本性を出して、嫌われたり、傷つけられたりするのって、つらいですよね。
そこで、猫をかぶって、いい人を演じてしまいがちですが、内館牧子さんの小説『今度生まれたら』を読んで、今すぐ本性をさらけ出したくなりました。
「人生100年」と言われる時代に、100年も猫をかぶり続けて、後悔して死んでいきたくないと強く思ったからです。
『今度生まれたら』の情報
おすすめポイント
『今度生まれたら』のあらすじ
70歳になった佐川夏江は、夫の寝顔を見ながら「今度生まれたら、この人とは結婚しない」とつぶやきました。
夫はエリートサラリーマンでしたが、退職してからはケチになり、「蟻んこクラブ」というお金のかからない歩く会で、余生を楽しく過ごしています。
二人の息子も独立して別の道を歩んでいたので、自由に過ごせる時間が増えましたが、これまでの人生を振り返ると、「本当にこれで良かったの?」「進学や仕事など、別の道があったのでは?」と悩むようになりました。
そんなとき、有名な弁護士で、テレビの報道番組にも出ている高梨公子の講演会に参加することになった夏江は、彼女の言葉をきっかけに新たな道に進めるかもしれないと期待を膨らませますが…。
『今度生まれたら』の感想
【悲報】時代の風潮に合わせ過ぎると後悔する
夏江は、「元気をもらう」とか「夢をありがとう」といった常套句ばかりいう女性を、つまんねー女だと思っていました。
しかし、彼女が過ごした青春時代は、「女の幸せを得る=男から幸せをもらう」のが常識でした。
そこで夏江は、大学に進学できるほど頭がよかったのに、短大を卒業して、一流企業に入り、お茶くみをしながら良い男を見つけ、寿退社をする人生を選びます。
本当は頭がいいのに、猫をかぶって、つまんねー女のふりをして過ごしてきた結果、70歳になった今では、何ももっていないバアサンになりました。
夫・和幸から、「そりゃ違うよ」「そうは言うけどね」「わかってないよなぁ」という幼稚な俺様根性の否定語を言われても、「そうか!あなた、さすがね」と持ち上げる日々を過ごしていました。
一方で、夏江よりもバカな高校を卒業した高梨公子は、今では弁護士になり、テレビの報道番組にも出演するほど活躍しています。
そんな夏江の姿を通して、時代の価値観はすぐに変わるので、時代の風潮に自分を合わせすぎると後悔することになる…ということが、痛いほど伝わってきました。
【鉄則】人生は思い通りには進まない
とはいえ、夏江は、夫・和幸と仲が悪いわけではなく、二人の子供にも恵まれ、フルコースの人生を味わえたことに満腹感は得ていました。
しかし、満足感はありませんでした。
つまんねー女として猫をかぶって生きてきたのに、思い描いていた人生を歩めなかったからです。
夫はシンガポール法人の設立を成し遂げ、現地社長になる予定でしたが、ある出来事で、すべてが水の泡になります。
その後、会社を辞めた夫は、アルバイトでビジネス文書の翻訳をするようになり、エリート街道から外れました。
二人の息子たちも思い通りにはいきませんでした。長男は妻が冷たく家に居場所がないようで、次男は仕事を辞めて、将来がなさそうな有名なギター製作家に弟子入りするといい出します。
猫をかぶって「私」を生きてこなかった夏江は、何のために頑張ってきたのだろう、何のために生まれてきたのだろう…と悩むようになりました。
このように、今、「勝ち組」だと誇っていても、いつ転落するかわからない、人生は思い通りには進まないことが改めてわかります。
【感動】自分らしく生きるために新たな一歩踏み出す主人公
そこで夏江は、高梨公子の講演会に期待を膨らませて参加します。
しかし、高梨は「人生100年時代と思えば、まだ30年近くあるので、今日から具体的に考えて動いてください」「人生はいくつになってもやり直せます」と、ありきたりな言葉で励ましました。
夏江は、高梨の具体性のない励ましに、つまんねー女だなと思って腹が立ち、手を挙げて「期待していた話とは違って残念です」と意見を言います。
それに対して高梨は、「佐川さんは、自分にはこの先何もない、今と同じ暮らしが延々と続くのだと自分で決め込んでいるんです」と言い、
人間は死ぬまで何が起きるかわからないんです。そりゃ、悪いことも起こりうる。でも、それを考えて絶望していることこそ、人生の無駄です。とにかく楽しんで生きるためには、自分から動く。何かを始める。年齢は関係ない。
と続けるんですよね。
確かに、現状から飛び出すかどうかは個人の考え方であり、決断であり、たとえ人生150年あっても動かない人は動きません。
「失敗して痛い思いをしたくない」からですが、ボクシングでも相手のパンチを受けないように避けてばかりいると、間違いなく相手のパンチは当たりませんが、自分のパンチもあたりません。
楽しいことや変化やドキドキがやってこないのなら、痛い目を見ることになっても、自分から動くしかないのです。
そのことに気づいた夏江が、猫をかぶるのをやめて、新たな何者かに変身しようと一歩踏み出す姿に、感動する物語でした。
まとめ
今回は、内館牧子さんの小説『今度生まれたら』のあらすじと感想をご紹介しました。
猫をかぶって生きてきた主人公が、70年の人生を振り返り、何者かに変身しようとあがく姿に、心が動かされる物語です。
「人生はいくつになってもやり直せる…なんて具体性がない!」と思っている人にもおすすめです。
ぜひ読んでみてください。
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