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 「光が多いところでは、影も強くなる」――と、ゲーテがいったように、光あるところには必ず影がつきまとう。しかし、私たちは光だけを追い求め、影の存在を否定してしまいがちだ。

 たとえば、宝くじを買ったり、株やFXで一儲けしようとするのもそのひとつだろう。お金を儲けたいという結果(=光)だけが欲しくて、そのための努力(=影)はしたくもない。プロセスがどうあれ、結果がよければ幸せになれると思っている。

 しかし、はたして本当にそうなのだろうか。光だけを追い求めていけば、幸せになれるのだろうか。小説『影法師』は、光だけでなく影の存在の大切さを教えてくれる。

 主人公の勘一は、江戸時代の小さな藩で下士(下級武士)として生まれた。当時の下士は上士(上級武士)から理不尽な仕打ちを受けていたが、なかでも勘一の父は理不尽な理由で斬られてしまう。子どもが跪いて頭を下げなかった――たった、それだけでの理由でだ。

 もちろん、父を斬られたからといってやり返すことなどできない。勘一は父を失った悲しみと悔しさで泣き崩れるしかなかった。そんな勘一をみて「武士の子が泣くものではない」と励ました子どもがいる。勘一と同い年の磯貝彦四郎だ。勘一はこの言葉によって武士としての魂を取り戻す。

 それから六年後。13歳になった勘一は、剣の修行と学問、そして家計を助けるための内職などで、目が回るような忙しい毎日を過ごしていた。そんな勘一にチャンスが訪れる。才能が認められ、下士では通うことができなかった藩校に特別入学を許されたのである。

 勘一は藩校に通うようになった。しかし、上士たちは徹底的に彼をいじめた。下士の分際で藩校に通うのは生意気だというのである。それでも勘一はめげなかった。一方的にやられはせず、反撃もした。しかし、反撃すればするほど皆から無視されるようになった。そうして、孤独な藩校生活を過ごしていた勘一に唯一声をかけてくれた人物がいた。磯貝彦四郎だ。

 彦四郎は、文武両道の天才だった。学問も剣術もすぐに上達し、素晴らしい才能を発揮していた。しかし、だからといって偉そうにもしない。勘一はそんな彦四郎に尊敬の念をもって接するようになる。

 しかし、ある事件をきっかけに彦四郎は変わってしまった。その事件とは、百姓一揆の首謀者とその家族たちが公開処刑された事件である。この出来事をとおして勘一はある夢を描くようになった。それは「武士も領民もすべて米で成り立っている。それなら、大坊潟(海水が混ざった湖)を開拓し、田んぼに変えることができれば、百姓たちがこれ以上殺されることはない」――つまり、大坊潟の開拓を自分の手で成し遂げようと決意したのだ。そして、それを知った彦四郎はある事件を起こして脱藩してしまう。

 それから数十年後。勘一は大坊潟の開拓を自らの手で成し遂げる。一方の彦四郎は、浪人としてすでに亡くなっていた。そこで勘一は、彦四郎が脱藩してからの人生をたどっていくことにしたのだが――その結果、彦四郎が裏で勘一の手助けをしていたことがわかる。そう、この物語は勘一という「光」と、その彼を裏で支え続けてきた彦四郎という「影」の物語なのである。

 では、なぜ彦四郎は「影」であろうとしたのか。それは「光」あるところには必ず「影」があることを知っていたからだ。人生をかけるに値する勘一の夢を実現するには、誰かが「影」として暗躍する必要がある。その役を自ら買ってでたのである。実際、勘一の前には多くの邪魔が入った。しかし、そのたびに彦四郎が裏で助け続けてたのである。もちろん、勘一には何も告げずに――まさに、武士道そのものではないか。

 さて、この物語からわかることは、「光」あるところには必ず「影」が存在するということ。そして、誰かが「影」を引き受けてくれているからこそ、「光」輝ける人がいるということである。

 だから、もし「光」だけを追い求めるような生き方をしているのであれば――結果さえよければプロセスなどどうでもいいと思っているようなら、いずれ「影」の存在に悩まされることになるだろう。勘一のように「彦四郎」に何もしてあげられなかった自分を一生恥じることになるだろう。それが嫌なら、いさぎよく「影」も引き受けるべきだ。

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