「うちは技術があるのに商売が下手で…」とは日本の電機メーカーで働く技術者がよく口にする言葉です。しかし、これこそが海外勢に敗れた原因です。
民間企業であれば、「良い製品が売れる」のではなく、「売れるのが良い製品」と考えなければいけません。売れなければどんな素晴らしい技術も意味がありませんからね。
ところが今でも「うちは技術があるのに…」という技術者が大勢います。では、なぜそんな甘えた考えをするようになったのでしょうか。大きく三つの要因があるように思います。
電話料金・電気料金などの甘い汁を吸って生きてきたから
日本の電機メーカーは携帯電話で大敗しましたよね。iPhoneやギャラクシーなどのスマートフォンに全く太刀打ち出来ませんでした。その大きな理由としてNTTの言いなりになってきたことが挙げられます。
固定電話の時代は電話料金は郵政省が決めていました。当時は米国の10倍以上の料金でしたが、誰も文句を言いませんでした。多くのお金が税金のごとくNTTに流れていたんですよね。
NTTはその莫大な電話料金を設備投資という形で富士通、日立製作所、東芝、NECなどに流していました。だからこそ電機メーカーは儲かっていたのです。
もちろん、携帯電話の時代になっても、この収益構造は変わりません。NTTが望む端末を作れば、電機メーカーは儲かりました。
ところが、iPhoneの登場により顧客ニーズが大きく変わります。それでもガラケーを売り続けたいドコモが本気でスマホ事業に取り組むまで、日本メーカーは動くに動けませんでした。
その隙をついたのがソフトバンクとKDDIです。ドコモも急いでiPhoneの販売権を取りにいきましたが交渉は決裂。そこでドコモはギャラクシーをトップモデルとして扱いました。
その結果、NTTから日本メーカーに多くのお金が流れなくなります。NTTが望む端末を開発してきたのに、スマホが必要だからという理由で切り捨てられたんですよね。こうして日本メーカーの携帯電話事業はダメになりました。
電話料金と同じように、まるで税金のように徴収できる収入源がもうひとつあります。それが電気料金です。
電力10社に集められた税金は、設備投資の形で東芝、日立、三菱工業などの電力ファミリーに流れていました。
しかし、福島第一原子力発電所の事故で原発に対する技術力に限界があることが露呈します。東電を含めた電力ファミリーが事後処理にあたりましたが、いまだに溶け出した核燃料の在り処はわからず、炉心を冷やす過程で発生する汚水は増える一方です。貯蔵タンクは間もなく満杯になります。
その結果、東電は国有化になってなんとか生きながらえていますが、これまでのように設備投資という形で電機メーカーにお金を流せなくなりました。
こうして東芝などの電機メーカーに電気料金という名の税金があまり流れなくなったので、リストラで生きながらえるしかなくなったんですよね。
つまり、電話料金と電気料金という名の甘い汁を吸って生きてきたことに敗因があるように思います。
敗戦処理をきっちりしてこなかったから
こうして甘い汁が吸えなくなった電機メーカーですが、敗戦処理もきっちりしませんでした。
たとえば、東芝は歴代三代会長が粉飾をしましたが、メディアは大スポンサーである東芝に寛容でした。不適切な会計と呼び、粉飾とは決して言いませんでした。
さらに、そんな東芝を陰で支えてきたのが経済産業省です。東芝の経営が傾いては、原発を推進したい経済産業省と東電が困るので、スマートメーター・メーカーを買収するときには550億を出資し、ジャパンディスプレイにも2000億円出資しました。
つまり、粉飾と国の補助で敗戦をごまかしてきたんですよね。
パナソニックもそうです。三洋電機と松下電工の買収によって、プラズマ・液晶の失敗を帳消しにしました。1+1=3にするのが本来のM&Aですが、1兆円近いムダな投資をかき消すために1+1+1=2にしたのです。日立製作所も同じようにM&Aでごまかしました。
シャープもそうです。液晶の一本足打法と言われたシャープは、液晶から撤退すると会社の存在意義がなくなってしまうため、赤字になってももがき苦しむしかありませんでした。
2011年にはアップルに1000億近い資金を出資してもらい、テレビ用からスマホ用の液晶ラインに作り変え、事実上のアップル専用工場になります。その後、ホンハイに出資してもらい、ホンハイ傘下へ移動したことでようやく敗戦から抜け出すことができました。
つまり、どのメーカーも自力で敗戦処理をしたわけではないんですよね。なぜなら…。
次の一手が見えていないから
多くの事業を切り捨てた東芝は、国の補助でなんとか生きながらえていますが、次の一手は見えていません。
NECもNTTからの収益と自衛隊システムで生きながらえている状態。
パナソニックは住宅と車載電池で勝負を仕掛けていますが、どちらもパッとせず、富士通は何で勝負するのかまったく見えていません。
日立製作所はインフラ事業、三菱電機はFA事業と電機メーカーから脱却することでなんとか生きながらえ、シャープはホンハイの力でなんとか持ち直し、パソコンとテレビを切り捨てたソニーはプレイステーションで戦うしかありません。
このように、どのメーカーも明確な次の一手が見えていないんですよね。だからこそ、「うちは技術があるのに商売が下手で…」なんて言い訳をするしかないのです。
日本の電機メーカーが大好きな私としては、今後もこのような悲しい状態が続かないことを願っています。
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