モンスターペイシェントが医療の未来を閉ざす/南杏子『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』感想

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日本のサービスは過剰だと言われています。

実際、日本で暮らす私たちは、荷物の宅配時に不在でもペナルティを受けなかったり、商品を購入すれば出口まで運んでもらえ、24時間空いているコンビニのおかげで、いつでも欲しいものが手に入るなど、過剰なサービスを当たり前のこととして受け取っています。

こうした過剰なサービスは、ホテルや飲食業、宅配業にとどまらず、今では学校や医療機関にまで波及しています。

しかし、南杏子さんの小説『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』を読んで、過剰なサービスを当たり前のこととして受け取るのは、今すぐやめなければいけないと思わずにはいられませんでした。

病院に対して過剰なサービスを要求するモンスターペイシェントの姿と、そうした患者が増え続けた先にどういった未来が待っているのかが描かれていたからです。

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『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』の情報

タイトル ディア・ペイシェント 絆のカルテ 
著者 南杏子 
おすすめ度 4.0 
ジャンル ヒューマンドラマ 
出版 幻冬舎 (2020/1/24) 
ページ数 341ページ (文庫本) 
貫地谷しほりさんが主演でテレビドラマ化されています。

おすすめ度の理由

  • モンスターペイシェントに怒りが湧く
  • 病院がデパート化していることがわかる
  • 自分を犠牲にしてでも患者のために奮闘する医師たちの姿に感動する
  • 同じパターンが繰り返される

『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』のあらすじ

病院を「サービス業」と捉える佐々木記念病院で内科医を務める千晶は、日々、押し寄せる患者の診察に追われていた。そんな千晶の前に、嫌がらせを繰り返す患者・座間が現れた。座間はじめ、様々な患者たちのクレームに疲弊していく千晶の心の拠り所は先輩医師の陽子。しかし彼女は、大きな医療訴訟を抱えていて……。現役医師による感動長編。

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『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』の感想

昔に比べて患者の要求が過剰になっている

私が幼い頃は、多くの患者は治療さえ受けられればいいと考えていたように思いますが、今ではサービスに不満があれば苦情を言うのは当然だと思っています。

この背景には、セカンドオピニオンの浸透により、患者が納得のいく治療法を選択できるようになったことが関係しているように思います。

もちろん、患者の自由度が増すことは良いことなのですが、一部の患者は要求が過剰になり、医師の診察を受けるというよりも、自分の要求を叶えさせるために病院に来ているようにさえ思えます。

たとえば、認知症になった患者は、自分が認知症だと認められず、別の診断を下して欲しいと要求し、精神安定剤でやる気が出ると知り合いから聞いた患者は、必要性がなくてもその薬を出せといい、癌の可能性があると診断された患者は、検査を怖れる一方で、すぐに検査をしないと別の病院に行くと脅すなど、自分の要求ばかり押し付けてきます。

デパートにでも来ている感覚で、自分の要求を叶えるために医師がいるのだと勘違いしています。

そのため、救急車で運ばれてきたり、緊急の治療が必要な患者のために夜間診療があるにも関わらず、コンビニ感覚で病院を訪れ、今すぐ花粉症の薬を出せと喚く患者さえいます。

こうした過剰なサービスを求めるモンスターペイシェントのせいで、日本の医療機関が疲弊していることがわかりますが、実は病院にも問題があります。

病院は医師に問題を丸投げしている

そもそも病院が毅然とした態度でモンスターペイシェントに臨めば、患者は医師に過剰な要求はできないはずです。

それにも関わらず、モンスターペイシェントがのさばるのは、病院が利益を出すために、モンスターペイシェントの満足度まで高めようとしているからです。

ネットやSNSには、病院の口コミや満足度ランキングが溢れています。そのため、モンスターペイシェントのせいで評判が悪くなることを怖れているのです。

そこで、病院は通常業務をこなすのが精一杯の医師たちに、エスカレートする患者の要求にも応えろと問題を丸投げしています。

そのせいで、医師たちは休憩時間もなく働き続け、残業代ももらえず、患者の過剰な要求にも応えなければならなくなりました。

しかも、身も心も疲弊した医師たちが医療ミスをすると、患者からは医療ミスだと訴えられ、莫大な費用を請求されますが、病院は責任を取らず、医師個人に責任を負わせようとします。

このように、『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』には、「過剰なサービスを要求する患者」と「医師に責任を押し付ける病院」に振り回される医師たちの姿が描かれていたので、医師として働いている人たちのリスクの大きさに呆然としました。

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モンスターペイシェントが医療の未来を閉ざす

では、このような過剰なサービスを要求するモンスターペイシェントが増え続けたとしたら、一体だれが困るのでしょうか?

当然ですが、病院も利益が出なければ続けていくことはできません。

過剰なサービスを要求する患者に応え続けたせいで経営が悪化し、倒産する病院も出てくるでしょう。

このとき困るのは、病院ではありません。経営者は赤字になる前に手を引くので、困るのはやっとの思いで通院している高齢の患者たちです。

もちろん、患者と病院の理不尽な要求を聞いてまで働きたいと思う医師も減るでしょう。

ますます少子高齢化が進んでいく日本で、今以上の医師不足は致命的です。

このように、過剰なサービスを要求すればするほど、私たち自身の首を絞めることになるのです。

そんな悲しい未来を回避するには、過剰なサービスを当然のこととして要求するモンスターペイシェントにならないこと、またモンスターペイシェントは悪だと社会全体で対応していく必要があります。

もちろん、過剰なサービスの要求は医療に限った話ではありません。

給料が少ないのは政府のせいだ!と文句を言っている人たちもいますが、過剰なサービスの要求をやめるだけで、多くの人たちの働く時間が減り、時間当たりの給料は増えます。

過剰なサービスの要求が、自らの首を絞めていることに気づけるかどうかで、日本の未来は大きく変わっていくように思います。

まとめ

今回は、南杏子さんの小説『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』のあらすじと感想を紹介してきました。

過剰なサービスを要求する患者と、利益を優先する病院に振り回されて疲弊していく医師たちの姿に心が痛み、それでも患者のために奮闘する医師たちの姿に感動する物語です。

また、モンスターペイシェントの存在が医療の未来を閉ざしてしまうことがわかるので、少なくとも自分はそうならないように行動していこうと思える物語でもありました。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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