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 ガンに侵された主人公のナスミが死ぬ前の世界と死んだ後の世界が描かれる物語。それが木皿泉さんの小説『さざなみのよる』です。

 ナスミのように生きることができれば、死もそれほど悪くないことかもしれないと思えてきます。必要以上に死を怖れなくなるかもしれませんよ。

 死ぬときに幸せだったと言える人生を送りたくなる

 ガンになったナスミ。しかし、彼女は死の直前になって、すべてにありがとうって思えるようになりました。

 たとえば、夫の日出男がメンチカツを魚焼きグリルで焼きなおして大げんかをしたときのことを思い出して。彼女は、真っ黒になったメンチカツを見て、発癌性物質だから食べないよ、といった自分が癌になったので、なんだか笑えてきました。

 あのときは、自分の思い通りにならないことに腹を立てていたナスミでしたが、そもそも人間なんて思い通りにはなりません。

 それがわかったのは、病気になってからでした。あの頃の自分はとても幸せだったんだよって、昔の自分に教えたくなります。

 そんなナスミの姿を見ていると、つらいことも多い今の人生もそれほど悪くないかもしれないって思えてくるんですよね。しかも…。

 他人に優しくしようと思える

 ナスミは多くの人たちに愛されていました。姉や妹、おばあちゃんだけでなく、同僚や元彼とその嫁、借金の相手、誘拐犯にまで愛されていたのです。

 なぜなら、他人のために生きてきたから。

 たとえば、ナスミは上司と不倫をして使い捨てられた後輩のために、上司を殴りました。ところが、その姿を見た同僚たちは、自分の利益を考え、誰一人としてナスミの味方にならないんですよね。使い捨てられた後輩までもです。

 しかも、ナスミは上司から殴り返され、歯が折れ、会社を辞めることになりましたが、それでも後悔していませんでした。

 なぜなら、それがナスミらしい生き方だったからです。どれだけ損をしても、自分の正義を貫いていく。そんな人生を歩んでいたんですよね。

 だからこそ、ナスミに多くの人たちが惹き寄せられたのです。そんなナスミの姿を見ていると…。

 自分らしく生きようと思える

 格好つけて人より裕福な暮らしを求めたり、人のためと言いながら自分のために生きたりするのではなく、自分らしく、片意地を張らずに生きていこうって思えるんですよね。

 そんな風に生きられたら、ナスミのように多くの人に愛され、死ぬときに「今までありがとう」って思えるのかもしれません。

 木皿泉の小説『さざなみのよる』。読めば、死ぬのもそれほど悪いことじゃないと思える物語です。気になった方は、ぜひ。

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