真相を暴いて、不正を正すことが正義だ!と思っていませんか?
もちろん、そういう側面もありますが、『ぼんくら』を読んで、そうした正義が行き過ぎると、嫌いな相手を叩き潰すための名目になりかねないことに気づきました。
SNSで繰り広げられている正義の多くは、まさに嫌いな相手を叩き潰すための「クソ野郎の正義」なので、そうした人たちにバカにされても、人に恩情をかけられる人間でありたいと思いました。
『ぼんくら』のおすすめポイントとあらすじ
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『ぼんくら』の感想
名探偵とぼんくらな同心を比べれば、誰もが名探偵に魅力を感じると思いますが、実はぼんくらな同心も魅力的なことに気づきました。
『ぼんくら』の主人公で、同心の井筒平四郎は、人が泣いたり喚いたりするような面倒なことには関わりたくないと思っており、罪人に説教する立場になっても、それを面白いと思ったことは一度もありませんでした。
なぜなら、たいていの場合、やってしまったことはしょうがないし、罪人の申し状を聞いたり、事の成り行きがよくわかってきたりすると、「俺だって同じ立場に置かれたら同じことをやるなあ」と考えてしまうからです。
さんざん虐められて苦しめられてきた人が、いよいよ我慢ができなくなって逆襲するときには、力が入りすぎてもしょうがない、だから恩情を…と考えるような人物でした。
しかし、今の時代に、こんなことをSNSで呟けば、「警察が悪事に加担している!」「被害者の気持ちがわからないのか!」「法律も守れない人間は辞めてしまえ!」なんて罵詈雑言の嵐に晒されます。
それだけでは終わらず、過去の失言を探して罵られたり、何の確証もないのに推測でデマを広められたり、名前や住所を晒されたり、人格否定をされるなど、目に余る攻撃を受けることになります。
では、こうした正義の名のもとに攻撃を繰り広げる人たちは、一体どんな未来を期待しているのでしょうか。
『ぼんくら』では、仕事はできるのに、他人をバカにしてきたせいで、人望を失い、職を失った過去を恨み続ける人物が登場します。
その人物は、今では権力を手にしていたので、不正をした人たちに対して、罪よりも重い罰を与えるなど、徹底的にいじめていました。
まるで、SNSで不正をあげつらい、叩く人たちのようですが、その末路は悲惨なものでした。
他人を必要以上に攻撃してきたので、弱みを見せた途端に、自分がしてきたことと同じように、周りから徹底的に叩かれたのです。
どれだけ正しくても、誰かを徹底的に叩けば、その刃はいずれ自分に向けられます。
だからこそ、私は、バカにされても、人に温情をかけられる平四郎のようなぼんくらな生き方をしていきたいと思いました。
そんなぼんくらな平四郎が、いくつかの事件の謎を解き、ある家族の真相へと迫る、少し切なくて、心が揺さぶられる物語に興味がある方におすすめの小説です。
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