webstation plus

 昨年、電通の新入社員が過労自殺した事件が話題になりましたよね。この事件をキッカケに電通のブラック企業っぷりが次々と明かされていますが、この事件に限らず、仕事が原因で自殺をする人が後を絶ちません。

 では、なぜ彼らは自殺したのでしょうか。大きく三つの要因が考えられます。

1. 再就職先が見つかりそうにないから(社会的要因)
2. 世間から負け犬のような目で見られるから(対人的要因)
3. 会社を辞める勇気がないから(個人的要因)

 前者2つについては、政府や企業、世間一般の意識改革など多大な努力が必要ですが、3つ目の「個人的要因」については、私たち個人が認識を変えれば、なんとかなるかもしれません。すなわち、「ブラック企業は辞めて当然」という認識をもつこと。

 とはいえ、真面目な人や努力してきた人ほど、会社を辞める勇気をなかなか持てないんですよね。これまで頑張って築き上げてきた経歴やプライドを捨てることができないからでしょう。

 しかし、そんな方でも読むだけで「ブラック企業なんて今すぐ辞めてやる!」と思える小説があります。それが『ちょっと今から仕事やめてくる』。

 小説『ちょっと今から仕事やめてくる』のあらすじ

 物語の主人公は、ブラック企業で働く新人・青山隆。彼は朝から晩まで必死になって働いていましたが、上司から罵倒され続け、身も心もクタクタになっていました。

 しかし、会社を辞める勇気はありません。親や友人・知人に「仕事を辞めた自分の姿」をさらしたくなかったからです。「会社を辞める」=「弱い人間」だと思い込んでいたんですね。

 また、上司から執拗に叱られてきたせいで、自信を失くしていたのも、辞められない原因になっていたのでしょう。

 そうやってクタクタになりながらも働き続けた結果、彼はある日、無意識のうちに線路に飛び込もうとします。「このまま、この心穏やかなままで気を失ったら、ホームに落ちるんだろうか」と。

 そこに現れたのが、同級生を自称する山本。彼は線路に飛び込もうとする隆を止め、そのまま強引に飲みに連れていきました。はじめは山本に不信感を抱いていた隆でしたが、彼と話しているうちに心を開いていきます。しかし――。

 実は、山本は同級生でも何でもない赤の他人だったのです。しかも、彼の名前をネットで検索したところ、三年前に激務で自殺をした男性と同じ名前であることがわかりました。いったい山本とは、何者なのか。

 というミステリー要素もある物語なので、最後まで楽しく読める小説です。さらに、ブラック企業で働くデメリットもわかりやすく描かれていました。

 ブラック企業を辞めない人に残された2つの選択肢

 この小説を読んで、ブラック企業で働き続ける人に残された道は2つしかないことがわかりました。それは:

1. 身も心もクタクタになりながらも絶え続ける被害者への道
2. 新入社員など自分より立場が弱い人にツライ状況を転換する加害者への道

 そもそもブラック企業では、今いる人数では処理しきれない圧倒的な仕事量があります。そのため、新入社員でも残業時間が100時間を余裕で越える肉体的にツライ状況に追い込まれるわけですね。

 もちろん、それだけではありません。非常に厳しい納期が決まっているので、誰もがプレッシャーを感じています。そのストレスを個人で処理できればいいのですが、趣味を楽しむ時間もないので、処理しきれません。すると、どうなるのか。

「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」
「男性上司から女子力がないと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である」「欝だ」

(出典:電通新入社員:「体も心もズタズタ」…クリスマスに命絶つ – 毎日新聞

 これは過労自殺した高橋まつりさんの書き込みを抜粋したものですが、彼女の上司や先輩たちのように、自分より弱い立場の人を叱ったり、バカにしたりして、ストレスを発散するわけです。そうすることで、何とか自分を保っている。

 つまり、ブラック企業で働き続ける限り、被害者になるか、加害者になるか、どちらかの道しか残されていないのです。

 第3の道を選ぼう

 もちろん、被害者であろうが、加害者であろうが、身体も心も疲弊していきます。被害者はもちろんのこと、加害者であっても、一時的にはストレスが発散できたとしても、根本的な解決には至らないからです。

 さらに、そんな状態で働く姿をみて誰が喜ぶでしょうか。親やパートナー、子どもたちが見れば悲しむだけですよね。

 それなら、ブラック企業は今すぐ辞めたほうがいいと思いませんか。

 他にも企業は山ほどありますし、たとえすぐに転職先が見つからなかったとしても、親やパートナーに頼ることだってできます。もちろん、福祉もありますよね。つまり:

