webstation plus

finance_01

 小説やドラマを観ていると、「本当に素敵な人だなぁ…」と心から惚れてしまう人に出会うことがあります。

 たとえば、ドラマ『トリック』に出演されていた仲間由紀恵さん。本当にキレイな方なのに面白い。もちろん、ドラマの設定上「面白い役」を演じられていたのでしょうが、そのギャップに一瞬で心をもっていかれました。

 小説『不祥事』の主役・花咲舞もそのひとり。最初は「それほど」だったのですが、物語を読み進めていくうちに、どんどんその魅力に惹かれていきました。

 物語の舞台は、世間の非常識を常識とする銀行。そこで花咲は、少し頼りない上司・相馬と次々と起こる不祥事に立ち向かっていきます。

 たとえば、第一話『激戦区』では、ベテラン女子行員を「余計なコスト」だと考え、自主退職に追い込むために、執拗にいじめを繰り返す課長をぶった切ります。その切れ味があまりにも鋭くて読んでいて気分がスッキリするんですよね。

 ある意味では織田信長と似たような「強さ」を持っているのかもしれません。織田信長が「比叡山」を焼き討ちしたのは、当時の僧侶が腐敗堕落しており、遊興に明け暮れたり、権力を笠に着てあこぎな高利貸をしたり、一般市民に暴力を振るうなど、「既得権益」をむさぼる集団だったからとも言われています。花咲もそんな人間が大嫌いですからね。

 だからといって、人に対して傲慢に振舞うわけではありません。第二話『三番窓口』では、「いつまで待たせるんだよ!」と怒鳴る客に冷静に対応します。しかも、「窓口で怒鳴ったからといって悪気があるわけじゃない。ああいう人って、話してみると意外にいい人だったりするのよ。ちょっと気が短いだけよ」と言える心の広さがあります。

 今ここでこんなこと言うと怒られるかもしれませんが、特になんの取り柄もなく特別な訳でもなく、ただ歌が好きだった自分をここまで連れて来てくれた松本さんに、とにかく感謝の言葉しかないです。

 とは、私の大好きなB’zの稲葉さんの言葉ですが、あれだけ人気があるのにとても謙虚ですよね。他人に対して偉そうに振舞わない人は本当に魅力的です。

 そんな「強さ」と「謙虚さ」を持ち合わせる花咲ですが、優しい一面もあります。傲慢な金融庁の調査官を陥れるために、重要書類の代わりに下着を隠しておくのですが、その下着は疑いをかけられた女性行員のものではなく、花咲自身のものでした。「他人に下着を見られるのはイヤだろう」という配慮からです。

 そして、「あれ、お前のなんだろ。いったいどこでそんなの使うんだ」と相馬にからかわれた花咲は、思いっきり相馬の脛を蹴り上げ去っていく――。この「強さ」と「優しさ」という相反するギャップを持ち合わせているところに惚れてしまったんですね。

 というわけで、小説『不祥事』は、花咲がもつギャップに読者が翻弄されてしまう物語です。ミステリー好きの読者だけでなく、男性にモテたいと願う婚活中の女性にもオススメの小説。ぜひ、ご一読を。

 関連記事

「光」あるところには必ず「影」が存在する/百田尚樹『影法師』

 「光が多いところでは、影も強くなる」――と、ゲーテがいったように、光あるところには必ず影がつきまとう。しかし、私たちは光だけを追い求め、影の存在を否定してしまいがちだ。  たとえば、宝くじを買ったり、株やFXで一儲けし …

今の日本人には「武士道」が足りない/浅田次郎『黒書院の六兵衛』

 私たち日本人は「武士道」を失ってしまったのかもしれない。武士道とは、簡単にいえば「臆病者」「卑怯者」ではない生き方を貫くことだ。しかし、今の私たちは、たとえ「臆病者」「卑怯者」と罵られても、お金を生み出し、有名になりさ …

「存在意義がない人」など一人もいない/東野圭吾『ラプラスの魔女』

 人間にとって大切なのは、この世に何年生きているかということではない。この世でどれだけの価値のあることをするかである。 (オー・ヘンリー)  たしかに、「価値」を生み出すことは大切だ。私たちが仕事をするのも「価値を生み出 …

登場人物が薄っぺらい人間ばかりの小説『白ゆき姫殺人事件』

 他人をあれこれ評価していませんか? 「あいつは仕事のやり方が悪い」 「いい人なんだけどダサいよね」 「あれじゃ、結婚できなくて当然」  などなど。もし、普段からこのような陰口を言っているようなら、キッカケさえあれば友人 …

あなたの人生がつまらない理由/下村敦史『生還者』

 コカイン疑惑報道を受けて、芸能界から引退することを決められた成宮寛貴さん。彼は、母子家庭で育ち、中学生のときに母親を亡くした後、弟の面倒をみるなど苦労を重ねた末に芸能界で活躍されていましたが、写真週刊誌「FRIDAY」 …

「退屈」こそが人生を切り開く/冲方丁『天地明察』

 好きでもない仕事に「のめり込む」のはリスクが高い。なぜなら、自分のミッションに気付く前に、目の前にある仕事に満足してしまう可能性があるからだ。もし、目の前にある仕事がどうしても好きになれないのなら――その仕事に打ち込む …

タイトルに込められた真意とは?/山本兼一『利休にたずねよ』

 小説『利休にたずねよ』には、大きな謎が三つある。  ひとつは、「利休はなぜ美の頂点に君臨することができたのか」。当時、茶の湯には人を殺してでも手に入れたいほどの麗しさがあり、道具ばかりでなく、点前の所作にもそれほどの美 …

低俗な雑誌や本は、読むだけで誰かを傷つける/『陽気なギャングは三つ数えろ』感想

 警察には事実を、ネットには面白い脚色を  というポリシーでブログを書かれている方も多いと思いますが、あまりにも脚色しすぎると、「とある週刊誌」のように名誉毀損で訴えられることになるかもしれません。ダイエットであれ、お酒 …

就活も恋愛も選ばれなければ始まらない/水野敬也『大金星』

 「有名企業に就職しても安心できない時代に突入した」という人たちが増えている。かつて日本が誇っていた「終身雇用制度」が終わりを迎え、いまや有名企業に就職したからといって一生安泰とはいえなくなったからだ。実際、シャープや東 …

子どもには自由を与えよう/原田マハ『奇跡の人』

 『奇跡の人』をご存知だろうか。私は彼女の人生を絵本で知った。映画で観た記憶もある。彼女の名前はヘレン・ケラー。サリバン先生と共に「三重苦――目が見えない、耳が聞こえない、口が利けないという障害」を克服した文字どおり奇跡 …