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 生きていると理不尽な出来事に遭遇することってありますよね。そんなとき、どうすることも出来なくて落ち込んでしまいがちですが、しばらく耐えれば救われるかもと思える物語があります。

 それが伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』。タイトルの恐ろしさとは裏腹に、読むと前向きな気持ちになれるんですよね。

 理不尽な目にあっても救いがあるかもと思える物語

 これが色濃く出ているのが『人間らしく』という短編。

 泥棒の黒澤は作家の窪田からクワガタの話を聞かされます。クワガタは力関係がハッキリしていて、強いクワガタは弱いクワガタをいじめるそうです。

 そこで窪田は次のようにするといいます。

「いえ、ほら、僕はいつも仕事をしていて、その合間に気が向けば、隣の部屋のクワガタのケースを確認します」
「癒されたくて」「そうです。そして、その時にクワガタがひっくり返っていれば直しますし、理不尽な喧嘩が起きていれば」「助けてやる」「悪いニジイロは指で叩きます。つまり」「つまり?」「天罰ですよ」「なるほど」「それにほら、やられそうになった可哀想なクワガタは、僕によって隔離されて、バナナを与えられます」
「神のご加護というわけか」

 つまり、神さまは存在していて、いつもこっちを見ているわけではないけれど、見ているときには不公平や理不尽を正してくれるということ。

 そんな物語を読んでいると、理不尽な目にあってもいつかは救われるかもと思えてくるんですよね。

 それだけでなく――。

 驚かされる短編が多数収録

 『首折り男のための協奏曲』は全7編で構成されていますが、どの短編にもラストに驚きが待っています。

 なかでも私が特に驚いたのは、『僕の舟』と『月曜日から逃げろ』。

 『僕の舟』では、老女にある調査を依頼された黒澤が、ラストに自慢げに調査結果を報告するのですが、その内容が面白すぎて笑えるんですよね。それだけでなく、明かされる真実に胸が熱くなります。

 『月曜日から逃げろ』では物語の構成そのものがトリックになっており、もう一度読み直したくなります。実は、他の短編にもヒントが散りばめられており、読み終えたときには「そういうことだったのか!」と面白さが倍増するんですよね。

 他にも驚かされる短編ばかりなので、ミステリー好きなら読んでおきたい小説です。

 異なるジャンルの物語が緩く繋がる

 タイトルにもあるように、この小説は首折り男のための協奏曲です。

 恋愛ものや殺人もの、怪談話といったジャンルが異なる短編で構成されていますが、どれも首折り男と黒澤を中心に緩く繋がっており、長編とも短編集とも違った楽しみが味わえるんですよね。

 伊坂さんらしいユーモア溢れる小説です。

 ◆

 伊坂幸太郎さんの『首折り男のための協奏曲』。理不尽がテーマの物語なので、読んでいて暗くなるところもありますが、それを上回るユーモアのおかげで前向きになれる小説です。

 理不尽な目にあって悩んでいる人は、ぜひ読んで肩の力を抜いてみてはどうでしょうか。

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