この世界は平等だと思っていませんか?
私は幼い頃に貧乏だったので、残酷な思いを味わってきましたが、
月村了衛さんの小説『土漠の花』を読んで、改めてこの世界は残酷だということに気づかされました。
自分の欲望を満たすために、平気で他人を犠牲にする人たちがいるんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 自衛隊が主人公の物語に興味がある人
- 民族紛争を描いた物語を読んでみたい人
- 戦争ミステリーが好きな人
- 月村了衛さんの小説が好きな人
あらすじ:命の危険に晒される自衛隊員の物語
物語の舞台は、ソマリアとの国境まで数十キロしか離れていないジプチ。
ソマリアの海賊に対処するために、海上自衛隊と共にジプチに派遣されてきた陸上自衛隊第1空挺団12人は、
墜落したヘリの捜索救助活動に励んでいました。
ところが、その夜。3人のソマリア人女性が助けを求めてきたことで、民族紛争に巻き込まれることになります。
ソマリアには六つの大きな氏族があり、昔から争いを繰り返してきたのですが、
突如、ワーズデーンという氏族が一方的な虐殺を開始し、老人も子供も片端から撃ち殺したので助けてほしいと言うのです。
この話を聞いた吉松隊長は、彼女たちを避難民として保護することにしますが…。
その直後、四方から銃声が轟き、隊員2人と女性2人が亡くなります。
さらに、吉松隊長らがワーズデーンの民兵に取り囲まれたので、他の隊員たちも高機動車から連れ出され、銃を突きつけられました。
彼らはアスキラという保護しようとしていた女性を指差し、ソマリア語で何かを叫んでいます。
「ビヨマール・カダン…石油…?」と聞こえた吉松隊長は、毅然とした態度で、
「我々は日本国の自衛官であり、海賊対処任務に派遣されている部隊である。貴官らは一方的に我々を攻撃し、複数の兵士を殺害した。これは国際的に―」
と英語で話している途中に、彼らのひとりが西瓜のような丸いものを投げてきました。
それは、自衛隊員の首でした。さらに、このことに怒った吉松隊長の額を無造作に銃で撃つ抜きます。
こうしてなす術がなくなった自衛隊員たちでしたが、
たまたまトイレに行っていた隊員が小銃で反撃したことで、なんとかこのピンチを抜け出しました。
果たして自衛隊員たちは生きてジプチにある拠点に戻ることができるのか!?
という物語が楽しめる小説です。
感想①:戦場で生き延びるには戦うしかない
あらすじでも紹介したように、何の前触れもなく次々と人が殺されていく状況に追い込まれた自衛隊員たちは、
生き延びるために、仕方なく相手を撃ち殺します。
もちろん、誰もが人を殺したいとは思っていませんでしたが、生き延びるためには仕方ありませんでした。
今村昌弘さんの小説『屍人荘の殺人』でも、主人公たちが似たような状況に追い込まれます。
映画研究部のメンバーと一緒に心霊映像を撮るためにペンションにやってきた主人公たちでしたが、
その近くで開催されていた野外ライブの観客たちがゾンビ化して、襲いかかってきたのです。
このとき、主人公たちは生き延びるために、ゾンビ化した人たちを次々と倒していきましたが、
『土漠の花』で描かれているワーズデーン氏族も、自衛隊員にとっては、ゾンビと大差ないように思います。
つまり、戦場に放り込まれたら、生き残るためには、誰かを犠牲にするしかないんですよね。
漫画『進撃の巨人』でも描かれていますが、この世界は残酷だという事実に改めて気づかされる物語です。

感想②:法律は何の役にも立たない?
とはいえ、本来であればワーズデーン氏族にとっても、日本人を殺害することには大きなデメリットがありました。
国際紛争に発展する可能性が高いので、簡単には殺せないはずです。
しかし、彼らは闇に葬れると見込んでいたんですよね。
自衛隊員がいた場所はアフリカの土漠。
死体や武装を地中に埋めてしまえば、自衛隊員は「謎の消滅」を遂げることになります。
通信手段さえ奪ってしまえば、深層は闇の中に葬れると考えていたのです。
一方の自衛隊員たちも、法律上は銃が撃てない状況にいました。
とはいえ、本気でこちらを殺そうとしている相手に、生半可な反撃では生き延びることなどできません。
そこで、自衛隊員たちは本気で相手を殺害することにしますが…。
このような物語を読んでいると、法律はあまり意味を成していないように思えるんですよね。
伊坂幸太郎さんの小説『サブマリン』の感想でも書きましたが、現実とあっていない法律がいまだに多くあるように思います。

感想③:戦争はなくならないのか?問題について少し考えてみる
この世界では、今もどこかで戦争をしています。
誰かが自分の利益を増やすために、他の誰かを犠牲にしようとしています。
こんなとき、漫画『ONE PIECE』のように、自分の利益を度外視した誰かが、
自分の利益ばかり追い求める誰かをぶっ飛ばして、利益が分散されるようになればいいのですが、

現実ではそんなことは起こりません。人は誰でも欲望にまみれているからです。
もちろん、戦争をすれば多くの人が亡くなっていくので、それを回避するために、ロボットを使って代理戦争をするという話もありますが、
どちらにしても人間の果てしない欲望がある限り、戦争もその犠牲になる人も減らないように思います。
とはいえ、出来ることなら、誰とも争わずに、仲良く生きていける未来が築ければ…と思える物語でした。
まとめ
今回は、月村了衛さんの小説『土漠の花』のあらすじと感想を紹介してきました。
2015年の本屋大賞5位になった物語でもあるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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