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 この前のエントリにも書きましたが、虐待のニュースが多いですよね。

 柚月裕子さんの小説『盤上の向日葵』に登場する主人公も虐待されて育ったひとりですが、悲惨な環境で育った子供には明るい未来はないのか?と叫びたくなるほど、沈んだ気持ちになる物語です。

 もちろん、物語としては明るい未来を描くこともできるのでしょうが、現実はそれほど甘くないのかもしれませんね。

 幼少時代を悲惨な環境で過ごしたプロ棋士が主人公の物語

 物語の主人公は上条佳介。彼は「実業界の寵児」といわれるほど、起業したソフトウェア会社で大成功をおさめていました。

 それだけでなく、実業界から転身して特例でプロ棋士になります。将棋界最高峰のタイトル戦「竜昇戦」に挑戦できるほどの実力を発揮していました。

 このように、向かうところ敵なしの佳介でしたが、幼少時代は悲惨な環境で過ごしていました。

 母の春子は精神を病み、若くして自殺。それをきっかけに父の庸一は酒とギャンブルに溺れ、佳介の面倒をまったくみませんでした。

 きちんとした食事を与えられない佳介はやせ細り、お風呂にも入っていないので汚い恰好をしています。

 そんな佳介の姿をみた周りの人たちは、庸一を非難しますが、「家族の問題に口を出すな!」の一点張りでした。

 とはいえ、悪いことばかりではありません。定年退職をした元教師の唐沢が手を差し伸べてくれます。彼は、桂介に食事を与え、お風呂に入らせ、そして将棋を教えました。

 その結果、佳介は驚くような速さで将棋の実力を伸ばしていくんですよね。そこで、唐沢は、桂介を奨励会へ入会させようとしますが…。

 父の庸一が邪魔をしました。佳介はプロ棋士への道を閉ざされます。

 新たな道を歩んでも邪魔をする父親

 しかし、佳介は持ち前の頭の良さを発揮して東大に入学しました。将棋とは別世界の外資系企業に就職し、その後、自らソフトウェア会社を立ち上げます。

 こうして佳介は、2年間で年商30億円を達成し、「時代の風雲児」としてもてはやされるようになりましたが、まったく幸せを感じていませんでした。生きる意味を見失っていたのです。

 さらに、佳介の成功を知った父の庸一が会社にまでやってきて金をせびるようになります。

 そのせいで、「桂介が胡散臭い男に金を渡している」という噂が社内に広まり、彼が積み上げてきた人生をまたしても父親に壊されそうになりました。

 そんなとき、桂介は東明重慶というアマ棋士と再会します。彼と久しぶりに将棋を指した佳介は、他の何物にも代えがたい興奮を味わいました。彼は将棋を心から愛していたのです。

 そこで彼はプロ棋士に転身することに決めますが、その前に片付けておくべきことがありました。父親の存在です。

 彼は庸一と手を切ろうと3000万円の手切れ金を渡そうとしますが…。

 悲惨な環境で育った子供に明るい未来はないのか?

 父の庸一は思わぬことを口にしました。佳介が想像していなかった事実を突きつけれたのです。

 その事実を知った佳介は、父を殺して、その後、母親のように自ら人生の幕を落とす決意をします。そして…。

 この物語の結末は実際に本書を読んでもらうとして、柚月裕子さんの小説『盤上の向日葵』は、悲惨な環境で育った子供に明るい未来はないのか?と叫びたくなるような物語です。

 仏教用語でいう「因果は巡る糸車」がテーマになっているからかもしれませんが、佳介の父と母の行動が、めぐりめぐって佳介の人生を縛っていたように思えるんですよね。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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