オリンピックについて、どう思いますか?
私は、コロナ禍が落ち着いてから出来れば日本で開催してほしいと思っていますが、
辻堂ゆめさんの小説『十の輪をくぐる』を読んで、オリンピックに励まされてつらい現実から立ち上がった人たちがいたことがわかりました。
それだけでなく、母の子を思う気持ちに感動する物語だったんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 認知症になった母の過去に思いを馳せる主人公の物語を読んでみたい人
- 子供を思う母の気持ちに感動する物語に興味がある人
- オリンピックには人を勇気づける力があることがわかる物語を読んでみたい人
- 辻堂ゆめさんの小説が好きな人
あらすじ:認知症になった母の過去に思いを馳せる主人公の物語
物語の主人公は、妻と高校生の娘、そして母と一緒に暮らす佐藤泰介。
彼は、仕事もうまくいかず、妻とも娘ともうまくいかず、認知症になった母に八つ当たりをしていました。
泰介は母の万津子が意味がわからないことを喋ると言っては怒鳴り、
夜自分の部屋に戻りたがらないときは引きずり、自分で食事をとろうとしなければ無理やりスプーンで食べさせていました。
ところが、そんな母が「私は東洋の魔女。泰介には秘密」と言い出します。
テレビでオリンピックのCMを観て、1964年に開催された東京オリンピックと勘違いしたのだと思われましたが、
そもそも泰介は自分が幼い頃のことを母が語らなかったこと、また幼い頃のアルバムがないことに気づきました。
その理由は…。という物語が楽しめる小説です。
感想①:過去と現在がクロスしながら母の過去が明かされていく
あらすじで紹介したように、泰介は母の過去をまったく知りませんでした。
母は息子である泰介を一流のバレーボール選手に育てようと必死になって特訓してきましたが、それ以前の幼くて記憶にない頃の話はしてくれませんでした。
ところが、認知症になったことで、「私は東洋の魔女。泰介には秘密」と言い出します。
そのことを意識が戻ったときに尋ねても、母は何ひとつ教えてくれませんでした。
しかし、妻の由佳子は、母が紡績工場で働いていたと聞いたことがあると言い、
東洋の魔女が日紡貝塚という紡績工場で働く女工だったことから、関係者だったのでは?と推測します。
こうして、泰介は母の過去を知ろうと行動していくわけですが、母が紡績工場で女工として働いた過去と現在の物語が交互に語られていくんですよね。
山本兼一さんの小説『利休にたずねよ』では、過去を少しずつ遡りながら、利休がある女性を殺した謎に迫る物語が楽しめましたが、

この小説では、母の過去が少しずつ明かされながら、現在の出来事とリンクしていくので、続きが気になって一気読みしました。
感想②:子供を思う母の気持ちに感動
先ほども書いたように、少しずつ母の過去が明かされていくわけですが、
そうして明かされた過去は、息子を守ろうとする母の優しさでした。
ネタバレにならないように紹介していくと、幼い頃の泰介は手に負えないほど、ヤンチャな子供でした。
泣き声は爆発的にうるさく、どれだけ叱っても癇癪を起こし、教え込んでもすぐに忘れてしまうため、躾けようがありませんでした。
それだけでなく、小学生たちに遊んでもらっても、少しでも気に入らないことがあると、石で叩いて傷つけたりしたのです。
それでも母は、彼の味方でいたんですよね。
他人だけでなく、家族から非難されても、泰介の味方であろうとしました。
ギヨーム・ミュッソさんの小説『ブルックリンの少女』では、子供は世界を一変させるほどの大きな存在だとわかる物語が描かれていましたが、

この小説では、子供を守るために必死で行動する母の姿に感動する物語が描かれていました。
感想③:オリンピックには人を勇気づける力がある
さて、この小説では、「オリンピックには人を勇気づける力がある」をテーマに描かれているように思います。
泰介の母は、つらい過去がありましたが、オリンピックと関わることで、前を向いて新しい一歩を踏み出しました。
もちろん、他の人たちも同じです。
オリンピックは日本が戦後から次の時代に進むのだと思わせてくれるものでした。
そして現在でも、泰介はバレーボールに真剣に取り組む娘の姿を見て励まされるんですよね。
海堂尊さんの小説『コロナ黙示録』では、杜撰なオリンピックの準備をしてきた安倍政権の姿が浮き彫りになる物語が描かれていましたが、

この小説では、オリンピックで勇気づけられた人が立ち上がる姿に感動できる物語が楽しめました。
まとめ
今回は、辻堂ゆめさんの小説『十の輪をくぐる』のあらすじと感想を紹介してきました。
オリンピックに励まされてつらい現実から立ち上がる人たちの物語が楽しめるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
コメント