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(※『ふくわらい』表紙より)


 西加奈子さんの小説『ふくわらい』。

 この前のエントリで紹介した『コンビニ人間』の主人公とよく似た女性――他人の感情や言動が理解できない女性が、他人との関わりを通じて感情を取り戻していく過程を描いた小説です。

 コンビニ人間とは異なる結末に辿り着くところも面白い!?

 今回は、小説『ふくわらい』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 小説『ふくわらい』のあらすじ

 感情の起伏がほとんどない女性・鳴木戸定(なるきど さだ)は、子供の頃から他人の感情や言動が理解できませんでした。

 もちろん、友人は一人もいません。コミュニケーションをとる相手は、両親と乳母だけ。

 それにも関わらず、母が亡くなっても、父が目の前でワニに食べられても、彼女は涙ひとつ流しませんでした。人前で裸になったり、タトゥーを入れたり、人の肉を食べることも平気。

 彼女が興味をもっていのは「ふくわらい」だけでした。書籍編集者として働くようになった今でも、他人の顔で「ふくわらい」をして遊んでいます。

 そんな彼女に転機が訪れます。天才・アントニオ猪木に憧れるプロレスラー、美人なのに恋愛下手な後輩、定に好意を寄せる盲目のハーフ男性との出会いを通じて、感情を取り戻していきます。そして最後には――。

 なぜ、定は感情を失ったのか?

 それは、幼い頃の家庭環境に原因があるように思えます。

 定の父・栄蔵と母・多恵はそれぞれ裕福な家庭で育ちましたが、望んで結婚したわけではありませんでした。多恵の父(定の祖父)が決めた結婚だったからです。

 多恵は夫のことが理解できませんでした。紀行作家として世界を放浪する栄蔵は、女性器をスケッチしたり、死んだ幼児の頭蓋骨のかたちを説明した手紙を定に送ってきたりと普通ではありません。

 そのため、多恵は定を栄蔵から出来るだけ離そうとしますが、定は栄蔵とのつながりを求めました。そのひとつが「ふくわらい」です。

 多恵が亡くなってからは、定は栄蔵に連れられ世界を放浪するようになりました。このとき、父・栄蔵の喜ぶ顔がみたく、定は死んだ人の肉を食べたりします。父の望むままに。

 こうして、定は自分の感情よりも父にどう思われるかを優先するようになり、自分の感情がわからなくなっていきました。さらに、世間からも「人肉を食べた子ども」として扱われ、ひとりで過ごすことが多くなり、さらに他人の感情がわからなくなっていきます。

 このように幼い頃の家庭環境は子どもに大きな影響を与えます。子どもが自分らしく生きられる環境を整えたいですね。

 真っ直ぐに生きる主人公が魅力的

 定は、他人の感情や言動が理解できませんでしたが、誰に対しても誠実に接しました。それは多くの人が嫌がる相手に対してもです。

 たとえば、「原稿が欲しければ雨を降らせろ!」と要求してくる作家には、雨が降るまで雨乞いの呪文を唱え続けます。

 天才・アントニオ猪木に憧れるプロレスラーからは、「人肉を食ったのか?」「処女か?」など失礼な質問をされますが、すべての質問に誠実に答えます。

 顔で原稿を取っていると噂される後輩が彼氏に振られて悩んでいるときも、恋愛経験がないにも関わらず、ありのままの自分をさらけ出して話しました。

 そんな彼女の姿をみて、少しずつ心を開いていく人たちが増えていくのですね。

 誰に対しても誠実であること。そうすべきだと頭ではわかっているのに、実際にはできない自分がいるので、彼女がとても魅力的に思えました。

 今の定を肯定してくれる男性が感情を取り戻すきっけかに

 そんな定を大きく変えたのが、盲目のハーフ男性・武智でした。

 道に迷ってパニックになっていた彼に定が声をかけたことがきっかけで二人は出会います。その日から彼は定に猛アタックするようになりました。

 ところが、武智は出会ってすぐに「さきっちょだけでも」と学生のような要求をしてきます。「やりたいだけでは?」と美人の後輩が心配して彼に会いにいきましたが、「その人について知っていること」が「その人のすべて」という彼の言葉を聞いて本気で定のことが好きなんだと納得しました。

 定の過去がどのようなものであれ、今の定が好きなんだという彼の想いが伝わってきたからです。

 定は次第に彼に惹かれていきます。それにあわせて感情も豊かになっていきました。これまでのように自分の感情を抑えなくても好きでいてくれる相手が出来たからです。そして最後には――。

 この小説がコンビニ人間と違う結末を迎えたのは、今の自分を肯定してくれる人が側にいたから…かもしれませんね。

 最後に

 小説『ふくわらい』は感情を失った女性が他人とのコミュニケーションを通して感情を取り戻していく過程を描いた小説です。

 自分を見失ったとき、ありのままの自分を肯定してくれる人が側にいるかどうかで、その後の人生が大きく変わるように思えました。私もありのままの妻や子どもたちを肯定できる人間でありたいと思います。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。あわせてこちらもどうぞ。

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