webstation plus

(※『決定版 鬼平犯科帳(1)』表紙より)


 池波正太郎さんの小説『鬼平犯科帳(1)』。

 大きくみると鬼平が悪者を退治するという構成の物語ですが、盗人にもモラルがある者やそうでない者がおり、盗人同士でも闘いを繰り広げるなど、正義と悪がごっちゃ混ぜになった小説です。

 読めば正義と悪をあわせ持つ鬼平の魅力にハマること間違いなし!?

 今回は、『鬼平犯科帳(1)』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『鬼平犯科帳(1)』のあらすじ(『唖の十蔵』)

 火付盗賊改方の役目についている小野十蔵。

 火付盗賊改方とは、町奉行とは別の特別警察のようなもので、江戸市中の犯罪を取り締まるだけでなく、自由に他国に飛んでいき犯人を捕まえることができる役目です。

 そんな仕事をしていた十蔵は、「野槌の弥平」と呼ばれる凶悪無残の盗賊に探りを入れていました。

 しかし、手先の一人が小間物屋を営んでいることを知った十蔵が乗り込むと、すでに妻のおふじに殺されていました。浮気をしたり、お腹の子を蹴ったりするその男に、我慢の限界が来て殺してしまったのです。

 そんなおふじを可哀想に思った十蔵は彼女を世話するようになりました。しかし、それが原因で「野槌の弥平」から脅されることに。

 一体、十蔵はどうするのか!?

 『鬼平犯科帳(1)』のおすすめポイント

1. 正義と悪がごちゃ混ぜになった短編集

 『鬼平犯科帳(1)』は、正義と悪がごちゃ混ぜになった全8章で構成されている短編集です。正義と悪がきっちり色分けされていないので、読んでいて面白いんですよね。

 なかでもおすすめなのは、『唖の十蔵』『本所・桜屋敷』『血頭の丹兵衛』。

 それぞれ簡単に紹介していきます。

『唖の十蔵』

 鬼平こと長谷川平蔵が初登場の物語。詳しい内容は「あらすじ」を確認ください。

『本所・桜屋敷』

 前回取り逃がした「小川や梅吉」らしき男を見たという密告が平蔵のもとに。早速、市中見回りに出かけたところ、若い頃に道場で共に剣術を学んだ岸井左之助と再会します。

 左之助は平蔵と同じく40歳を過ぎていましたが、剣術師範の孫娘・おふさに恋をしていました。そのせいで今でも妻や子どもがいません。

 しかし、当のおふさは、旦那と死に別れ、盗賊と男女関係を持つまでに落ちぶれていました。そのことを知った左之助は…。

 左之助の純愛に感動する物語です。

『血頭の丹兵衛』

 以前捕まえた粂八が平蔵に敬愛の念を込めて声をかけてきました。

 粂八は、両親の顔も知らず、売り飛ばされて生きてきた盗人。盗賊夫婦の子に生まれて、孤児になった見ず知らずの赤子を事もなげに養女にした平蔵に尊敬の念を抱いていたのです。

 それを知った平蔵は彼を密偵として使うことを考えます。そんなとき、彼に打ってつけの仕事が見つかりました。粂八の元親分「血頭の丹兵衛」を名乗る盗人が、残虐な盗みを働いていたのです。

 粂八は、「血頭の丹兵衛」を名乗る偽物を捕まえると息巻きますが…。

 最後に切なくなる物語です。

2. 義理人情にあつい盗賊たちがいた!?

 先ほど紹介した粂八のように、盗賊と言えども義理人情にあつい人物が大勢いました。

 彼ら真の盗賊が考えるモラルは、

一、盗まれて難儀するものへは、手を出さぬこと。
一、つとめをするとき、人を殺傷せぬこと。
一、女をてごめにせぬこと。

 の三か条で、これから外れた、どこにでも転がっているような泥棒を「あさましい」と思っていたのです。

 しかし、平蔵が生きる時代になると、「あさましい」泥棒が増えてしまいました。

 そこで、「真の盗賊」vs「あさましい泥棒」の闘いが起こります。

 「鬼平」vs「盗賊」以外にも見どころがある物語です。

3. 正義も悪も受け入れる鬼の平蔵

 一方の平蔵も、正義だけを掲げて生きるような人物ではありませんでした。粂八のような盗人でも、見所があると仲間に引き入れます。

 また、平蔵自身も若い頃はヤンチャをしていました。躰で稼ぐ女の金をうばい、いいように飲み食いし、配下の無頼どもにわけあたえ、そのくせ、その女が他の男に腕に抱かれるとすさまじいばかりの妬みを燃やして殴ったり蹴ったり…。

 そんな正義と悪を併せもつ平蔵だからこそ、正義と悪を飲み込みような裁きができるんですよね。

 読んでいて胸が熱くなる物語です。

 最後に

 池波正太郎さんの小説『鬼平犯科帳(1)』。読めば正義と悪をあわせ持つ鬼平の魅力にハマること間違いなし!?

