人はなぜ嘘をつくと思いますか?
もちろん、さまざまな理由が考えられますが、一番の理由は、理想と現実のギャップに苦しみたくないからだと思います。
嘘をついて自分や周りを誤魔化すことができれば、痛い思いをしなくて済むからです。
『最後の鑑定人』のおすすめポイントとあらすじ
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『最後の鑑定人』の感想
「彼に鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できない」と言われるほど凄腕の、元科捜研のエース・土門誠が、不可解な事件の真相に迫るミステリです。
矛盾する2つのDNA鑑定結果、放火犯が隠し通そうとする動機、過去に起きた未解決事件の真相に、土門が科学を駆使して立ち向かう展開に引き込まれました。
また、偏屈な土門がときどき人間味をみせたり、助手の高倉柊子が土門鑑定所で働くまでにさまざまな葛藤を乗り越えてきたことが描かれたりしていたので、登場人物にも引き込まれ、シリーズ化して、もっと深掘りして欲しいと思いました。
一方で、ストーリー展開がある程度読めてしまうので、真相が明かされても、それほど大きな驚きは味わえませんでした(ちょっとした驚きは味わえました)。
元科捜研のエースが、科学を駆使して、不可解な事件の真相に迫るミステリに興味がある方におすすめの小説です。
『最後の鑑定人』を読んで考えたこと
人はなぜ嘘をつくと思いますか?
もちろん、さまざまな理由が考えられますが、一番の理由は、理想と現実のギャップに苦しみたくないからだと思います。
『最後の鑑定人』に登場する人たちも、現実と向き合うことを怖れ、嘘をついていました。
たとえば、あらすじで紹介した物語では、2種類のDNA鑑定の結果から、元恋人を殺害し、その後、性的暴行を加えた犯人が、大学生の北尾洋介である可能性が高いことがわかります。
しかし、洋介は無罪を主張しました。
洋介が嘘をついているのか、他の誰かが洋介を陥れるために嘘をついているのかは別として、人を殺したという現実から目を背けるために、誰かが嘘をついていました。
他にも、12年前に強盗殺人をした犯人や、7年前に遊び感覚で人を殺した犯人たちが、その後、平然と普通の暮らしをし、警察に捕まってからも、自分は悪くないという幻想を抱き続ける姿に、嘘を積み重ね、周りだけでなく、自分まで騙し続ける恐ろしさを目の当たりにしました。
もちろん、これは極端な例ですが、さまざまな理由で嘘をついて、自分は悪くないと言い張っている人は大勢います。
しかし、現実を直視せず、嘘をついて逃げ回っていると、嘘と現実の区別がつかなくなる、ヤバい人間になってしまいます。
だからこそ、『最後の鑑定人』に登場する土門誠のような、嘘を指摘し、真実を明らかにする人が必要なのですが…。
自分のダメなところを指摘されるのはつらいものです。
それでも、自分のダメなところを受け入れて、一歩前に進まない限り、現実はひとつもよくなりません。
言い換えれば、現実を少しでも良くしたければ、嫌な自分と向き合う強さが必要です。
私も、そんな強さを身につけたいと思える物語でした。
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