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 スティーブ・ジョブズであれ、ラリー・ペイジであれ、イーロン・マスクであれ――彼らはどうして人々を驚かせるような結果を残すことができたのだろう。歴史に残るような偉業を成し遂げることができたのだろう。

 結論からいえば、情熱をもっていたからだ。「偉大な製品は、情熱的な人々からしか生まれない」「偉大な製品は、情熱あふれるチームからしか生まれない」「本当に情熱を注ぎ込めるものをみつけるまで、皿洗いか何かの仕事をしたほうがいい」――とは、スティーブ・ジョブスの言葉である。

 彼の考えによると、成功する起業家とそうでない起業家の違いのおよそ半分は、純粋に忍耐力の有無にあるという。「これだ」と決めた理想を実現するには、多くの時間をそれに費やさなければいけない。たいていの人なら諦めてしまうようなツライ時期を何度も乗り越えなければいけない。だからこそ――、「このアイデアを実現したい」「この問題を解決したい」「この誤りを正したい」といった、自らが使命と感じる何かで心がたぎっている必要がある。

 江戸時代から明治時代への変革期にあたる日本にも、情熱あふれる女性がいた。広岡浅子さんだ。彼女は、京都の豪商油小路三井家から両替商である加島屋に嫁いでからというもの、家運の傾きかけていた加島屋を救うために寝る間も惜しんで働き続けた。

 彼女が嫁いだときの加島屋には未来がなかった。商いはすべて番頭任せ、使用人ものんびりしており、何につけても無駄が多すぎる。夫の信五郎といえば、謡曲だ茶の湯だと毎日趣味三昧の生活。「もし商いが、自分の代で不振になるようなことにでもなれば…」そう思うと、浅子はじっとしていられなくなった。そこで、彼女は本気で商いを覚えようと、簿記や算術を勉強しはじめる。

 そんな浅子にひとつめの試練が襲い掛かる。当主(義父)が病気で倒れたのだ。さらに、当時関西で流通していた銀貨が廃止される(銀目廃止)。両替商にとって相当な痛手である。しかし、夫といえば、相変わらず趣味三昧の生活。だから、浅子がこの試練を乗り越えるしかなかったのだが――彼女は肺病にかかっていた。

 当時、肺病というのは、治癒がむずかしい病気だといわれていた。もしかしたら、浅子の命も長くはないのかもしれない。しかし、浅子は――「どうせ死ぬのなら、ひと戦してからや」と自らを励まし、この難局に挑んでいく。

 その結果、銀目廃止によって、ほとんどの両替商は倒産したが、加島屋はなんとか食いつなぐことができた。しかし、金は底をついている。それでも、未来を切り開くために、新政府からの献金に応じたり、「廃止された銀目」と「金遣いの貨幣」の交換に応じたりした。もちろん、これらは借金で支払うしかない。

 そして、とうとう進退窮まる苦境に陥る。しかし、ここでも浅子は、「これまでに倒産したとこは負けや。他人のせいやない。時代に乗り遅れて手も打てなんだのやろ。商いは、自力で勝つしかない」という言葉を胸に、病気の体をおして返済弁明のために大阪から江戸へと旅立つ。

 命がけの説得の甲斐あって、借金の返済期限を延ばすことに成功した浅子だが、このままではいずれ加島屋が倒産することは間違いない。そこで浅子は、炭鉱事業に目をつける。今後、需要が増えていくであろう石炭に目をつけたのだ。もちろん、鉱山を買う金など加島屋にはない。それでも彼女は、結婚持参金や嫁入り道具、加島屋の米蔵などを売却し、鉱山を手に入れた。

 その後――、浅子は炭鉱で働く男たちとのいざこざや、炎上事故などを乗り越えて、見事炭鉱事業を成功に導く。さらに、加島銀行の設立や日本女子大学校(現:日本女子大学)の設立にも尽力。明治を代表する女性実業家として世間から注目を浴びるようになった。

 このように、彼女は何があっても情熱を失うことはなかったが、それは死ぬまで変わらなかった。ある日、浅子は両替商時代の同業者である万屋に刺されてしまう。資金提供を断ったことをうらまれたのだ。しかし、ただでは転ばない。この事件をきっかけに、浅子は生命保険の大切さに気づく。これからは医者も増えるだろうし、人間の寿命も延びていくはずだ。だから、生命保険には需要がある――。このように考え、生命保険会社である大同生命を立ち上げることを決意する。

 さらに、浅子は病室で次のような言葉をいった。「人間、何が幸いするか分かりません。こないな目に遭わなんだら、おそらく気いつかずに終わったと思いまっせ。万屋さま、さまどす」。このように、人に刺されたくらいでは情熱を失うどころか、かえって情熱を燃えあがらせていったのである。

 さて、京セラの創業者である稲盛和夫さんは、人生や仕事の結果は「考え方×情熱×能力」で決まるといっているが、まさにそのとおり。スティーブ・ジョブズやラリー・ペイジ、広岡浅子さんだけでなく、何かを成し遂げている人たちは、共通して情熱で燃え上がっている。

 もし、あなたが本当に情熱を注げる何かを見つけていないのであれば――ジョブズがいうように皿洗いの仕事でもして本当に情熱が注げるものを探したほうがいいのかもしれない。

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