小説のタイトルって面白いですよね。
私は伊坂幸太郎さんの小説が大好きで、『アヒルと鴨のコインロッカー』など、タイトルに込められた意味に何度も驚かされてきましたが、
山本兼一さんの小説『利休にたずねよ』は、タイトルに込められた意味を考える面白さが味わえました。
タイトルも小説を楽しむ醍醐味の一部だとわかる物語なんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- タイトルに込められた意味を考えてみたい人
- 千利休が殺された理由を知りたい人
- 歴史ミステリーが好きな人
- 山本兼一さんの小説が好きな人
あらすじ:切腹に追い込まれた千利休の物語
物語は茶道の頂点に立った千利休が豊臣秀吉から切腹を命じられ、ついにその日がやってきたところから始まります。
ところが、切腹当日の朝。
利休は、京都の聚落亭にある一畳半の茶室で向かい合った妻の宗恩から、
どうしようもない怒りがたぎっていると言われました。
なぜなら、自分という妻がいながらも、利休の心の中には、自分よりも好きな女性が存在しているからだと言うのです。
利休は、この話に驚き、否定しますが、思い当たるところがありました。
利休が想っていたその女性とは、19歳のときに彼が殺した美しい高麗の女性のことで、
彼は、その女性が持っていた「掌にすっぽりおさまる緑釉の平い壺」を形見として肌身離さず持ち続けていたのです。
では、なぜ利休はその女性を殺したのでしょうか。
また、なぜ形見の壺を大事に持ちつづけているのでしょうか。
利休の過去を少しずつ遡りながら、この謎に迫っていくミステリーが楽しめます。
感想①:千利休が茶道の頂点に立てたのは愛の力?
茶道と聞いて私が思い浮かぶのは、
東野圭吾さんの小説『卒業』に出てくる「雪月花之式」という殺人トリックに使われたくじ引きゲームですが、
このように現代を生きる私たちにとって、茶道は文化であり、趣味であり、それ以上の価値はないように思います。
しかし、千利休や豊臣秀吉が生きていた時代には、茶道が大きな力を持っていました。
当時、「茶の湯」の道具には人を殺してでも手に入れたいほどの麗しさがあるとされ、
道具だけでなく、点前の所作にもそれだけの美しさがあると考えられていました。
音楽や絵画などを含めた芸術のなかで、最も優れていたのが茶道であり、その頂点に立っていたのが利休です。
では、なぜ利休は頂点に立てたのでしょうか。
この物語では、若い頃に愛し、殺してしまった女性に、
「もう一度、茶を振る舞いたい」「最高の茶を飲ませたい」「もてなしてやりたい」
と想い続けてきた結果、たどり着いたのだと描かれています。
漫画『鬼滅の刃』の主人公である竈門炭治郎が、妹の禰豆子のことを思って行動するのと同じくらい、
利休はその女性のことを想い続けていたんですよね。
つまり、愛の力が利休を頂点に立たせたのです。
愛の力ってすごいですね。
感想②:価値観の違いが面白い
一方の秀吉は、利休とは違い、茶道に愛なんてものを求めていませんでした。
もちろん、茶の湯を評価していましたが、それは「人を手管につかうための手段」として評価していたのです。
たとえば、五人の部下がいたとします。
五人のなかの二人だけ、狭い茶室に呼んでお茶をご馳走し、上杉家伝来の名宝などを見せたとしましょう。
すると、呼ばれた二人は誉れに感じ、呼ばれなかった三人は嫉妬します。
つまり、人の心を操る手段として「どうしても身につけておきたい芸術」だと考えていたんですよね。
漫画『僕のヒーローアカデミア』でも、個性を手に入れた登場人物たちが、
自分の欲望を満たすために個性を使うか、他人を救うために個性を使うかで、敵(ヴィラン)とヒーローに分かれて闘いますが、

それと同じように、同じ茶の湯でも、利休と秀吉が求めているものの違いがよくわかり、
また、この価値観の違いが利休の切腹へとつながっていくので、価値観の大切さと恐ろしさが伝わってくる物語でした。
感想③:タイトルに込められた謎を考えるのが面白い
さて、この本のタイトル『利休にたずねよ』には、どんな意味が込められているのでしょうか。
宮部みゆきさんは、文庫本の解説で、
「作者は利休に、何を『たずねよ』と呼びかけているのか。一人ひとりの読者によって、この<解>は異なるかもしれません。これこそが小説の醍醐味です」
と言われています。
さらに続けて、
「利休さん、あなたがもっとも深く愛した女性は、やっぱり宗恩ですね」
と尋ねることが、宮部さんの解だと言われています。
一方の私は、そもそも読者である私たちが利休に尋ねるのではなく、秀吉が悔し紛れに発した言葉が、「利休にたずねよ」ではないかと考えました。
秀吉は利休に切腹させたことを悔やんでいました。
茶道で利休に敵わなかった秀吉は、利休に切腹させたことで永遠に勝つ機会を失ってしまったからです。
さらに、利休の死によって、茶道の頂点は秀吉が手に入れることになります。
そんなある日。秀吉は部下から「どうすれば美の頂点が極められるのでしょうか」と尋ねられました。
このとき悔し紛れに放った言葉が、「利休にたずねよ」ではないかと考えているんですよね。
もちろん他にも解はあると思いますが、自分なりの解を探してみるのも、この小説の醍醐味だと思います。
まとめ
今回は、山本兼一さんの小説『利休にたずねよ』のあらすじと感想を紹介してきました。
第140回の直木賞を受賞した作品で、また映画化もされている魅力的な物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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