新型コロナウイルス第3波(2020年12月〜2021年2月頃)が訪れたとき、どのような毎日を過ごしていましたか?
私は引きこもり生活をしていましたが、夏川草介さんの小説『臨床の砦』を読んで、想像以上に医療現場が逼迫していたことを知り驚きました。
この頃、「経済をまわせ」「もっと補助金をよこせ」という身勝手な人たちもいましたが、そんな人たちの気持ちさえも汲んで、患者と向き合う主人公に感動する物語です。
新型コロナウイルスの恐ろしさと治療にあたる難しさがわかる
新型コロナウイルス感染症は、ただの風邪だという人もいますが、恐ろしいのは急激に呼吸状態が悪化する患者がいるということです。
多くの患者は、軽い風邪の症状から始まって、数日から一週間程度で回復します。
しかし、一部の患者は断続的に熱が続き、不意に酸素濃度が下がり、肺炎であれば呼吸するのも困難な状態になっているにも関わらず、普通に歩くことができました。
つまり、ただの風邪ように思える症状で突然亡くなる人がいるということです。
そんな新型コロナウイルス感染症の治療にあたることになった医師たちも大変でした。
発熱した患者が病院にきたときは、車の中にいる患者に病院のiPadを手渡し、屋内にいる医師のiPadとつないでオンラインで診察することが原則になりました。
コロナ陰性が確認されるまで原則患者を院内に入れないためです。
安全のためとはいえ、ひとつひとつに複雑な手順と膨大な労力が必要であり、一般診療より多大な時間がかかります。
たとえば、iPadでの診断は難しく、特に年配の患者であれば、画面の中に顔の半分も映っていないことも多く、あれこれ注文すると怒り出すことさえあります。
それだけでなく、iPadに何度コールしても出てくれない高齢者もいるため、その度に防護服を着た看護師が足を運んで操作方法を教え直す必要がありました。
さらに、新型コロナウイルス以外で発熱している患者にも同じ手順を踏まなくてはいけないので、膀胱炎や痛風、虫垂炎でも2時間以上待たせてしまうことさえあるんですよね。
もちろん、治療の手間だけでなく、医師や看護師に感染するリスクもあります。
このように新型コロナウイルス感染症の恐ろしさと、治療にあたる医師たちの大変さが伝わってくる物語だったので、改めて感染予防を徹底しようと思えました。
世間と医療現場のギャップに驚く
先ほども紹介したように、新型コロナウイルス感染症の治療にあたるのは大変なので、多くの病院では受け入れ拒否をしていました。
たとえ受け入れると表明している病院でも、受け入れるのは、若くてECMOが必要な患者だけ(ほとんど起きないケース)と指定するなど、受け入れる気があるようには思えませんでした。
そこで、この物語の主人公である敷島寛治(しきじまかんじ)が勤める信濃山病院のような、小さくても本気で新型コロナウイルスと戦う決意をしている病院だけが奮闘していたのです。
敷島たち医師は休みを返上して患者と向き合い、昼食をとる暇もなく、自分たちの家族に新型コロナウイルスが感染しないように、病院に泊まったり、車で寝泊まりするなどの対応をして日々を過ごしていました。
もちろん、看護師も同じです。
日常業務に加えて、感染症病棟の掃除を業者が拒否していたので、トイレ掃除や風呂掃除を肩代わりし、休む間もなく働いていました。
また、軽症患者であっても売店への買い物にも行けないので、買い物の代行までしていました。
それにも関わらず、カラオケでクラスターを起こした若者たちの治療をしなくてはいけなくなったり、
テレビでは、経済に関する危機感や不安感の話題ばかりで、医療危機に関する報道は少なく、
政府は実行力のないスローガンを叫ぶばかりで具体案は何も出さず、
緊急事態宣言が発令されても、町には人が往来しているなど、世間と医療現場には大きなギャップがあったんですよね。
今ではワクチン接種者も増えましたが、引き続き警戒は必要なので、旅行やライブ、外食などを楽しむのはもう少し先延ばしにして、感染状況が落ち着くまでは、家で引きこもり生活をしようと思える物語です。
ラストは感動で涙がこぼれ落ちそうになる
さて、ここまで紹介してきたように、新型コロナウイルスに関わる医療従事者たちは、自分を犠牲にして治療に取り組んでいました。
だからこそ、一部の専門家が、「新規感染者は、若い元気な世代ばかりだから、医療にはすぐに影響が出ない。まずは冷静に対応を。」なんて的外れなコメントをしたことに腹を立てたり、
一部の飲食業界関係者が、「客が来なくて収入激減だ」「家賃や運転資金で大赤字だ」「もっと補助金を出して欲しい」と大声で叫ぶ姿に怒っていました(怒りを通り越して呆れてさえいました)。
新型コロナウイルスは、災害みたいなものなのに、彼らは自分勝手なことばかり言っていたからです。
また、経済を守るために、微妙な感染対策をして、医療危機を招いた政府に対しても、仕方がないことだとは思えず、口から怒りが溢れ出そうになっていました。
それでも敷島は、
自分だけが辛いと思えば、人を攻撃するようになる。自分だけが辛くないと思えば、踏みとどまる力が生まれる。
といって、自分勝手な人たちさえも受け入れて、目の前にいる患者に向き合っていくんですよね。
そんな敷島の姿に涙がこぼれ落ちそうになりました。
新型コロナウイルスは死者数が少ないから安全だと主張している人たちや、エビデンスもないデマを流している人たち、自分勝手な発言や振る舞いをしている人たちに、ぜひ読んで欲しい一冊です。
まとめ
今回は、夏川草介さんの小説『臨床の砦』を紹介してきました。
以上、3つの魅力がある物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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