少し不思議な物語はお好きですか?
私は世の中には科学では説明できないことがまだまだあると思っているので大好きですが、
奥田英朗さんの小説『コロナと潜水服』は、少し不思議なだけでなく、前向きな気持ちになれる物語が楽しめました。
短編によっては物足りなさも感じましたが、感動できる物語が多かったんですよね。
『コロナと潜水服』の情報
おすすめ理由
- さまざまな悩みを抱えている人たちの再生物語、再出発物語が楽しめる
- あたたかい気持ち、前向きな気持ちなれる
- 少し不思議な短編が楽しめる
- 一部の短編でモヤモヤ感が残る
『コロナと潜水服』の簡単な紹介
今回は、奥田英朗さんの小説『コロナと潜水服』を紹介します。
少し不思議な体験を通して前向きに変わっていく主人公の物語や、ユーモアあふれる物語、心温まる物語など、5つの物語が収録されている短編集です。
妻の浮気やそっけない彼氏に悩んだり、追い出し部屋に異動を命じられて将来を不安に思う主人公たちが、
少し不思議な体験を通して、悩みを前向きに捉え、次のステップへと進んでいく物語が描かれているんですよね。
それだけでなく、ひとつひとつの物語があたたかく、ユーモアもあり、前向きな気持ちになれたので、一気読みしてしまいました。
とはいえ、ラストが少し物足りなく感じる短編もありました。
『コロナと潜水服』のあらすじと感想
ここからは、『コロナと潜水服』に収録されている5つの短編について、あらすじと感想を紹介していきます。
『海の家』:妻に浮気をされた作家の物語
あらすじ
物語の主人公は、作家の村上浩二。
彼には大学生の娘と息子がいましたが、2歳年上の妻が浮気をしたので、ひと夏の間、家を出ていくことにしました。
妻とギクシャクしている姿を子供たちに見られて、妻の浮気がバレるのを恐れたからです。
そこで浩二は、神奈川葉山町にある、海から歩いて1分の古民家を借りることにしましたが、1週間経っても、2週間経っても妻からは何の連絡もありませんでした。
妻の洋子は、自分が悪いことをしても、相手が行動するのを待つ、ズルい人間だったからです。
そんな妻に対して、浩二はより一層の怒りが湧いてきましたが、住むようになった古民家で子供の足音が聞こえるようになり…。
感想
世の中には、大きく分けて二種類の人間がいます。
ひとつは、自分のことしか考えない、まわりを振り回していくタイプ。もうひとつは、他人の気持ちを意識しすぎて、感情をため込むタイプ。
私はどちらかといえば感情をため込むタイプなので、浮気をされた被害者にも関わらず、子供たちのことを思って家を出ていく主人公に共感しましたが、
その一方で、ラストまでそのモヤモヤした気持ちが解消されなかったので、あっけなく終わったように感じました。
現実はそんなに上手く行かないという意味が込められているのかもしれませんが…。
『ファイトクラブ』:追い出し部屋に異動を命じられた社員の物語
あらすじ
物語の主人公は、家電メーカーに勤める三宅邦彦。
彼には、専業主婦の妻と、高校生と中学生の子供がいました。
家のローンも20年残っており、車の月賦も支払い中だったので、追い出し部屋に異動を命じられても、プライドを捨てて会社にしがみつくしかありませんでした。
しかも、追い出し部屋での仕事は、本物の警備員たちの補助をするというものだったので、体力がない彼は役立たずでしかなく、自分の脆弱さにショックを受けます。
そこで邦彦は、同じく追い出し部屋に異動を命じられた同僚たちと一緒に、倉庫に放置してあった運動具で自分を鍛えることにしました。
こうして身体を鍛え始めた邦彦たちでしたが、ボクシングの真似事をしていると、工場の制服を着た年配の男性が現れて…。
感想
家電メーカーの社員が追い出し部屋に異動を命じられて、陰湿な嫌がらせを受けるという話は実際にあります。
『奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢』でも、その陰湿な嫌がらせが詳細に書かれていましたが、それでも会社にしがみつくしかない人たちがいるのも事実です。
この物語の主人公もその一人でしたが、工場の制服を着た年配の男性に本格的にボクシングを教わり、同僚たちとのスパーリングを通して闘争本能を掻き立て、プライドを取り戻していく姿に感動しました。
どのような環境に追い込まれても、逃げずに挑戦して結果を出せば、それが大きな自信となって泰然自若になれるのだと励まされる物語でした。
『占い師』:結婚相手を条件で選ぶフリーアナウンサーの物語
