webstation plus

 自分の目を通して見たものや感じたことが全てだと思っていませんか?

 もちろん、誰にでもそういうところはありますが、それが行き過ぎると、今村夏子さんの小説『むらさきのスカートの女』の主人公のようになってしまいます。

 ある意味、狂気ともいえるむらさきのスカートの女への執念に衝撃を受ける作品なんですよね。

 むらさきのスカートの女をストーカーのように観察する私

 では、あらすじから。

 物語の語り手は「私」。私はむらさきのスカートの女をストーカーのように観察していました。

 むらさきのスカートの女は、いつも、むらさきのスカートを履いています。週に一度はクリームパンを買いに商店街にやってきて、公園の決まったベンチに座ってパンを食べます。

 むらさきのスカートの女は、歩くだけで人目をひいていましたが、彼女はまわりがどんな反応を示そうと、自分のペースを崩しませんでした。

 ジャンケンをして負けた子供がむらさきのスカートの女の肩を触るという遊びをしても動じません。

 私はそんなむらさきのスカートの女と友達になりたいと思い、自分が働く職場へ彼女を誘導することにしました。

 求人誌に丸をつけてベンチに置いたり、面接に行く前にシャンプーの試供品を家のノブにかけたりします。

 その結果、むらさきのスカートの女は面接に受かり、私と同じ職場で働く事になるのですが…。

 どんどん普通の女性になっていくむらさきのスカートの女

 むらさきのスカートの女は、どんどん普通の女性になっていきました。

 ホテルの清掃員として働き始めた彼女は、小さかった声も初日から大きく出せるようになります。そのおかげで、個性的な他の従業員とも仲良くなれました。

 彼女がお茶を飲んでいると、他の従業員からパンや飴をもらったり、所長からコーヒーをもらったりします。

 たとえ誰からも何ももらえなくても、ホテルの余り物や備品を食べるようになったので、ふっくらしていきました。

 すると、彼女は綺麗だと噂されるようになります。さらに、妻子持ちの所長と浮気するようになりました。

 私はというと、むらさきのスカートの女の行動を知るために、いまだにストーカーのように彼女に張り付いています。

 所長とデートをする彼女の後をつけたり、所長が彼女の家に泊まるかどうかをチェックしたり、無銭飲食をして居酒屋に入ったりと執拗なまでに彼女に張り付いていました。

 このように、この物語は…。

 歪んでいるのは「私」だけ?

 むらさきスカートの女が変わっているのではなく、歪んでいるのは「私」だけのように思えてきます。

 物語のはじめから「私」というフィルタを通して歪んだ事実を見せられていたのかもしれません。

 たしかに、むらさきのスカートの女は、日雇い労働者で、痩せていて、毎日むらさきのスカートを履くなど少し変わった特徴を持っていましたが、人並みの生活を手にすると、普通の女性になりました。

 ところが、私はそんな彼女をいつまでも「むらさきのスカートの女」としてストーキングするんですよね。

 だからこそ、実は私だけが狂っていて、そんな私の目を通してみると、むらさきのスカートの女という変わった女性像が浮かび上がったのでは?と思えてきます。

 今村夏子さんの小説『むらさきのスカートの女』。気になった方は、ぜひ実際に読んで、この不思議な物語の謎に迫ってみてください。

 関連記事

米澤穂信『いまさら翼と言われても』感想/良い人との出会いがその後の人生を大きく変える

 人に恵まれていますか?  私は人に恵まれてきたおかげで今の自分がありますが、米澤穂信さんの小説『いまさら翼と言われても』を読んで、良い人に巡り合えるかどうかでその後の人生が大きく変わることに気づきました。  どれだけ善 …

『土佐堀川』は自分の悩みがちっぽけに思える小説

(※『土佐堀川』表紙より)  古川智映子さんの小説『土佐堀川』。  NHK連続テレビ小説「あさが来た」の原作で、広岡浅子さんの生涯を描いた物語です。読めば自分の悩みがちっぽけに思えること間違いなし!?  今回は、『土佐堀 …

知念実希人『ひとつむぎの手』感想/誰のために仕事をしていますか?

 誰のために仕事をしていますか?  私は自分と家族のために仕事をしていますが、私のように考えて仕事をしている人は多いと思います。  しかし、知念実希人さんの小説『ひとつむぎの手』の主人公は違いました。自分のためと言いなが …

有川浩『図書館危機』/日本でも表現の自由が規制されている

 日本では「表現の自由がある」と思っていましたが、実は規制されているようです。  中国などの共産圏と違って自由があると思っていただけにショックでしたが、不必要な規制は無くしていくべきですよね。  有川浩さんの『図書館危機 …

伊坂幸太郎『死神の精度』は生きる意味を追い求めるのが人間らしさだとわかる物語

 自分の行動に意味づけしていますか?  「なぜこの仕事をしているのか?」「なぜこの本を読んでいるのか?」「なぜブログを書いているのか?」…などなど。  私はどんなことでも「なぜ?」を考えないと気が済まない性格なので意味づ …

伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』はリスクを取れば一発逆転できるかもと思える物語

 「一発逆転したい!」って思ったことありませんか。  私は仕事やプライベートで思うような結果が出なかったときに一発逆転したいって思いますが、伊坂幸太郎さんと阿部和重の共著『キャプテンサンダーボルト』を読んで、一発逆転する …

伊坂幸太郎『陽気なギャングの日常と襲撃』はコメディとしても楽しめるサスペンス小説

 サスペンスはお好きですか?  私はサスペンスと聞くとシリアスなイメージを思い浮かべますが、伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャングの日常と襲撃』はシリアスとはかけ離れていました。  前作同様に、シリアスなシーンでもギャング …

伊坂幸太郎『残り全部バケーション』は結果よりもプロセスを大切にしたくなる物語

 結果ばかり追い求めていませんか?  私は結果ばかり追い求めていましたが、伊坂幸太郎さんの小説『残り全部バケーション』を読んで、結果だけでなくプロセスも大切にしたくなりました。  「歩いても、走っても、飛んでも結果が変わ …

自分らしさなんて追い求めるものじゃない

(※『地球星人』表紙より)  自分らしく生きていますか?  私は自分らしく生きていると思っていましたが、村田沙耶香さんの小説『地球星人』を読んで「自分らしさとは何なんだろう」と考えるようになりました。  というよりも、む …

自分の弱さに嫌気がさしたときに読んで欲しい小説/西加奈子『おまじない』

(※『おまじない』表紙より)  自分の弱さが嫌になることありませんか?  私はよくあります。上司に「休ませてください」と直接言いづらくて、メールで連絡したり、プレゼンの前日に緊張して眠れなかったり、スマホのゲームに夢中に …