小さな悪意をもって生きていませんか?
もちろん、誰もが小さな悪意をもつことはありますが、辻堂ゆめさんの小説『コーイチは、高く飛んだ』を読んで、
その悪意を実行すると、条件が重なれば、取り返しのつかない大きな事件につながることがわかりました。
軽はずみな行動が、人生を大きく左右するかもしれないことに気づける物語なんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 体操選手が主人公の物語に興味がある人
- 小さな悪意が大きな事件を引き起こすミステリーに興味がある人
- 驚きのある叙述トリックが好きな人
- 辻堂ゆめさんの小説が好きな人
あらすじ:妹が植物人間になった体操選手の物語
物語の主人公は、高校生の結城幸市。
彼は幼い頃から体操のコーチをしている両親に育てられ、
全日本選手権の鉄棒で優勝するなど、オリンピック候補として世間の期待を受け止めながら体操に励んでいました。
ところが、ある日。
多くのマスコミが取材に来ている前で得意の鉄棒を披露したところ、プロテクターが突然切れて落下します。
幸いにも大きな怪我には至りませんでしたが、二週間前にも、つり輪が切れて落下する事故が起きていました。
実は幸市の父も、かつて高校の全国大会で総合優勝を飾っていながらも、
日体大入学後に負った靭帯断裂の大怪我で、選手としての道を諦めざるを得なくなっていたのです。
だからこそ、両親は幸市のことを心配していたのですが…。
大きな事故にあったのは、幸市ではなく、妹の似奈でした。
彼女は歩道橋の階段下で倒れていたところを発見され、頭部に怪我をして意思不明の重体になったと警察から連絡が来たのです。
こうして似奈は寝たきりになりましたが、
父が幸市が落下したときに使っていたプロテクターに切り目が入っていたことに気づきます。
さらに、似奈の事故も本当に事故なのか?と疑い始めました。
平均台でバク転や宙返りができる似奈が、雨でもない日に歩道橋の階段を踏み外したくらいで植物人間になるような大怪我をするのか?というのです。
このような不穏な状況の中で試合に臨むことになった幸市でしたが、更なる悲劇が彼に押し寄せてきて…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:親の期待を背負った体操選手を応援したくなる
体操を舞台にした物語といえば、ロサンゼルスオリンピックの金メダリストである森末慎二さんが原作の漫画『ガンバ!Fly high』が思い浮かびます。
この物語では、体操経験のないど素人の藤巻駿が、多くの人に励まされながらオリンピックで金メダルを取ることを目指す物語ですが、
同じくオリンピックで金メダルを取ることを目指す『コーイチは、高く飛んだ』では、
爽やかな『ガンバ!Fly high』とは対照的に、小さな悪意が渦巻いていました。
それは、幸市と似奈が親であるコーチの期待を受けられる、恵まれた環境にいると、周りの人たちが思っていたことが原因でした。
とはいえ、多くの物語では、親の期待は重荷として描かれていることが多いように思います。
タイトルからも親の期待が重荷になっていることがわかる山口恵以子さんの小説『毒母ですが、なにか』もそうですが、

ディズニー映画でも、親の期待や束縛から抜け出して自由になりたい主人公の姿がよく描かれています。
たとえば、映画『モアナと伝説の海』では、主人公のモアナが幼い頃からサンゴ礁の海の向こうの世界に興味を持っていましたが、
彼女の父は、モアナを自分の跡継ぎである村長にしたいと考えていたので、ダメだと言いつけました。

それでもモアナは…という展開の物語が多いように思いますが、
『コーイチは、高く飛んだ』のように、たとえ親の期待を受け止めても、今度は「周りから羨ましがられる」というプレッシャーと闘わなければいけないことに気づける物語でした。
感想②:複数の人たちの小さな悪意が渦巻いている
複数の人たちの小さな悪意が渦巻いている物語といえば、湊かなえさんの小説『白ゆき姫殺人事件』が思い浮かびます。
この物語では、イヤミスの女王と呼ばれる湊さんの小説だけあって、意図的な悪意が渦巻いています。
簡単に紹介すると、OLの三木典子が殺された事件について、彼女のまわりにいた人たちや、週刊誌の記者らが、小さな悪意をもって嘘で塗り固めた証言や報道を繰り返すんですよね。

一方で、『コーイチは、高く飛んだ』では、意図的なものだけでなく、誤解が引き金となった小さな悪意や心の弱さが連鎖して、
似奈が植物人間になる…という大きな出来事につながっていきます。
まるでドミノ倒しのように、小さな悪意が大きな事故につながっていく姿が描かれているので、
小さな悪意を持つことがあっても、決して行動に移すのはやめようと思える物語です。
感想③:ミスリードさせられるミステリー
『コーイチは、高く飛んだ』では、いわゆる叙述トリック…読者にあえて情報を伏せ、事実を誤認識させるトリックが使われています。
以前、紹介した辻堂ゆめさんの小説『あの日の交換日記』にも、叙述トリックが使われていたので、叙述トリックが得意な作家さんなのかもしれませんが、

得意なだけあって、ラストでは大きな驚きが味わえました。
ちなみに、叙述トリックで有名なのは、我孫子武丸さんの小説『殺戮にいたる病』だと思います。
サイコパスの主人公が人殺しをして逮捕されるまでの経緯が入念に描かれているので、読んでいて気持ち悪くなりますが、
最後に言葉では言い表せない驚きが味わえるので、すぐに最初のページから読み直したくなります。
一方、『コーイチは、高く飛んだ』では、そこまでの驚きはありませんでしたが、
「そうだったのか!」と騙される気持ち良さが味わえました。
驚きを味わいたい人におすすめの物語です。
まとめ
今回は、辻堂ゆめさんの小説『コーイチは、高く飛んだ』のあらすじと感想を紹介してきました。
デビュー作『いなくなった私へ』に続く二作目のミステリー小説ですが、前作同様に惹きつけられるストーリー展開にページをめくる手が止まらなくなります。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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