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 誰のために仕事をしていますか。

 私は自分と家族のために仕事をしていますが、知念実希人さんの小説『ひとつむぎの手』の主人公・平良祐介は違いました。

 自分のためと言いながらも、何よりも患者のために仕事をするんですよね。そんな祐介の行動に本当の仕事とは何か考えさせられる物語です。

 誰もが自分のために仕事をしている

 祐介は心臓外科医になるために大学病院で過酷な勤務に耐えていましたが、他の多くの医師たちは患者のためではなく、自分のために仕事をしていました。

 他の医局と患者の奪い合いをしたり、心臓外科医になるために同僚の足を引っ張ったり、後輩に雑務ばかりやらせたりと自分のことしか考えていません。

 だからこそ、患者のためを思って働く祐介に多くの雑用がふりかかってきたのですが、それは心臓外科医にとって、手術以外のこと――患者の心のケアなどは雑用でしかなかったからです。

 ところが、そんな祐介にチャンスが訪れます。研修医3人のうち2人を入局させることができれば、希望する関連病院へ出向させてくれると言うのです。しかし…。

 本当の仕事とは何か?

 研修医たちも自分のことしか考えていませんでした。

 牧はアカデミックなことにしか興味がなく、郷野は手術の腕だけに目が向き、宇佐野は亡くなった妹と患者を重ねて見ています。

 そんな彼らは、クソ真面目な祐介をバカにしていましたが、祐介と共に行動するようになって、尊敬するようになっていくんですよね。

 なぜなら、祐介は、患者のためにアカデミックな知識や手術の腕を磨き、さらに患者の気持ちに寄り添う努力をしていたからです。

 祐介にとっては当たり前の行動でしたが、彼の姿を通して、本当の仕事とは、出世するためでも、自分のためでもなく、患者のためにするものだと気づかされます。

 その結果、彼ら三人は心臓外科医を目指す決意をしますが…。

 希望が叶うことが幸せとは限らない

 祐介は望んでいる出向先に行くことができませんでした。理由は実際に読んで確かめて欲しいのですが、それが祐介にとっての幸せにつながっていきます。

 知念実希人さんの小説『ひとつむぎの手』は、人のために仕事をすれば、いつか自分にとっての幸せにつながっていく…。そう思える物語でした。

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