あらすじ
物語の主人公は、フリーアナウンサーの浅野麻衣子。
彼女は、ドラフト1位指名でプロ野球選手になった田村勇樹と付き合っていましたが、不安を感じていました。
勇樹はプロになって一年目に怪我をして二軍暮らしが続いていましたが、三年目になった今では大ブレイクし、世間からちやほやされていたからです。
しかも、そろそろプロポーズされるかもと思っていた麻衣子に対して、勇樹はまったくそんな素振りを見せませんでした。
そればかりか、肉体関係ばかり求めて、デートすらしてくれません。
こうして麻衣子は、不安で毎晩うまく寝付けなくなり、仕事にも支障をきたしそうになったので、事務所の社長に紹介された占い師を訪ねたところ…。
感想
結婚相手を条件で選ぶということは、相手も同じように条件で選んでいる可能性が高い…ということです。
つまり、つり合いがとれなくなった瞬間に、その関係は消滅してしまいます。
この物語の主人公も、条件で結婚相手を選んでいました。親が外交官だという帰国子女から始まり、医大生、そしてプロ野球選手と乗り換えてきました。
ところが、相手も自分と同じように、条件が良い人が現れたら乗り換えるとは想像もしていなかったんですよね。
とはいえ、因果応報で終わらず、そこから一歩踏み出していく主人公に励まされる物語でした。
『コロナと潜水服』:5歳の息子がコロナに感染した人や場所を見抜く物語
あらすじ
物語の主人公は、会社から在宅勤務を命じられている渡辺康彦。
そのおかげで康彦は、5歳になる息子の海彦と一緒に過ごす時間が増えましたが、ある日突然、海彦が「バアバにスマホして」と言い出します。
康彦がよくわからないまま実家に電話をかけると、海彦は母に向かって「バアバ、今日はお出かけしちゃダメ!」と繰り返し言いました。
こうして母はお出かけをやめましたが、その翌週に母が参加する予定だったコーラス・サークルでコロナ感染者が出たことがわかります。
それだけでなく、海彦は、康彦が座ろうとした公園のベンチにコロナウィルスがあることや、テレビに映るニュースキャスターがコロナに感染していることを言い当てました。
さらに、康彦がソフトウェア講習を受けて帰ってくると、「出かけちゃダメ!」といって、コロナに感染したことを告げます。そこで、康彦は…。
感想
目に見えないコロナウィルスが見える息子がいたら?という切り口で描かれているのが面白い物語です。
それだけでなく、コロナにかかった(と思われる)主人公が、家族に感染させないために潜水服を着て、自主隔離するという設定も笑えます。
コロナ禍で閉塞感を感じている人たちに、ユーモアあふれる物語を届けようという心意気を感じる物語でした。
『パンダに乗って』:前の持ち主の人生を追体験する物語
あらすじ
物語の主人公は、小さな会社を興して20年間頑張ってきたご褒美にコンパクトカーを購入した小林直樹。
彼は、若いころから欲しくて仕方がなかった「初代フィアット・パンダ」を日本中探し、新潟にある中古車店のホームページでようやく見つけました。
100万円ということもあり、早速購入して東京から新潟へ引き取りに行ったところ、想像していた以上に状態がよく、直樹は大喜びします。
しかし、年代物のカーナビに入力して目的地に向かおうとしたところ、まったく異なる場所に連れていかれました。
とはいえ、土地勘がない彼は、カーナビに従うしかなく、誘導されるままに運転していきましたが、連れていかれる場所すべてが前の持ち主に関係する場所だと知り…。
感想
車を大切にしてきた前の持ち主の人生を追体験するという物語です。
畠中恵さんの小説『しゃばけ』でも、「古いものには魂が宿る」をモチーフにした物語が描かれていましたが、この物語でも魂が宿った車の物語が描かれていたので、モノを大切にしたくなりました。
さらに、前の持ち主の人生が悲しく、その悲しみに寄り添う主人公の優しさが伝わってくる物語だったので、あたたかい気持ちになれました。
まとめ
今回は、奥田英朗さんの小説『コロナと潜水服』のあらすじと感想を紹介してきました。
少し不思議な体験を通して前向きに変わっていく主人公の物語や、ユーモアあふれる物語、心温まる物語が描かれていたので、世の中には目に見えない不思議が溢れているのかも…と思えてきます。
また、そんな不思議に気づけば、毎日はもっと豊かになるかもしれないと思える物語でした。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
コメント