが、凪良ゆうさんの小説『滅びの前のシャングリラ』を読んで、当たり前の日常に感謝したくなりました。 それだけでなく、自分と向き合って生きていこうと思える物語だっ...

この小説では、星那の姿を通して、自分を取り戻せる場所を持ちたくなる物語が描かれていました。

まとめ

今回は、一色さゆりさんの小説『飛石を渡れば』のあらすじと感想を紹介してきました。

忙しい毎日に追われても、自分を取り戻せる場所があれば、人生は豊かにできると思える物語が楽しめるので、気になった方は、ぜひ実際に読んでみてください。

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