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 天才野球少年に次々と無理難題が押し寄せてくる物語。それが伊坂幸太郎さんの小説『あるキング』です。

 最後まで何を伝えたいのかよくわからない物語でしたが、なんとなく感じ取れたのは、人に嫌われない生き方も悪くないかもしれないってことでした。

 子どもに嫌われてまで手出し・口出しする必要はない

 物語の主人公・王求(おうく)は3歳のときに両親からバットを与えられ、野球をするようになりました。そんな彼に両親は片時も離れずに指導をします。

 しかし、12歳を過ぎると王求の才能についていけず、両親は役立たずになりました。それでも口出しを続ける母のせいで、王求はプロ野球選手に教えてもらえるチャンスを逃しそうになります。

 また、王求に暴力を振るった先輩を父が殺したせいで、プロへの道が閉ざされました。犯罪者の息子を雇ってくれるプロ野球球団なんてなかったからです。

 つまり、両親の手出し・口出しが、王求の未来を閉ざしたんですね。

 もちろん、これは極端な例ですが、現実でも手出し・口出しをしすぎる親がいます。しかし、子どもに嫌われてまで、未来を閉ざしてまで、手出し・口出しする意味なんてないですよね。

 そんな悲しい親にならないように戒めてくれる物語です。

 まわりに嫌われてまで才能を発揮する必要はない

 ZARDの坂井泉水さんは、圧倒的な歌唱力の持ち主でしたが、あえて下手に歌っていたそうです。そうしないと世間から受け入れてもらえないから。

 一方の王求はバッティングの才能を惜しげもなく発揮していました。毎打席ホームランを打つんですよね。

 その結果、敵だけでなく味方チームからも嫌われるようになりました。一緒に野球をしても面白くないからです。

 人は誰もが圧倒的な才能を目にすると、恐れて排除しようとします。アンフェアな人間にとってフェアな人間がムカつくように、才能がない人間にとって才能がある人間は嫌な奴でしかありません。

 ZARDの坂井泉水さんのように、圧倒的な才能があっても隠すくらいがちょうどいいのかもしれませんね。

 他人から応援される人生を歩んだほうがいい

 多くの人に嫌われていた王求でしたが、一部の人からは応援されていました。

 倉敷巳緒もその一人。彼女は王求に、体外受精治療を受ける女性を対象にしたある実験の話をします。

「片方はね、他者からお祈りを受けるグループで、もう半分は、お祈りを受けないグループだったんだって」
「でもね、その結果が凄いのよ。お祈りを受けたグループは受けなかったグループの倍以上も妊娠率が高かったんだって」

 つまり、人からの応援には絶大な効果があるということ。人に嫌われてまで、自分の考えを押し付けたり、才能を発揮する必要はないんですね。

 もちろん、人に嫌われるのを恐れて行動できなくなるのは大問題ですが、ある程度は人から嫌われないように生きていくのも悪くないと思える物語でした。ストーリーはよくわからなかったですが…。

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