思い込みが激しい…なんてことありませんか?
私は思い込みが激しくならないように、普段から賛成意見と反対意見の両方に目を通すようにしていますが、
今村夏子さんの小説『父と私の桜尾通り商店街』を読んで、今後も出来るだけ思い込みに囚われないようにしていこうと思いました。
思い込みの激しい人たちの恐ろしさと滑稽さが描かれていたからです。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 思い込みの激しい人たちの恐ろしさと滑稽さがわかる物語に興味がある人
- 常識外れな行動をとる登場人物たちの物語を読んでみたい人
- 常識がないと搾取される理由を知りたい人
- 今村夏子さんの小説が好きな人
あらすじ:白いセーターを大切にする主人公の物語
物語の主人公は、フィアンセである伸樹さんから去年のクリスマスプレゼントに貰った白いセーターを大切にしているゆみ子。
彼女は、クリスマスイブの晩ご飯は外食しようと思い立ちましたが、
ホテルに行ったことがなく、ホテルに着ていく服も持っておらず、ナイフとフォークどころか箸の持ち方さえもよくわかっていなかったので、いつも通り「お好み焼き屋」に行くことにしました。
ところが、クリスマスイブの三日前に伸樹さんの姉であるともかから、子供たちを預かってくれという電話がかかってきます。
そこで仕方なく子供たちを教会に連れていくことにしたゆみ子でしたが、
子供のひとりが神父さんが話している途中に突然大声で叫び出します。
慌てたゆみ子は、その子の口を押さえましたが、その子は叫ぶのをやめるどころか、何度もゆみ子の胸をパンチしてきました。
さらに、母であるともかに「この人に殺されそうになった」と言うんですよね。
その結果…。という物語が楽しめる小説です。
感想①:常識外れな人たちが登場する短編集
この小説は、先ほどあらすじで紹介した物語を含めて、全部で6つの短編で構成されています。
それぞれ簡単に紹介していくと、
- 人材派遣会社に登録しているヤマネが図書館で安田さんという40歳前後の女性と出会い、彼女がルルちゃんという人形を使って子供への虐待ニュースに対する怒りを鎮める姿を目撃する物語
- 昔太っていたなるみ先輩がチアリーダーとして活躍できるほど細くなり、そして再び太った謎に迫る物語
- 「スナックせと」で働いていた3人の女性がママの誕生日に久しぶりにスナックに訪れ、蜘蛛の巣が張っている部屋で寝ているママが起きるのを待つ物語
- 工事現場で働くモグラさんと呼ばれる作業員の男性に恋をした学童の先生が、地下にモグラハウスがあるという嘘を信じる物語
- 母の浮気が原因で苦労したパン屋の娘が、敵情視察にやってきたパン屋の女性に美味しいパンを食べさせたいと願う物語
このように、どの物語も普通では考えられないストーリーが描かれているんですよね。
伊坂幸太郎さんの小説『オーデュボンの祈り』の感想で、常識外れな物語を読んで視野を広げようと書きましたが、

この小説では、あまりにも常識から外れた行動をとる登場人物ばかりが出てきたので、視野がどうとか考えられないほど続きが気になって仕方ありませんでした。
感想②:常識がないと搾取される
先ほども紹介したように、この小説では常識がない人たちが登場しますが、
いくつかの物語では、その人たちが搾取される姿が描かれています。
たとえば、白いセーターを大切にしていたゆみ子は、クリスマスイブにお好み焼き屋に行けることを楽しみにしており、
いつもは豚玉しか頼まないけれど、クリスマスだからチーズとかおもちとかエビとか普段手を出さないトッピングにも挑戦してみたいと思っていましたが、
フィアンセである伸樹さんはいつもデラックスモダンを頼んでいました。
チーズもおもちもエビもイカも豚も麺も入っているお好み焼きを頼んでいたのです。
こうした関係だったからこそ、姉のともかから子守を頼まれ、また子供たちからも人殺し呼ばわりされたんですよね。
また、人材派遣会社に登録していたヤマネは、一年前から自宅から歩いて行けるところにあるクッキー工場で週に4、5回働いていましたが、
そこで働くレティというベトナム人と友達になり、コナンの漫画を貸していましたが、未だに一冊も返ってきませんでした。
このように、常識がないと自分が搾取されていることにさえ気づけないことがわかります。
『吉本芸人に学ぶ 生き残る力』の感想で、斬新な発想は、常識を知って、それを破ってはじめて成立すると書きましたが、

この物語では、常識を知らずに生きていると、簡単に人から騙されたり、搾取されたりすることがわかります。
感想③:思い込みの激しい人たちの恐ろしさが描かれている
さて、この小説では、「思い込みの激しい人たちの恐ろしさ」をテーマに描かれているように思います。
たとえば、スナックせとに集まった3人の女性たちは、昔とは違う店とママの姿を見てもなんとも思いませんでした。
店の扉の鍵が壊れ、ドアの取っ手が半分ぶら下がっていても、ネズミの巣と化していても、冷えたコタツにママが入っていても、ママは寝ているんだと言います。
「死んでる…」と誰かが呟いても、閉じられたママのまぶたをこじ開け、懐中電灯を当てた瞬間に、瞳孔がシュッとちぢんだのを見て、まだ生きていると言い張るんですよね。
他にも、お腹の中に七福神がいると信じているなるみ先輩や、モグラハウスがあるという嘘を信じる学童の先生など、
思い込みの恐ろしさと滑稽さが描かれています。
深緑野分さんの小説『ベルリンは晴れているか』では、戦勝国側の人たちが、異常な行動を当たり前だと思い込む恐ろしい姿が描かれていましたが、

この小説でも、思い込みの恐ろしさと滑稽さが描かれていたので、普段から視野を広げる努力をしていきたいと思えました。
まとめ
今回は今村夏子さんの小説『父と私の桜尾通り商店街』のあらすじと感想を紹介してきました。
思い込みの激しい人たちの恐ろしさと滑稽さが描かれている物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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