webstation plus

 タイムパラドックスを描いた小説。それが伊坂幸太郎さんの『PK』です。

 この小説は3つの短編で構成されているのですが、タイムパラドックスを念頭に置いて順番を並び替えると、まるで一つの長編のような物語が出来上がるんですよね。それが面白い。

 とはいえ、突然スーパーマンが登場するなど意味不明なシーンも多いのですが…。

 未来は決まっている?

 私たちの未来は、今この瞬間の行動の積み重ねで決まっていくように思えます。しかし、まるで運命で定められているかのような出来事もあるんですよね。

 たとえば、第一次世界大戦もそのひとつ。この戦争はオーストリアの皇太子がサラエボで暗殺されたことがキッカケで始まりました。

 しかし、簡単に暗殺が成功したわけではありません。5人の暗殺者が皇太子を殺そうとして失敗。そのことを知った6人目は暗殺を諦めて喫茶店に入りますが、そこにたまたま皇太子が現れて…。

 というように、まるで運命に導かれたかのように成し遂げられたんですよね。

 では、運命が決まっているのだとしたら、私たちの日々の選択には何の意味もないのでしょうか。

 子供たちに自慢できるほうを選べばいい

 『PK』に登場する作家も悩んでいました。謎の人物から小説を手直しするように圧力をかけられていたからです。

 要求に従えば物語の内容は薄っぺらくなりますが、従わなくても読者の人生を変えられるほどの力ある物語にはなりません。

 そこで作家は妻に相談したところ、

「簡単だよ。何をしても、大きな影響がないんだったら」
「子供たちに自慢できるほうを選べばいいんだから」

 この言葉にハッとさせられたんですよね。どんな選択をしても影響がないんだったら、子供たちに自慢できる選択をした方がいいですよね。

 臆病は伝染する。そして勇気も伝染する

 このように、私たちの選択には大きな影響力はないのかもしれませんが、小さな選択の積み重ねが未来の流れを作っていくというのが『PK』のテーマ。

 第一次世界大戦のように運命で決まっているかのような出来事もありますが、捉え方ひとつで未来の方向性が変わります。

 たとえば、一人が挫けて恐怖にしゃがみ込めば、隣にいる人も同じようにしゃがみこみます。それがどんどん連鎖すれば誰も未来に希望が持てなくなります。

 しかし、臆病だけでなく勇気も伝染するんですよね。

 そんな思いが込められた小説が伊坂幸太郎さんの『PK』。タイムパラドックスが楽しめるだけでなく、勇気を出して前向きに生きていこうと思える物語です。

 ちなみに、文庫本には物語の紐解き方が解説として載っているので、気になった方は、ぜひ文庫本でお読みください。

 関連記事

本当の恋をしていますか?知念実希人『崩れる脳を抱きしめて』は心揺さぶられる恋愛ミステリー小説

(※『崩れる脳を抱きしめて』表紙より)  知念実希人さんの小説『崩れる脳を抱きしめて』。  研修医の碓氷蒼馬(うすい そうま)が、脳に爆弾を抱える弓狩環(ゆがり たまき)と出会い、恋に落ち、そして彼女の死の謎に迫る恋愛ミ …

人と対等に付き合ってる?伊坂幸太郎『チルドレン』は口達者な家裁調査官が奇跡を起こす物語

(※『チルドレン』表紙より)  人と対等に付き合っていますか?  私は対等に付き合っていると思っていましたが、伊坂幸太郎さんの小説『チルドレン』を読んで反省しました。障害のある人たちを「可愛そう」という視点で見ていること …

心揺さぶられる物語!?浅田次郎『おもかげ』は定年退職を迎えたサラリーマンが人生を振り返る小説

(※『おもかげ』表紙より)  浅田次郎さんの小説『おもかげ』。  定年を迎えたサラリーマン・竹脇正一が、送別会の帰りに倒れ、病院内で不思議な体験を繰り返す物語です。  読めば、彼の生き様や家族の温かさに心揺さぶられること …

犯人を追いつめるだけじゃない!?東野圭吾『虚像の道化師』は心に残る短編小説

(※『虚像の道化師』表紙より)  東野圭吾さんの小説『虚像の道化師』。  ガリレオシリーズ第7弾の本作は、犯人を追い詰めるだけじゃない短編ミステリー小説です。読めば、きっと心に残る短編に出会えるはず!?  今回は『虚像の …

今すぐ近所の食堂に通いたくなる小説/山口恵以子『食堂のおばちゃん』感想

(※『食堂のおばちゃん』表紙より)  外食していますか?  私は美味しい食事を取るために外食してきましたが、『食堂のおばちゃん』を読んでお店の人とコミュニュケーションを取るために外食するのもありかなと思うようになりました …

自分らしさなんて追い求めるものじゃない

(※『地球星人』表紙より)  自分らしく生きていますか?  私は自分らしく生きていると思っていましたが、村田沙耶香さんの小説『地球星人』を読んで「自分らしさとは何なんだろう」と考えるようになりました。  というよりも、む …

なぜ私たちはアナログな人間関係を求めるのか?/ビートたけし『アナログ』感想

(※『アナログ』表紙より)  メールやLINE、SNSでどれだけやりとりをしても、なぜだか寂しい…。そんなことありませんか。  それは私たちがアナログな世界で生きているからです。多くのものがデジタル化されるほど、私たちは …

悩むことに価値がある!?東野圭吾『真夏の方程式』は感動間違いなしの小説

(※『真夏の方程式』表紙より)  東野圭吾さんの小説『真夏の方程式』。  仕事で玻璃ヶ浦(はりがうら)にやってきた湯川准教授が小学五年生の恭平と出会い、思わぬ事件に巻き込まれる物語です。読めば感動すること間違いなし!? …

『まく子』は思春期のモヤモヤした記憶を思い出せる小説

(※『まく子』表紙より)  西加奈子さんの小説『まく子』。  少し不思議なお話ですが、思春期の頃に感じていた「大人になりたくない!」という気持ちや、変化を受け入れる勇気がなくてモヤモヤしていた記憶が思い出せる小説です。最 …

『土佐堀川』は自分の悩みがちっぽけに思える小説

(※『土佐堀川』表紙より)  古川智映子さんの小説『土佐堀川』。  NHK連続テレビ小説「あさが来た」の原作で、広岡浅子さんの生涯を描いた物語です。読めば自分の悩みがちっぽけに思えること間違いなし!?  今回は、『土佐堀 …