他人に共感していますか?
私は共感力がある方だと思っていましたが、
ソン・ウォンピョンさんの小説『アーモンド』を読んで、本物の共感力を持っている人はほとんどいないことに気づきました。
それだけでなく、愛情を持って接すれば、どんな人でも変わっていけることがわかる物語だったんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 生まれつき人の感情がわからない主人公の物語を読んでみたい人
- 本当の意味で共感力のある人はほとんどいない理由を知りたい人
- 愛情を注げばどんな人でも変わっていけることがわかる物語に興味がある人
- ソン・ウォンピョンさんの小説が好きな人
あらすじ:生まれつき人の感情がわからない主人公の物語
物語の主人公は、人の感情がわからないユンジュ。
彼は、脳にあるアーモンドの形をした扁桃体と呼ばれる部位が生まれつきうまく働かず、喜びも悲しみも、愛も恐怖も、ほとんど感じられませんでした。
熱いヤカンに触ってやけどをしても泣き叫ぶことなく、目の前で中学生が殴り殺されても、淡々と状況を伝えることしかできませんでした。
そんな彼をみた周りの人たちは、怒ったり、気持ち悪がったり、バカにしたり、叩いたりしますが、彼はそうしてぶつけられた感情さえも理解できませんでした。
そのため、ユンジュにとって、一緒に暮らしていたおばあちゃんとお母さんが世界のすべてでしたが、
その二人がナイフを振り回す男に目の前で刺されても…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:人は自分とは違う振る舞いをする人を排除したがる
あらすじでも紹介しましたが、ユンジュは人の感情が理解できなかったので、目の前でどんな出来事が起こっても顔色ひとつ変えませんでした。
たとえば、小学校に入学したとき、目の前で女の子が転んで泣き叫んでいても、彼はただただ見つめていました。
その姿をみたその子のお母さんは、「この子、本当に普通じゃないわね」と言って舌打ちしましたが、
ユンジュのおばあちゃんが「転んだのは運が悪かっただけだろう。なんで他人のせいにするのさ?」と言ったように八つ当たりされるようになります。
中学生が殴られて死にそうになっているのを目撃したときもそうです。
ユンジュは、そのことを近くにあったお店のおじさんに言いに行きましたが、
落ち着いているユンジュをみて、嘘を言うなと相手にしませんでした。
しかし、その後。警察がやってきて、自分の子供が殴り殺されたことがわかったそのおじさんは、
「お前がもっと真剣に言ってくれていたら、手遅れにならなかったんだ」
とユンジュに向かって怒鳴りましたが、真剣に話を聞かなかったのはそのおじさんで、ユンジュは関係ありません。
つまり、人は自分に起こった不幸を、自分とは違う振る舞いをする他人のせいにしがちなんですよね。
村田沙耶香さんの小説『地球星人』では、自分とは違う考えの人たちを認める心の余裕が必要だと思える物語が描かれていましたが、

この小説でも、自分とは違う考えの人を排除しようとする人たちの姿が描かれていたので、心が痛みました。
感想②:本当の意味で共感力のある人はほとんどいない
そんな人とは違う振る舞いをするユンジュに対して、将来を心配した彼のお母さんは「教育」を始めます。
車が向かってくる → できるだけ離れる、近づいたら逃げる
人が近づく → ぶつからないように片側による
相手が笑う → 自分も微笑む
※注意:表情については、どんなときも、とにかく相手と同じ表情をすると考えよう
など、暗記すべき内容を次から次へと増やしていきました。
普通の人が身につける本能的な行動基準を暗記させようとしたのですが、ユンジュはおばあちゃんとお母さんが刺された後も、ずっとある疑問を抱いていました。
それは、テレビ画面の中で、爆撃で両足と片方の耳をなくした少年が泣いていても、
彼を見ると、おばあちゃんやお母さんたちは笑顔を向けてきたからです。
どうして、あんなに痛がっている人がいるのに、その姿に背を向けられるのだろうと疑問に思っていたのです。
お母さんは、あまりにも遠くにある不幸は、自分の不幸ではないと言いましたが、
お母さんやおばあちゃんがナイフで刺されたとき、周りにいる人たちは、あまりにも恐怖と不安が大きかったからといって助けてくれませんでした。
共感力があるという人たちは、近くであれ遠くであれ、他人が困っていても、何も行動せずに、ただ眺めているだけです。
そんな人たちを見てきたユンジュは、感情がない僕とその人たちは一体何が違うんだろうと疑問に思っていたんですよね。
坂木司さんの小説『ワーキング・ホリデー』では、優しさとは言葉やモノではなく行動で示すものだとわかる物語が楽しめましたが、

この小説では、どれだけ共感力があると言っても、いざというときに行動できないのなら、その共感力は偽物だとわかる物語が楽しめました。
感想③:愛情を注げば人は変わっていける
さて、この小説では、「愛情を注げば人は変わっていける」をテーマに描かれているように思います。
ユンジュは、手がつけられないほど暴力を振るうゴニと出会って、初めて相手に興味を持つようになりました。
彼と出会ってすぐの頃は、ゴニから殴られたり蹴られたりしましたが、
なぜそんなに僕に絡んでくるんだろうと気になったからです。
その後、ユンジュは、走ることが大好きな同級生のドラに恋心を抱くようになったり、
上の階に住むシム博士に自分に起こった出来事を相談するようになったり、
最後は命がけでゴニを救おうとしたりと、感情を取り戻していくんですよね。
西加奈子さんの小説『ふくわらい』でも、愛情を注いでくれる男性と出会ったことで感情を取り戻していく主人公の物語が楽しめましたが、

この小説でも、愛情を注いでくれる人たちのおかげで感情を取り戻していく主人公の姿にグッときました。
まとめ
今回は、ソン・ウォンピョンさんの小説『アーモンド』のあらすじと感想を紹介してきました。
愛情を注げばどんな人でも変わっていけることがわかる物語が楽しめるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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