大丈夫よ。人生なんてね、生きてさえいれば、案外なんとかなるもんよ。

 まとめ

 ブラック企業で働いている限り、夢ある未来は望めません。鬱になったり、自殺に追い込まれたり、あるいは、パワハラやセクハラを当たり前と思う「イヤなヤツ」になってしまいます。

 だからこそ、勇気をもってブラック企業を辞める必要があるのですが、どうしても辞める勇気がもてない方は『ちょっと今から仕事やめてくる』を読んでみてはどうでしょうか。そうすれば、自分らしい一歩が踏み出せるかもしれませんよ。

 関連記事

「存在意義がない人」など一人もいない/東野圭吾『ラプラスの魔女』

 人間にとって大切なのは、この世に何年生きているかということではない。この世でどれだけの価値のあることをするかである。 (オー・ヘンリー)  たしかに、「価値」を生み出すことは大切だ。私たちが仕事をするのも「価値を生み出 …

今の日本人には「武士道」が足りない/浅田次郎『黒書院の六兵衛』

 私たち日本人は「武士道」を失ってしまったのかもしれない。武士道とは、簡単にいえば「臆病者」「卑怯者」ではない生き方を貫くことだ。しかし、今の私たちは、たとえ「臆病者」「卑怯者」と罵られても、お金を生み出し、有名になりさ …

登場人物が薄っぺらい人間ばかりの小説『白ゆき姫殺人事件』

 他人をあれこれ評価していませんか? 「あいつは仕事のやり方が悪い」 「いい人なんだけどダサいよね」 「あれじゃ、結婚できなくて当然」  などなど。もし、普段からこのような陰口を言っているようなら、キッカケさえあれば友人 …

子どもには自由を与えよう/原田マハ『奇跡の人』

 『奇跡の人』をご存知だろうか。私は彼女の人生を絵本で知った。映画で観た記憶もある。彼女の名前はヘレン・ケラー。サリバン先生と共に「三重苦――目が見えない、耳が聞こえない、口が利けないという障害」を克服した文字どおり奇跡 …

宝くじに当選しても「幸せになれない人」とは/川村元気『億男』

 「宝くじで3億円が当たったら何がしたい?」――あなたは、この質問になんて答えるだろうか。もし、「世界一周旅行がしたい」「高級車が欲しい」「豪邸を建てたい」なんてごくありふれた答えしか浮かばないようなら、たとえ3億円を手 …

『食堂のおばちゃん』は今すぐ食堂に通いたくなる心温まる小説

(※『食堂のおばちゃん』表紙より)  食堂に勤めた経験がある著者・山口恵以子さんが描いた本作品。読めば心が温まるだけでなく、今すぐ食堂で美味しいご飯が食べたくなること間違いなしの小説です。  今回は小説『食堂のおばちゃん …

今の生き方でどれくらい生きるつもり?/『終末のフール』感想

 「才能もないのに努力するのは時間のムダだ」とか、「新しいことを始めるよりも、今やっている何かを諦めることが大切だ」っていう人いますよね。実は、こういった言葉の背後には、「私たちはいつか死ぬ」という当たり前の事実が隠され …

『アコギなのかリッパなのか』は政治が身近に感じられるミステリー小説

(※『アコギなのかリッパなのか』表紙より)  身近に感じられないだけでなく、どことなくダークな感じがする政治の世界。そんな政治の世界を身近に感じさせ、面白いミステリーに仕上げたのが畠中恵さんの小説『アコギなのかリッパなの …

言葉には力がある/原田マハ『本日は、お日柄もよく』

 言葉には力がある。たとえば、2008年のアメリカ合衆国大統領選挙で、バラク・オバマ氏が民主党の候補者に選ばれたのは、「言葉の力」を用いたからだ。  当時、「次の大統領候補に」という呼び声が最も高かったのは、資金力と知名 …

『フィッシュストーリー』は異なるジャンルの4作品が楽しめる中編小説

(※『フィッシュストーリー』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『フィッシュストーリー』。伊坂ワールドで大人気の泥棒・黒澤が活躍する『サクリファイス』『ポテチ』など、ジャンルの異なる4作品を集めた中編小説集です。  黒澤フ …