「伝統なんて何の役に立つの?」なんて思っていませんか。
現代に生きる私たちは、科学技術の発展により、昔よりも豊かで快適な暮らしをしていますが、その一方で心の豊かさを失ってしまったように思います。
碧野圭さんの小説『凛として弓を引く』の主人公もその一人。自分に自信をもてずに他人に振り回されていましたが、心の中では他人の批判ばかりしていました。
そんな彼女が、弓道と出会い、自信を取り戻していく姿に惹き込まれる小説です。
『凛として弓を引く』の情報
おすすめポイント
『凛として弓を引く』のあらすじ
4月から高校生になる矢口楓は、引っ越してきた家の近くにある神社で弓道場をみつけます。
そこには、大人たちに交じって凛々しい姿で弓を引くイケメン高校生がいたので、見とれていたところ、「弓道に興味があるの?」と声をかけられ、体験教室に参加することになりました。
とはいえ、楓は高校ではテニス部に入ろうと決めていたので、体験教室だけにしようと考えていましたが、実際にテニス部に入ると、先輩のしごきがきつく、一緒に入部した友達に引きずられて辞めてしまいます。
その後、体験教室で一緒だった同学年の真田喜美に誘われた楓は、断り切れずに弓道教室に通うようになりますが…。
『凛として弓を引く』の感想
自分の意見が言えない主人公が成長していく姿に惹き込まれる
『ONE PIECE』や『僕のヒーローアカデミア』など、人気がある漫画や小説では、主人公が苦難を乗り越え、成長していく姿が取り上げられています。
それは、登場人物たちが成長していく姿に自分を重ね、心が揺さぶられるからだと思います。
『凛として弓を引く』でも、もうすぐ高校生になる楓が弓道と出会い、「自分の意見が言えない」といった弱さを克服していく姿が描かれています。
苦難と呼べるほどの大きな壁にはぶち当たりませんが、幅広い年齢や職業の人たちと出会い、さまざまなアドバイスや指摘を受けることで、自分と向き合っていきます。
そんな現実的な成長物語に惹き込まれました。
他人の顔色を窺う主人公が弱い自分と重なる
数年前に『一億総ツッコミ時代』という本が流行りましたが、今でも多くの人たちは批判されることを恐れ、批判する側にまわって、なんとか自分を保っています。
『凛として弓を引く』の主人公・楓もその一人でした。
他人からの批判を恐れて、高校に進学する前から入ろうと決めていたテニス部を簡単に辞めてしまい、やろうとも思っていなかった弓道を始めます。
その一方で、弓道を始めると、心の中ではツッコミばかり入れていました。
「正座ができるようになっても普段使うところなんてないのに」とか、「神棚の前で礼をするなんて軍隊みたいだ」とか、「模範演技も立ったり座ったりせずに一度にやればいいのに」などなど。
このように、他人の顔色を気にして自分の意見は言わないのに、心の中では他人を批判ばかりしている楓の姿が、弱い自分と重なり、客観的に自分と向き合うことができました。
伝統文化に触れて自信をつけたくなる
読書好きであれば、一度は「古典を読め!」と言われたことがあると思います。
とはいえ、古典は新刊本に比べて読みにくく、理解しづらいため、どうしても避けてしまいがちです。
しかし、過去から読み継がれてきた作品には、それだけ多くの人の心を揺さぶり、得られるものも多くあるからこそ、現代にまで読み継がれているのだと思います。
これは、弓道でも同じです。
武士道の流れを汲む弓道は、最近流行りのインナーマッスルを鍛えるトレーニングに比べて、身体だけでなく心も鍛えられます。
『凛として弓を引く』でも、楓が弓道を通して自信をつけていく姿が描かれており、過去から受け継がれてきたものには、それだけの価値があるという作者の思いが伝わってきました。
正座や掃除などを無意味だと否定するのではなく、その意義を知り、実践していけば、心身共に鍛えられることがわかり、実践したくなりました。
私も弓道を始めてみよう…とまでは思えませんでしたが、読書好きとして古典には挑戦しようと思います。
まとめ
今回は、碧野圭さんの小説『凛として弓を引く』のあらすじと感想を紹介してきました。
自分の意見が言えない主人公が、弓道を通して幅広い年齢や職業の人たちと出会い、さまざまなアドバイスや指摘を受けることで、成長していく姿に惹き込まれる物語です。
また、過去から受け継がれてきたものには、それだけの価値があるという作者の思いが伝わってきたので、伝統文化に触れてみたくなりました。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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