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 理不尽な出来事、多いですよね。たとえば、私の知り合いでものすごく高い給料をもらっているのに、コーヒーを片手に悠々自適に仕事をしている人がいますが、その一方で、朝から晩まで血眼になって働いても、缶コーヒー1本も買う余裕のない人がいます。

 経済学的に考えれば、この状況は「社会に貢献している度合いに応じてお金が分配されているので当然のこと」になるのですが、どうしても理不尽だと思ってしまうんですよね。

 では、このような理不尽な目にあっている人たちは、その現状を受け入れ、諦めるしかないのでしょうか。

 小説『首折り男のための協奏曲』は、たとえ今は理不尽な目にあっていても、いつか必ず救われることを教えてくれます。七篇の短編から構成されており、なかでも『首折り男のための周辺』と『人間らしく』が、そのことを強く訴えかけていました。

 『首折り男のための周辺』は、中学二年生の中島が突然いじめにあう話。

 中島は軟式テニス部に所属しており、仲間たちと楽しく過ごしていましたが、「幽霊がいるかどうか」という他愛のない話で友人のひとりと意見が分かれたことをキッカケに、無視されるようになりました。

 その後、いじめは、どんどんエスカレートしていきます。物陰で殴られたり、大金をカツアゲされたり。そのため、中島は生きる希望を失ってしまうのですが…。そんな彼を助ける人物が現れました。それが「首折り男」。

 首折り男は、プロの殺し屋を生業としているため、身も心も穢れきっています。そこで、ときどき小さな親切を働くことで、バランスを取っていました。さすがに、悪いことばかりしていては、心がもちませんからね。だから、彼は見ず知らずの中島を助けることにしたのです。

 つまり、この物語は、たとえ今は理不尽な目にあっていたとしても、いつかは首折り男のような第三者が助けてくれることを教えてくれます。私たちが住む世界そのものがバランスを取ろうとしているからかもしれません。

 この考えがさらに色濃く出ているのが『人間らしく』。

 クワガタのブリーダーである窪田は、突然、自分はクワガタにとって神様のような存在だと言い出します。

 窪田の言い分はこうです。彼は、普段はクワガタとは別の部屋で仕事をしていて、その合間に気が向けば、隣の部屋で飼っているクワガタのケースを確認します。仕事で疲れた心を癒すためですね。

 このとき、クワガタがひっくり返っていれば直してあげ、クワガタ同士でケンカが起こっていれば、悪いクワガタを指で叩く――天罰を下すわけです。

 さらに、やられそうになった可愛そうなクワガタは、彼によって隔離され、バナナを与えられます。神のご加護というわけですね。

 このように窪田は、悪いクワガタには天罰を、可愛そうなクワガタにはバナナを与える神様的な存在だというのです。もしかすると、私たち人間も、クワガタと同じように神様に見守られているのかもしれませんね。

 ◆◆◆

 というわけで、小説『首折り男のための協奏曲』は、たとえ今は理不尽な出来事にあっていても、希望があることを教えてくれる小説です。もし、今がつらいと感じているようなら、この小説を読んでみてはどうでしょうか。

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