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

 関連記事

加賀恭一郎が初登場!?東野圭吾『卒業』はモラトリアムから抜け出したくなる小説

(※『卒業』表紙より)  モラトリアムから抜け出せていますか。  もし、「友人と過ごす時間がいちばん楽しい」と感じているようなら、子どもから大人に移行する橋渡し期間(=モラトリアム)から抜け出せていない証拠。今すぐ考え方 …

加賀恭一郎が恋!?東野圭吾『眠りの森』はバレエに人生を捧げた人たちの物語

(※『眠りの森』表紙より)  人生を捧げてもいいと思えるほどの「好きなこと」がありますか。  収入が減っても、プライベートな時間がなくなっても、結婚や恋愛が出来なくても、やりたいと思えること。  そんな何かを持っている人 …

仕事に人生をかけてる?塩田武士『騙し絵の牙』は大泉洋をあてがきした小説

(※『騙し絵の牙』表紙より)  仕事に人生をかけてますか?  私はかけていません。仕事の悩みは星の数ほどありますが、どれも「叱られたくない!」というネガティブな感情からスタートしています。  「成し遂げたいことがある」な …

忍者は残酷!?『忍びの国』は家庭環境の影響力に驚かされる小説

(※『忍びの国』表紙より)  和田竜さんの小説『忍びの国』。  織田信長の次男・信雄(のぶかつ)が伊賀忍者たちに煽られ、信長の忠告を無視して伊賀に攻め込む物語です。読めば家庭環境や育った環境の影響力に驚くこと間違いなし! …

畠中恵『ぬしさまへ』は若だんなの大人になりたい想いに感動する小説

(※『ぬしさまへ』表紙より)  畠中恵さんの小説『ぬしさまへ』。  『しゃばけ』シリーズ第2弾の本作は、病弱で両親や妖怪たちから甘やかされて育った若だんなが大人になりたいと強く願う物語です。読めば自分も頑張ろうと思えるこ …

若だんなに勇気づけられる!?畠中恵『うそうそ』は他人を犠牲にしても利益を得ようとする人たちを描いた小説

(※『うそうそ』表紙より)  畠中恵さんの小説『うそうそ』。  しゃばけシリーズ第5弾の本作は、相変わらず病弱な若だんなが箱根で誘拐事件、天狗の襲撃、止まらない地震などの厄介ごとに巻き込まれる物語です。  読めば、若だん …

春ちゃんが結婚!?畠中恵『ねこのばば』は魅力あるキャラクターが多数登場する時代小説

(※『ねこのばば』表紙より)  畠中恵さんの小説『ねこのばば』。  しゃばけシリーズ第3弾の本作は、魅力あるキャラクターが多数登場する時代小説です。ついに若だんなの幼馴染・春ちゃんが結婚する!?  今回は『ねこのばば』の …

大人を馬鹿にするなよ!?伊坂幸太郎『マリアビートル』は中学生が大人を手玉にとる小説

(※『マリアビートル』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『マリアビートル』。  殺し屋シリーズ第二弾の本作は、前作『グラスホッパー』から6年後の世界を描いた物語です。読めば、大人を馬鹿にする中学生に殺意を覚えること間違い …

本当の恋をしていますか?知念実希人『崩れる脳を抱きしめて』は心揺さぶられる恋愛ミステリー小説

(※『崩れる脳を抱きしめて』表紙より)  知念実希人さんの小説『崩れる脳を抱きしめて』。  研修医の碓氷蒼馬(うすい そうま)が、脳に爆弾を抱える弓狩環(ゆがり たまき)と出会い、恋に落ち、そして彼女の死の謎に迫る恋愛ミ …

悩みにどう向き合う?畠中恵『おまけのこ』は優しさと哀しさに満ち溢れた小説

(※『おまけのこ』表紙より)  畠中恵さんの小説『おまけのこ』。  しゃばけシリーズ第4弾の本作は、若だんなや幼馴染の栄吉、お雛ちゃんたちが自分の悩みにゆるく向き合う時代小説です。  読めば彼らの優しさと哀しさに心動かさ …