webstation plus

(※『首折り男のための協奏曲』表紙より)


 伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』。様々なジャンルの7つの短編で構成されていますが、多くの物語に共通しているテーマが「理不尽」です。

 本当に理不尽な出来事ってありますよね。いじめや不倫、殺人などなど。そんな理不尽な出来事をテーマに、勧善懲悪はあるかも!?と思える物語が多数用意されています。

 今回は小説『首折り男のための協奏曲』のあらすじと感想を紹介します。

 『首折り男のための協奏曲』のあらすじと感想

1. 『首折り男の周辺』

 中学二年生の中島は、些細なことがキッカケで同級生たちから無視され、暴力を振るわれ、カツアゲされるまでに。たまたまカツアゲの現場に居合わせた首折り男が中島を救う!?

 プロの殺し屋がときどき人に親切をして、バランスを取ろうとしているのが面白い発想の物語でした。たとえば:

 ATMの操作で時間がかかっている人がいれば、怒っているフリをしてあげる。そうすれば、他の人たちは「そこまで言わなくても」と思い、それ以上怒ることはない。――そんな小さな親切を重ねているんですね。

 読みながら何度もにやけること間違いなしの物語です。

2. 『濡れ衣の話』

 三年前に息子を車ではねられた丸岡は、久しぶりに加害者の女性と再会し、殺意を抱きます。なぜなら、彼女に反省の色がまったく見えなかったから。しかし、実際に彼女を殺害したところ…。

 この物語でも首折り男が再登場。丸岡の人生のバランスを取ろうと行動します。

3. 『僕の舟』

 夫が寝たきりになった若林絵美は、60年ほど前に恋をした男性について調べて欲しいと黒澤に依頼します。その男性は当時医学生で、頭が良く、夫とは正反対のロマン溢れる人物だったと言うのですが…。

 世の中は広いようで狭いと思える物語。オチでにやけること間違いなし!?

4. 『人間らしく』

 自分の親の世話を妹にさせている間に浮気をしていた義理の弟。そんな彼の不倫の証拠を見つけて欲しいと黒澤に依頼が。一方その頃、少人数の塾に通い始めた”彼”は、他の生徒たちから執拗ないじめにあうことに。果たして彼らの運命は!?

 「理不尽な出来事があれば、世界はバランスを取ろうとする」がテーマの物語。それを特に物語っているのが、クワガタのブリーダーをしている窪田の話でした。

 窪田は普段はクワガタとは別の部屋で仕事をしていて、その合間に気が向けば隣の部屋のクワガタのケースを確認します。このとき、クワガタがひっくり返っていれば直し、理不尽な喧嘩が起きていてば、悪いクワガタに天罰を下します。そして、やられそうになった可哀想なクワガタを隔離し、バナナを与える――神のご加護というわけですね。

 もしかすると私たちが生きている世界もこれと同じなのかもしれません。神様は常にこっちを見ているわけではありませんが、見ているときには悪人には天罰を与え、善き人にはバナナを与えてくれる!?

 理不尽な出来事に遭遇しても、頑張ろうと思える物語でした。

5. 『月曜日から逃げろ』

 テレビ局に勤めている久喜山が黒澤に空き巣のテクニックを披露して欲しいと依頼してきます。もちろん黒澤は断りましたが、空き巣の証拠を掴んでいるらしく脅してきました。黒澤は久喜山から逃れられるのか!?

 構成が素晴らしい物語。トリックに気づくと、最初から読み直したくなります。

6. 『相談役の話』

 伊達政宗の息子・秀宗の相談役である山家清兵衛は、家来を愛し、民百姓を苦しめない真面目な人でしたが、その性格が藩士に嫌われ暗殺されます。しかしその後、暗殺に加担した人物が次々と死亡。山家清兵衛の祟りなのか!?

 この物語と似たような状況が現代で再現するというお話。黒澤も活躍します。

7. 『合コンの話』

 彼女が別の男性とピアノコンサートに出かけることになった尾花は、その腹いせに友人に誘われた合コンに参加します。しかし、そこには元カノの姿が!?

