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 『切り捨てSONY』を読み終えるまでは、「リストラ部屋(追い出し部屋)に追いやられた人=仕事ができない人」だと思っていました。

 しかし、そうではない人たちも大勢いるんですよね。すなわち、優秀な人たちも「リストラ部屋」に追いやられているということ。

 ここで、「リストラ部屋」について簡単に説明しておきます。一昔前の言葉でいえば、「窓際族対策」の部署のことで、ソニーでは「キャリア開発室」や「能力開発センター」、「リストラ部屋」「ガス室」などと呼ばれてきました。呼び方はいろいろ変わっていますが、会社にとって不要な社員を自主退職に追い込むために設置された部署であることに変わりありません。

 では、リストラ部屋に追いやられた人たちは、どのような毎日を過ごしているのでしょうか。

 午前9時に出社し、割り当てられた席についても、何も仕事はありません。定時まで部屋に閉じ込められ、私語は禁止。本当に何もやることがないんですよね。

 とはいえ、「社内異動」や「転職先」を見つけ出すことを目的としている部署なので、いつまでも居座り続けるわけにはいきません。自己アピールできる”何か”を見つけ出し、この部屋から出て行くしかないのですが…。予算もないので、無難に語学を勉強したり、ネットサーフィンをしたり、新聞や雑誌を読んで一日を過ごしている人が多いそうです。

 こんな窓際の部署に優秀な人たちまで追いやるなんて――。常識的に考えれば、バカげていますよね。会社の損失になるのですから。

 では、なぜ、優秀な人たちまでリストラ部屋に追いやるのでしょうか。

 理由①:偉そうな口をきいたから

 アフリカや中近東を駆け回る花形の海外営業マンとして活躍していた斎藤さんは、2006年7月にリストラ部屋行きを告げられました。理由は、「偉そうな口をきいたから」。

 当時のソニーは、ストリンガー氏がCEOに就任したばかりで、「誰が書いてもいい、CEO本人が目を通す」という意見公募を行っていました。「ストリンガーのような外国人がソニーのトップに就くのは初めてのことだったし、ソニー凋落の気配がささやかれていたから」という理由で、斉藤さんはこの意見公募を真面目な試みと受け止め、英語と日本語でストリンガー宛に意見を書いたのですが…。

 何ヶ月経っても何の音沙汰もありません。意見を募ったのであれば、せめて「拝読した」「検討する」くらいの返事をするべきではないか――。そう考えた斉藤さんは当時の上司にメールを送りました。「もし、ストリンガー会長にお話を聞いていただけるのであれば参上したい」と。

 しかし、これが上層部の逆鱗に触れたのです。「偉そうな口をきくな。お前は何様だ」と。その後、人事部に呼び出され、厳しく叱責されました。

 「建設的な意見を言った者がどうして目の敵にされるのか」――そう思うとやる気は失せ、会社に行くのが面倒になりました。やがて、朝、布団から起き上がることもできなくなり、休職と復職を3回繰り返したそうです。そこで上司から指示を受けます。「君はいったん、キャリア室で体を治したほうがいい」と。

 たしかに、休職と復職を3回も繰り返した斉藤さんは、管理者としては失格でしょう。しかし、その原因となったのは、「意見公募」が”カタチだけ”のものであり、現場の直言を煙たがる雰囲気が社内官僚の間に広がっていたからです。

 会社の業績が悪いと、結果を求められるので上層部は保守的にならざるを得ません。それなのに、何の責任もとらなくていい社員が「私の意見でこの状況が打破できますよ!」と言ってくるなんて「何様のつもりだ!」ということでしょうか。

 こうして、自分の意見を持った優秀な社員がリストラ部屋に追いやられたわけです。

 理由②:「こだわり」を捨てなかったから

 ソニー情報技術研究所に勤めていた滝口さんも、2007年に「リストラ部屋」に追いやられています。彼はある日、上司からこう告げられました。「君には仕事がない。ここでは要らない人間です」と。

 当時、滝口さんは「準静電界」という人の体を包み込むように存在する微弱な電気力の空間に着目していました。「生物は脳からの指令を神経細胞を通じて伝え、筋肉を動かす際に『準静電界』を発生させている。たぶん、人間は内耳にある有毛細胞で準静電界を捉え、脳に伝えているんだ」という仮説を立てたのです。

 そこで彼は、準静電界の存在を証明したうえで、人体を一種のアンテナとして機能させ、個人認証などに応用しようと試みました。これが実現できれば、改札口でPiTaPaやSuicaをタッチする必要がなくなったり、歩行者が近づいて来たことをクルマが検知できるようになったり、ドライバーの心拍数などがモニタリングできるようになるなど、様々な分野に応用できます。研究するだけの価値があったんですね。

 ところが、当時はまったく知られていなかった準静電界の研究に没頭する姿勢が上司には理解してもらえませんでした。「準静電界なんてあるはずがない」そう決め付けられました。しかし、それでも滝口さんは研究を続けたので、ついにリストラ部屋に追いやられたのです。

 それでも、滝口さんは「自分の研究は、上司の理解を超えた内容なんだ」と信じて研究を続けました。その結果、滝口さんの仮説が正しかったことが証明されます。「準正電界」は存在したのです。

 上司としては、成果が求められているときに、あるかどうかもわからない「準正電界」の研究をする必要があるのか。それよりも、確実に成果につながる研究に取り組め、ということだったのでしょうが、これにより優秀な社員がまた一人リストラ部屋に追いやられることになりました。

 彼らのその後

 斎藤さんは9ヶ月間、「リストラ部屋」にいましたが、人事部長にこう言われて会社を辞めました。

 「外部の人間とお前は話をさせられない。国内営業も無理だ。内職というか、数字をいじるくらいしかさせられない」

 その後、斎藤さんは、知人から「ソニーで吹きだまってるんだったら、ウチで営業や貿易実務をやらないか」と声をかけられ転職。2007年春からは、「ハッサン・マーケティング・コンサルティング」を起業しながら、外資系企業で働いています。

 一方の滝口さんはソニーを退社し、東京大学生産技術研究所の准教授として活躍されています。JR東日本など複数の民間企業とともに、「準静電界通信技術」を応用した通信や遠隔個人認証の共同研究を行っている注目の工学博士です。

 まとめ

 会社の業績が悪くなるにつれ、上層部が保守的になり、「上司に楯突いた」というだけで、優秀な社員でもリストラ部屋に追いやられることがわかりましたが、彼らのその後を見ていると、このような会社にしがみついているよりも、リストラ部屋に追いやられたほうが良かったのかもしれません。

 実際、会社にしがみついて管理職に就いた人たちは、業績悪化に伴いリストラ部屋に追いやられましたが、想像していたような再就職先が見つからなかったそうです。なぜなら、管理職でいる間に、かつて身につけた技術が時代遅れになっていたから。

 「自分の働くところを、自分の才能をどう伸ばすべきかを本気になって考えてほしい。自分の能力が最高に発揮できる、もてる力をフルに発揮して自分というものをさらに高めることのできる場所を探すのは、あなたの権利であり義務である。人に頼ってはいけない。あなたのことをあなた以上に知っている人はいないのだ」

 とは、ソニーの創業者である井深大氏の言葉ですが、会社の業績によって誰もがリストラされる可能性がある今を生き延びるには、この言葉どおり「自分の能力を高め続けるしかない」のでしょう。そうすれば、斎藤さんや滝口さんのように、たとえリストラ部屋に追いやられても、新たな一歩が踏み出せるはずです。

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