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 私たちは誰もが独自の文化を持ち、その文化から強い影響を受けている。食文化もそのひとつだ。

 たとえば、アメリカの子どもたちは、大人たちに比べて10年ほど寿命が短くなるといわれているが、その原因は食文化にある。毎日新鮮な食材が含まれていない添加物まみれのハンバーガーやフランクフルト、ピザ、そして野菜の代わりにポテトを食べ、香辛料や着色料、砂糖が山ほど入った牛乳を飲んでいる。これでは、寿命が短くならないほうがおかしい。

 しかし、多くのアメリカ人にとって、こうした食生活はごく当たり前のこと。ファーストフードや大手スーパーマーケットで加工食品を購入し、家で料理をしない生活が当たり前になっている。そのため、加工される前の食材――ジャガイモ、ブロッコリー、セロリ、玉ねぎ…がどんな形をしているのかわからない小学生が多いという。日本に住んでいる私たちには信じられないことだが、文化にはこれほどの強い影響力がある。

 戦国時代の日本にも、独自の文化を形成している集団があった。「伊賀の忍びたち」である。

 彼らはお金のためなら、親子兄弟でさえも騙し、出し抜き、そして簡単に殺してしまう。もちろん、友人であっても同じだ。義理や人情といった倫理観などまるでない「人でなし」の集団である。

 では、なぜこんな集団が出来上がったのか。

 室町幕府の守護大名を追い出した伊賀の国では、地侍が徹底的に搾取階級となり、下人(農民)たちを使い捨て同然に扱った。生まれてすぐに忍びの術を叩き込み、他国への売り物とする――下人たちは、そんな非人間的な扱いを受けてきた。

 しかし、「忍びの術」が優れているなら違う。地侍たちから重宝される。だから、下人たちは人を騙すことを誇りに思うようになった。突き詰めて考えれば、「忍術」とは「人を騙す行為」そのものだからだ。こうして、人を騙し、出し抜き、そして殺してもなんとも思わない集団が出来上がっていったのである。

 とはいえ、そういう文化のなかで育っても、なかには「まとも」な人間もいる。同僚が傷ついて帰ってきたときに「使えぬなら殺せ。飯代が浮くわ」と命じる仲間たちをみて、「この者どもは人間ではない」と感じられる人もいる。そのひとりが、下山平兵衛。小説『忍びの国』は、この平兵衛が伊賀を離れようと決意するところから物語がはじまる。

 平兵衛の弟は、無門という忍びに殺された。しかし、父は「次男など下人に過ぎぬ」と弟の死をなんとも思っていない。そればかりか、伊賀全体が危険にさらされていることを知ると、息子の仇であるはずの無門の父と平気な顔をして世間話をはじめた。「こんなところではやっていけない」――と、下山平兵衛は、伊賀を離れて、敵である織田信雄軍に降る。

 この頃、織田信長は天下統一に向けて驀進していた。そして、信長の次男・信雄は、伊勢の国を掌握したため、隣国の伊賀へと進撃したのである。

 信雄軍の進撃を知った伊賀の地侍たちは大喜びした。信雄の軍勢を打ち破れば、「あの織田家の軍勢を打ち破った者」として、伊賀の武名が天下にとどろく。すると、下人たちの注文が増え、大儲けできる――。こうして、伊賀の地侍たちは、一致団結して信雄軍を迎えることに決めた。

 この戦で活躍したのが、あの無門である。伊賀の忍びとして最高の技量をもつ無門は、信雄軍を蹂躙し、そして伊賀から追い返すことに成功する。しかし、これが悲劇のはじまりだった。この結果を知った信長が激怒したからだ。それから2年の歳月が流れたある日、信長は自ら軍令を発し、信雄をはじめとする4万4千人の軍勢を伊賀に差し向けた。

 この戦で信長軍は、伊賀の人口が半減したといわれるほどの殺戮をくりかえしたらしい。さすがの忍び達もこの人数が相手ではどうすることもできなかった。あの無門でさえもどうすることもできず、そればかりか最愛の人まで失うことになった。

 無門は最愛の人を失ってはじめて気づいた。「人を殺す」ということがこれほどまでに他人に悲しみを与えていたということに。そしてようやく伊賀の忍びたちについてこう思うようになった――「こいつらはまともな人間じゃねぇ」と。

 さて、この物語からわかることは、外からみれば「異常な文化」であったとしても、その文化のなかで育つとそれが当たり前になってしまうということである。下山平兵衛は「伊賀の忍びたち」の異常さに気づいていた。しかし、それを打ち明けたところで伊賀の忍びたちは誰一人わかろうとはしなかった。もちろん、無門もそのひとりである。

 そして無門は、最愛の人を失ってはじめてその「異常さ」に気づいた。もし下山平兵衛の話を真剣に聞いていれば、最愛の人を失わずにすんだかもしれない。

 では、私たちはどうだろうか。「アメリカの子どもたち」や「伊賀の忍びたち」と同じように異常な文化に染まっていないだろうか。もし、異常な文化に染まりたくないのであれば、自分とは異なる考えの人たちの話を真剣に聞くようにしよう。異文化コミュニケーションをとるようにしよう。そうすれば、無門のような「痛い目」をみずにすむかもしれない。

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