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 私たちは「自分の能力」を過大に評価してしまう傾向がある。たとえば、「あなたは運転がうまいですか?」という質問に対して、多くの人が「人並み以上にうまい」と答えている。どうやら私たちは「他人よりも優れている」と思い込んで生きているようだ。

 他にも、政治的、思想的な「思い込み」もある。たとえば、イスラム諸国で暮らす人たちに、「9・11のアメリカ同時多発テロ事件は、アラブ人のグループが実行したという報道があります。これは本当だと思いますか?」と尋ねてみたところ、少数の人たち――インドネシアでは20%、クウェートでは11%、パキスタンでは4%の人たちしか「本当だと思う」と答えなかったそうだ。その他大勢の人たちは、「イスラエル人」「アメリカ政府」「イスラム教徒以外のテロリスト」が実行したと答えたのである。

 もちろん、こういった思い込みは、イスラム諸国で暮らす人たちに限った話ではない。私たち日本人も、政治的、思想的、その他バイアスのせいで、偏った先入観をもっている。だから、知らないことまで「知ったかぶり」をしてしまうのだ。実際、「どれだけ賢い人でも、新しい情報を積極的に取り入れるより、自分がもともと持っている考えを裏付ける情報ばかりを集めようとする」という研究結果もある。

 ペンシルバニア大学の心理学教授、フィリップ・テトロックの研究もそのひとつ。彼の研究によれば、選り抜きの専門家たちでさせ「自分たちが知っている以上のことを知っていると思い込んでいた」という。彼は政治に焦点を絞り、官僚や研究者、国家安全保障の専門家、エコノミストなど300人近い専門家をリストアップして、彼らが立てた数千の予測を20年にわたって追跡した。その結果、彼らの予測は「チンパンジーが投げるダーツ」ほどの確率でしか当たらないことがわかった。さらに驚くべきことに、彼らは予測が外れたときでさえ、「圧倒的に自信過剰なこと」が多かったという。なぜか。

 それは、メリットがあるからだ。多くの人たちが未来予測をするのは、それが的中すれば莫大な見返りが得られるから。たとえば、今後12ヶ月以内に株価が3倍まで上昇すると予測し、実際にその通りになれば、この先何年も賞賛され、多くのお金が入ってくるだろう。しかし、大暴落しても問題にはならない。他人の予測した結果を逐一追跡しようとする人などほとんどいないからだ。だから、たとえ予測が外れてとしても「自信過剰」でいることができれば、次の予測ができる。すると、また多くの人たちがその予測を信じる――。

 イラク戦争が起きたのもそのためだ。アメリカは、主にサダム・フセインが大量破壊兵器をもっており、アルカイダと結託しているという主張のもとに、この戦争を実行した。もちろん、それ以上の理由――政治や石油、たぶん報復もあったのは確かだが、それでも「兵器とアルカイダ」が戦争の決め手になったのは間違いない。その結果、8年間で8000億ドル、4500人近いアメリカの人命、そして少なくとも10万人のイラク人死者という代償を払った。しかし――もし、戦争が始まる前に、「兵器とアルカイダ」の主張を広めた人たちが、それを真実だと「知っているわけではない」、「あくまでも予測」であることを認めていたら、イラク戦争は現実に起こったのだろうか。

 このように、私たちは知ったかぶりをしている人たちに惑わされて毎日を過ごしている。その結果、悲惨な結果を招いたりしている。だから、これ以上、悲惨な結果を招かないためにも、誰かの言うことを鵜呑みにしないで、自分の頭で考える力が必要だ。すなわち、ゼロベースで考える力だ。

 では、どうすればゼロベースで考える力が手に入るのか。それには次の三つの方法を試してみよう。

  1. 自分なりに問題を捉えなおす
  2. さかのぼって根本原因を考える
  3. 子どものように考える

 ここで、子どもの学力問題について考えてみよう。最近、昔に比べて子どもの学力が低下したといわれている。なぜか。多くの人たちは、「学校側に問題がある」と答えているが、本当にそうなのだろうか。