 おしぼりの向きで狙っている女性を明らかにするというのが面白い発想の物語。学生時代に戻れるなら、実際に使ってみたい技です。

 最後に

 小説『首折り男のための協奏曲』は、理不尽な出来事に遭遇しても世界はバランスを取ろうとするので、いつか良いことが起きる――「だから頑張ろう!」と思える物語が多数あります。気になった方はぜひ読んでみてください。

 関連記事

『フィッシュストーリー』は異なるジャンルの4作品が楽しめる中編小説

(※『フィッシュストーリー』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『フィッシュストーリー』。伊坂ワールドで大人気の泥棒・黒澤が活躍する『サクリファイス』『ポテチ』など、ジャンルの異なる4作品を集めた中編小説集です。  黒澤フ …

『愚者のエンドロール』はミステリーの謎に迫るミステリー小説

(※『愚者のエンドロール』表紙より)  米澤穂信さんの小説『愚者のエンドロール』。『氷菓』に続く古典部シリーズで、前作よりもミステリー要素が濃い作品です。  前作『氷菓』の紹介はこちら  今回は、ミステリーの謎に迫るミス …

今の生き方でどれくらい生きるつもり?/『終末のフール』感想

 「才能もないのに努力するのは時間のムダだ」とか、「新しいことを始めるよりも、今やっている何かを諦めることが大切だ」っていう人いますよね。実は、こういった言葉の背後には、「私たちはいつか死ぬ」という当たり前の事実が隠され …

【随時更新】絶対に読んで欲しい名探偵コナンのおすすめ事件まとめ

(※『名探偵コナン1巻』より)  1994年から連載されている漫画『名探偵コナン』。1ヶ月ほどかかりましたが1巻から93巻まで読みました。本当に面白い漫画です。  そこで今回は、全287話の中からぜひ読んで欲しいおすすめ …

『まほろ駅前多田便利軒』は心の奥底を揺さぶられる小説

(※『まほろ駅前多田便利軒』表紙より)  三浦しをんさんの小説『まほろ駅前多田便利軒』。人間の闇の部分に焦点を当て、それを暗すぎず、明るすぎず、ちょうどいい文体で描かれた小説です。読み進めていくうちに心の奥底を揺さぶるこ …

過去の自分を受け入れたくなる小説/『コーヒーが冷めないうちに』

 「4回泣ける」と評判の『コーヒーが冷めないうちに』を読みました。残念ながら、Amazonのカスタマーレビューに書かれている通りツッコミどころ満載の小説でしたが、設定が面白くて最後まで一気に読んでしまいました。  一見拙 …

「表現の自由」は守るべきなのか?/有川浩『図書館戦争』

 私たち日本人は、昔から「表現の自由」を制限されて生きてきた。たとえば、江戸時代。江戸時代には、キリスト教や幕府批判が禁止され、出版物から言論にいたる「幅広い表現」が取締りの対象であった。実際、幕府の軍事体制を批判する内 …

子どもには自由を与えよう/原田マハ『奇跡の人』

 『奇跡の人』をご存知だろうか。私は彼女の人生を絵本で知った。映画で観た記憶もある。彼女の名前はヘレン・ケラー。サリバン先生と共に「三重苦――目が見えない、耳が聞こえない、口が利けないという障害」を克服した文字どおり奇跡 …

あなたの人生がつまらない理由/下村敦史『生還者』

 コカイン疑惑報道を受けて、芸能界から引退することを決められた成宮寛貴さん。彼は、母子家庭で育ち、中学生のときに母親を亡くした後、弟の面倒をみるなど苦労を重ねた末に芸能界で活躍されていましたが、写真週刊誌「FRIDAY」 …

日本人にとってもはや戦争は他人事なの?/月村了衛『土漠の花』

 私がまだ子どもだった頃。終戦記念日にテレビをつけると、ほとんどのチャネルで戦争番組が放送されていた。「アニメやお笑いがみたい」と思っても、その日は諦めるしかなかったほどだ。  ところが、今では戦争番組そのものが減ってい …