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 理不尽な出来事に遭遇することってありますよね。

 そんなとき、どうすることも出来なくて落ち込んでしまいがちですが、伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』を読んで、しばらく耐えれば救われるかもしれないと思えてきました。

 タイトルの恐ろしさとは裏腹に前向きな気持ちになれる物語なんですよね。

 突然いじめにあった中学生の物語

 では、あらすじから。

 中学二年生の中島は、軟式テニス部に所属しており、仲間たちと楽しく過ごしていましたが、ある日、「幽霊がいるかどうか」で友達と意見がわかれたことがキッカケで無視されるようになりました。

 それだけでなく、陰で殴られたり、大金をカツアゲされたりと、いじめはどんどんエスカレートしていきます。

 そんな中島に救いの手が差し伸べられます。いじめの現場にたまたま通りかかった「首折り男」が、見ず知らずの彼を助けることを約束したのです。

 「首折り男」は、普段は殺し屋として人殺しをしていましたが、それだけでは心が穢れていく一方なので、ときどき小さな親切をしてバランスを取ろうとしていました。

 たとえば、銀行のATMでもたついている人がいたら、首折り男はわざと大声で怒鳴って、そのあと小声で「ゆっくりと焦らずに」と伝えると言います。

 そうすれば、ATMに並んでいる人たちは「そこまで怒らなくても」とイライラが抑えられ、一方のもたついていた人も落ち着いて機械操作ができるようになるからです。

 ところが、中島を助けると約束した首折り男は、約束の時間になっても彼を助けに現れないんですよね。なぜなら…。

 理不尽な目に遭っても救われるかもと思える物語

 この続きは実際に本書を読んでもらうとして、伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』は、7つの短編から構成されていますが、その多くが「理不尽な目に遭っても救われるかも」と思える物語です。

 特に、その想いが色濃く出ているのが『人間らしく』です。

 クワガタのブリーダーである窪田は、泥棒の黒澤に「自分はクワガタにとって神様のような存在だ」と突然言い出します。

 クワガタは力関係がハッキリしていて、強いクワガタは弱いクワガタをいじめるそうですが、その姿をみた窪田は次のように対処するといいます。

「いえ、ほら、僕はいつも仕事をしていて、その合間に気が向けば、隣の部屋のクワガタのケースを確認します」
「癒されたくて」「そうです。そして、その時にクワガタがひっくり返っていれば直しますし、理不尽な喧嘩が起きていれば」「助けてやる」「悪いニジイロは指で叩きます。つまり」「つまり?」「天罰ですよ」「なるほど」「それにほら、やられそうになった可哀想なクワガタは、僕によって隔離されて、バナナを与えられます」
「神のご加護というわけか」

 つまり、神さまは存在していて、いつもこっちを見ているわけではないけれど、見ているときには、不公平や理不尽を正してくれると言っているんですよね。

 このような物語を読んでいると、理不尽な目に遭ってもいつかは救われるかもと思えてきます。

 ラストに驚きが待っている物語

 というわけで、伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』は「理不尽な目に遭っても救われるかも」と思える物語ですが、それだけでなくラストには驚きが用意されています。

 なかでも私が特に驚いたのは、『僕の舟』と『月曜日から逃げろ』です。

 『僕の舟』では、老女からある調査を依頼された黒澤が、最後に自慢げに調査結果を報告するのですが、その内容が面白すぎて笑えます。それだけでなく、明かされる真実に胸が熱くなるんですよね。

 『月曜日から逃げろ』では物語の構成そのものがトリックになっており、もう一度読み直したくなります。実は、他の短編にもヒントが散りばめられているので、読み終えたときには「そういうことだったのか!」と面白さが倍増します。

 それだけでなく、『首折り男のための協奏曲』は、これらの異なるジャンルの物語が、首折り男と黒澤を中心に緩く繋がっているので、長編とも短編集とも違った楽しみが味わえるんですよね。

 もちろん、サスペンスとしても楽しめるので、気なった方は、ぜひ読んでみてください。

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