桜木紫乃『家族じまい』感想/老老介護が当たり前になる日本に未来はあるのか?

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日本の総人口に対する高齢者の割合がどの程度かご存知ですか?

総務省統計局によると、2021年現在で65歳以上が29.1%を占めており、2040年には35.3%になると見込まれています。

つまり、3人に1人が高齢者になるのです。元気な老人が弱った老人を介護するのが当たり前の時代がやってきます。

そんな日本に未来はあるのでしょうか?

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都合の良い距離感をとっていると問題を乗り越える癖がつかない

桜木紫乃さんの小説『家族じまい』を読みました。

家族と都合の良い距離感をとってきた登場人物たちが、大きな問題に直面し、苦悩する姿が描かれている小説です。

たとえば、美容室でパートをしている智代は、夫・啓介の頭に十円玉大のハゲを見つけましたが、指摘できずにいました。

いちいち言葉にしない夫との関係が居心地がよく、これまで会話で何かを解決したことがなかったからです。

そんな智代にさらなる悲劇が訪れます。妹の乃理から電話がかかってきて、母がボケたかもしれないと言うのです。

智代も乃理も結婚して子どもがいましたが、智代の子どもたちは大きくなって家を出て行ったので、少しは面倒をみろと言われました。

両親とは疎遠になっていた智代ですが、このまま放っておくことはできません。

とはいえ、無計画に借金を重ね、気に入らないことがあると暴力を振るってきた父を助ける気にはなれず、夫にも相談できずに一人で悩んでいたところ…。という物語が描かれています。

私はこの物語を読んで、登場人物たちが問題を先延ばしにしてきたツケを払わされているように感じました。

人間は生きている限り、必ず何らかの困難に直面します。

湊かなえさんの小説『山女日記』に、「晴れた日は誰と一緒でも楽しいんだよね」というセリフが出てきますが、問題があったときに協力して乗り越えていけるかどうかが、家族として暮らしていけるかどうかの分岐点になります。

ところが、この物語の登場人物たちは、問題から目を背け、家族と都合の良い距離感をとってきたので、より大きな苦悩を背負うことになったのだと思います。

小さな問題に真正面からぶつかって乗り越える癖をつけておけば、大きな問題に直面しても乗り越えやすくなるからです。

智代については、好き勝手に生きてきた父と上手くやれとは言いませんが、せめて夫婦間では、問題から目を背けずに、向き合っておくべきだったのでは?と思いました。

家族と都合の良い距離感をとっている方は、気をつけた方がいいかもしれません。

老老介護の厳しさに衝撃を受ける

とはいえ、この小説を読んで何よりも衝撃を受けたのは、老老介護の厳しさです。

姉の智代は、父との確執があったので一定の距離を取りました。

妹の乃理は、親の愛情に飢えていたので、両親と一緒に暮らそうとしますが、ある事情があり、うまくいきませんでした。

こうなると、ボケた母・サトミの面倒が見られるのは、父・猛夫だけです。

とはいえ、80歳を超えた猛夫が、ボケた妻の面倒を見るのは、そう簡単ではありません。

「お腹が空いた」と言って、家にあるものをすべて食べようとするサトミを制しながら、家事をこなさないといけないので、かなりのストレスです。

それだけでなく、猛夫がストレスによる眩暈で倒れても、サトミは救急車を呼ぶことさえできませんでした。

自分の身体の心配をしながら、ボケた妻の世話をするのは、並大抵のことではありません。

しかも、猛夫は、これまで自分勝手に生きて、気に入らないことがあると暴力を振るうような人間だったので…。という老老介護の厳しさが描かれていたので、心が痛みました。

自分が年老いて猛夫の立場になったらと考えると、それだけで胸が痛くなるほどの恐怖が湧いてきます。

果たして自分に面倒が見られるだろうか?子どもに負担をかけてしまうのではないか?など、次々と不安が浮かんできます。

ましてや、冒頭に紹介したように、2040年には3人に1人以上が高齢者の時代がやってきます。

そうした未来がやってきたとき、どうすればいいのでしょうか。

簡単には結論は出ませんが、そんな未来が訪れたとしても楽しく暮らせるように、介護ロボなどが劇的に進化していることを強く願わずにはいられない物語でした。

老老介護の厳しさと家族の在り方について考えたい方におすすめの小説です。

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