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(※『首折り男のための協奏曲』表紙より)


 理不尽な出来事ってありますよね。

 私も最近、仕事で理不尽な目にあっていたのですが、どうすることも出来なくて悩んでいました。

 そんな私を癒してくれたのが、伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』。タイトルの恐ろしさとは裏腹に、読んでいて優しい気持ちになれるんですよね。

 今回は『首折り男のための協奏曲』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『首折り男のための協奏曲』ってどんな小説?

 理不尽な目にあっている登場人物たちが、不思議な出来事に遭遇し、今よりもほんの少しだけ幸せになれる物語です。

 全7編からなる短編集ですが、どれもジャンルが異なっているので、読んでいて飽きないんですよね。

 それぞれ簡単に紹介していくと、

『首折り男の周辺』

 首を折って人を殺す殺し屋にそっくりな大藪が、人間違いされたことをキッカケに理不尽な状況から抜け出そうとする物語と、あるキッカケでいじめられるようになった中学生の中島が、大金をカツアゲされそうになる物語。

 この二つの物語の中心にいる首折り男の行動が笑えます。

『濡れ衣の話』

 9歳になる息子の命を奪ったのに、まったく反省していない女性を殺した丸岡直樹が、すぐに警察に捕まり、殺害に至るまでの経緯を話す物語。ラストで驚きの事実が明かされます。

『僕の舟』

 70手前の若林絵美が夫が寝たきりになったことをキッカケに、50年前に4日間だけ恋をした男性のことを調べて欲しいと黒澤に依頼する物語。すべての謎が解き明かされたとき、こじつけとわかっていても感動してしまいます。

『人間らしく』

 妹の旦那が浮気をして、両親の世話も全て押し付けられた挙句、両親が死ぬと離婚を迫られたので、なんとか一矢報いたいという依頼が舞い込んできた黒澤が、知り合いの小説家からクワガタの話を聞かされる物語と、塾でいじめられる中学生の物語。

 神のご加護があるかもと思える物語です。

『月曜日から逃げろ』

 テレビ関係の仕事をしている久喜山から盗みのテクニックを披露して欲しいと脅される黒澤の物語。構成がよく出来ていて最後に驚かされます。

『相談役の話』

 伊達政宗の息子をサポートしていた山家清兵衛は、庶民からは好かれていましたが、役人からは嫌われ、殺されてしまいました。それと似たような出来事が現代でも起こる物語。しかも、殺しに関わった人たちがまるで祟りにあったかのように次々と死んでいくところまで似ています。

 少し怖ろしいオチで終わる物語です。

『合コンの話』

 様々な思惑をもった男女6人が集まり、合コンをする物語。おしぼりの使い方をマスターしたくなりなす。

 ◆

 このように恋愛ものや殺人もの、怪談話といったジャンルが異なる短編が集まった小説です。

 『首折り男のための協奏曲』のおすすめポイント

1. 理不尽な目にあっても救いがあるかもと思える物語

 これが色濃く出ているのが『人間らしく』。

 黒澤は作家の窪田からクワガタの話を聞かされます。クワガタは力関係がハッキリしていて、強いクワガタは弱いクワガタをいじめるそうです。

 そこで窪田は次のようにするといいます。

「いえ、ほら、僕はいつも仕事をしていて、その合間に気が向けば、隣の部屋のクワガタのケースを確認します」
「癒されたくて」「そうです。そして、その時にクワガタがひっくり返っていれば直しますし、理不尽な喧嘩が起きていれば」「助けてやる」「悪いニジイロは指で叩きます。つまり」「つまり?」「天罰ですよ」「なるほど」「それにほら、やられそうになった可哀想なクワガタは、僕によって隔離されて、バナナを与えられます」
「神のご加護というわけか」

 つまり、神さまは存在していて、いつもこっちを見ているわけではないけれど、見ているときには不公平や理不尽を正してくれるということ。

 そんな物語を読んでいると、理不尽な目にあっても前を向いて生きていこうと思えるんですよね。

 少しツライ時に読むと癒される物語です。

2. 驚かされる物語が多数

 ネタバレになるので詳しくは書けませんが、『僕の舟』と『月曜日から逃げろ』は最後に間違いなく驚かされます。

 『僕の舟』は、ラストで黒澤が自慢げに語る物語と依頼された真実が明かされるのですが、かなり強引な内容にも関わらず、胸が熱くなります。

 『月曜日から逃げろ』では物語の構成そのものがトリックになっており、もう一度読み直したくなります。実は、他の物語にもヒントが散りばめられており、読み終えたときには「そういうことだったのか!」と面白さが倍増するんですよね。

 他にも驚かされる物語ばかりなので、ミステリー好きなら読んでおきたい小説です。

3. 異なるジャンルの物語が緩く繋がっている

 タイトルにあるように、この小説は首折り男のための協奏曲です。

 恋愛ものや殺人もの、怪談話といったジャンルが異なる短編で構成されていますが、どれも首折り男と黒澤を中心に緩く繋がっており、長編とも短編集とも違った楽しみが味わえるんですよね。

 伊坂さんらしいユーモア溢れる小説です。

 最後に

 伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』。理不尽な目にあっても、救われるのかもと思える物語ばかりなので、優しい気持ちになれる小説です。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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