挫折を味わったことはありますか?
私は幼い頃に貧乏だったので、何度も挫折を味わってきましたが、
朝倉宏景さんの小説『あめつちのうた』を読んで、挫折していた自分も含めて好きになれそうな気がしてきました。
これまでの世界に踏ん切りをつけて、新たな世界に一歩踏み出そうと思える物語なんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- グラウンドキーパーという特殊な仕事に興味がある人
- 挫折を味わった人たちが再起する物語を読んでみたい人
- 感動できる物語が好きな人
- 朝倉宏景さんの小説が好きな人
あらすじ:グラウンドキーパーとして働く主人公の物語
物語の主人公は、新人グラウンドキーパーの雨宮大地。
彼は、高校を卒業して阪神園芸株式会社に入社し、希望していた甲子園球場のグラウンドを整備する仕事・グラウンドキーパーとして働くことになりました。
とはいえ、グラウンドキーパーは、その見た目ほど簡単な仕事ではありません。
トンボかけひとつとっても、一人前になるには3年以上の経験が必要と言われるほど、奥の深い仕事でした。
しかも、雨宮は顔はそこそこよかったのですが、子供の頃に「残念君」と呼ばれていたほど、運動神経がまったくありませんでした。
そのため、一年上の先輩である長谷に、ことごとく叱責されます。
「お前がいると、プラスやなくて、マイナスになるねん。早くやめてくれへんかなぁ。最近の若いヤツは…、って俺までひとくくりで言われるの、めっちゃ迷惑やねん」
なんて、何度も怒鳴りつけられていたんですよね。
そんな長谷の言葉に心身ともに疲弊していた雨宮でしたが、実は…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:グラウンドキーパーという特殊な仕事に興味が湧く
あらすじでも紹介したように、主人公の雨宮大地は、グラウンドキーパーという珍しい仕事をしていました。
私にとっては、これまで意識したことがなかった仕事だったので、俄然興味が湧いてきたんですよね。
甲子園のグラウンドは、マウンドを頂点として、放射状に緩やかな下り坂になっています。
急な降雨があっても、水がうまく外に向かって流れていくようになっているのですが、この状態をキープできるように整備しておかなければいけません。
もちろん、試合中にイレギュラーが起きたり、選手たちが転んだりしないように、土をならす必要もあります。
ところが、試合中は選手が走ったり、滑り込んだりして土が移動します。風でも土や砂は絶えず移動しています。
だからこそ、動いた土を元に戻すために、頻繁にトンボがけをする必要があるのです。
試合が終われば、トンボかけ以外にも、内野にはトラクターやバンカー、コントローラーといった整備カーを入れたり、外野にも芝刈り機を入れたり、散水を行う必要があります。
また、土は生きているので、翌日に試合がなければ、なるべく水を吸わせる必要もあります。
土の奥深くにまで水分を行き届かせ、弾力を持った強い土にするためです。
こうした整備の仕事に加えて、高校野球では、勝利した高校の旗を校歌に合わせてあげるのも、グラウンドキーパーの仕事なんですよね。
池井戸潤さんの小説『ルーズヴェルト・ゲーム』のように、野球選手をテーマにした物語は多くありますが、

野球場を整備するグランドキーパーという珍しい職業をテーマにした物語は初めてだったので、一気に惹きつけらました。
感想②:毒父に育てられた主人公
実は、雨宮大地がグランドキーパーになったのは、父親の影響でした。
彼の父は、元社会人野球の選手で、子供たちに野球が上手くなってほしいと思っていました。
しかし、先ほども紹介したように、雨宮は運動神経がまったくありませんでした。
小学校の入学式の翌日に、父から「これくらいボールが投げられないとバカにされていじめられるぞ」と言われて、キャッチボールを始めましたが、
どれだけ必死に投げても父の元には届きませんでした。
その日は、次第に雨がキツくなり、土砂降りになりましたが、それでも父は、母が迎えにくるまでキャッチボールをやめませんでした。
息子が運動会で同級生や父母たちから笑われるのが、死ぬほど嫌だったからです。
こうして父は、その日から雨宮に興味を持たなくなり、運動神経の良い弟に全てを注ぎ込むようになりました。
雨宮に戦力外通告をしたんですよね。
このように、雨宮の父は『毒父家族』にも描かれている毒父そのものです。

それにも関わらず、雨宮は、父に振り向いて欲しい一心で、野球部のマネージャーとして甲子園に行ったり、グラウンドキーパーという職業を選んだりしました。
そんな雨宮の姿に心打たれる物語です。
感想③:挫折を味わった人たちが再起する姿に感動
さて、この物語では、雨宮以外にも挫折を味わった多くの人たちが登場します。
一年上の先輩・長谷は、甲子園のスーパースターでしたが、腕を痛めてプロ野球選手への道が閉ざされていました。
甲子園でビールの売り子をしている近藤真夏は、重い病を抱えていたので、歌手になる夢に一歩踏み出せずにいました。
雨宮の同級生である一志は、同性愛者として雨宮に告白しますが、断られてしまい、
雨宮の跡を継いでマネージャーになった三浦くんは、膝に不安があったので、選手になる夢を諦めていました。
このように、登場人物のほとんどが挫折を味わっていましたが、雨宮のひたむきに頑張る姿に励まされ、再起していくんですよね。
北川恵海さんの小説『ちょっと今から仕事辞めてくる』でも、ある人物の励ましによって元気になっていく主人公の姿に感動しましたが、

こういった物語を読むと、「今すぐやるべきことに挑戦していこう!」という前向きな気持ちになれます。
まとめ
今回は、朝倉宏景さんの小説『あめつちのうた』のあらすじと感想を紹介してきました。
挫折を味わった人たちが再起する姿に感動できる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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