 たしかに、できの悪い教師よりもよい教師のほうが望ましいのは明らかだし、昔に比べて教師のレベルも低下している。女性の職業選択の幅が広がったため、優秀な女性が教師になるとは限らなくなったからだ。

 とはいえ、教師の力量にすべての原因を押し付けてはいけない。なぜなら、教師の力量や学校側の問題よりも、家庭教育の要因のほうが学力に大きな影響を及ぼすことが最近の研究で明らかになったからだ。

 どれだけ素晴らしい教師に出会えたとしても、家庭での学習時間がなければ限界がある。子どもが学校で過ごす時間は、1日7時間×年間180日、だいたい起きている時間の2割ほどしかない。そこから、友達と遊んだり、食事をしたり、教室間を移動する時間などを差し引けば、学校での学習時間はずっと少なくなる。すなわち、学校よりも家庭学習が占める割合が多くなるのだ。だから、「子どもの学力低下問題」は、学校側よりも家庭学習に原因があるといえる。

 では、なぜ多くの人たちは、学校側に問題があると騒ぎ立ててしまうのか。おそらくマスコミの影響だろう。自分のアタマで問題を捉えなおさず、マスコミのいうことを鵜呑みにしているからだ。だから――、自分のアマタで問題を捉えなおす必要がある。具体的には、「本当にそうなの?」という疑問を持つようにしていくのだ。そうすれば、簡単に騙されずにすむ。

 では、次に「さかのぼって根本原因を考える」方法について。たとえば、ドイツでは経済格差が問題になっていた。しかし、地域によって明確に経済格差が現れているわけではなく、パッチワークのように分布していたので、何が原因で経済格差が発生しているのかわからなかった。

 この問題の根本原因を特定したのがヨルグ・シュベンクッヒという経済学者である。彼はドイツにおける宗教のパッチワーク――南東部と北西部はカトリック、中央部と北東部はプロテスタント、それ以外の地域には両派が混在しているという分布と経済格差のそれを重ね合わせたところ、見事に一致していることに気づいた。カトリック地域の住民よりも、プロテスタント地域の住民のほうが稼ぎが多かったのだ。

 ではなぜ、プロテスタントのほうが稼ぎが多かったのか。ヨルグは次の三つの原因を突き止めた。

  1. プロテスタントはカトリック教徒より週あたりの労働時間が数時間多い。
  2. プロテスタントはカトリック教徒に比べて自営業が多い。
  3. プロテスタントの女性はカトリック教徒の女性よりフルタイムで働く率が高い。

 プロテスタントは、勤労という世俗的な概念を神から与えられた使命として受け入れているため、カトリック教徒に比べて熱心に仕事をしていたことがわかったのだ。だから、稼ぎが多かったのである。

 このように、望遠レンズを通して世界を眺めると、私たちの行動が何世紀もの前の根本原因によって左右されていることがわかる。そのため、どれだけ今をみつめても問題解決につながらないことがあるのだ。だから、目の前にある問題をなかなか解決できないときには、過去にさかのぼって問題を捉えなおしてみよう。

 では、最後の「子どものように考える」方法について。子どもはどんなに無茶なアイデアであろうと、臆せず口にする。これのマネをするのだ。よいアイデアと悪いアイデアを区別できさえすれば、多くのアイデアを思いつくのは、いいことずくめだからだ。

 具体的には問題をできるだけ小さく分割し、わかりきったことでも臆せず言ってみる。そうした後は、本当に実行できそうなアイデアに絞って考えればいい。

 ちなみに――、問題をできるだけ小さく分割するのは、大きい問題というのが私たちよりも利口な人たちが考え抜いてきた問題だからだ。それでもまだ問題として残っているということは、まるごと噛み砕くのはとても難しいことだとわかる。だから、できるだけ小さく分割して、小さな問題から解決してくのである。

 さて、今回はゼロベースで考える方法について3つの方法を紹介してきた。もし、新しいアイデアが生み出せない、生活がマンネリ化している、他人の影響を受けまくっていると悩んでいるようなら、試してみてはどうだろうか。そうすれば、これまでとは違った視点で、その問題と向き合えるはずだ。

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