webstation plus

 人から愛されていますか?

 私はどちらかといえば愛されていると思いますが、もし、家族からあまり好かれていない、友人も少ない、自分のことをわかってくれる人が誰もいないと感じているようなら、今すぐ生き方を変えた方がいいかもしれません。

 浅田次郎さんの小説『おもかげ』を読めば、「人から愛されるような生き方をしていこう」と心から思えますよ。

 人から愛されているかどうかは死ぬ直前に明らかになる

 物語の主人公は、商社マンとして定年まで働き続けた竹脇正一。彼は定年を迎えた日の送別会の帰り道に地下鉄で倒れ、病院に運ばれました。

 容態は厳しく、助かる見込みはありません。そんな彼に多くの見舞客が訪れ、彼との思い出を語ります。

 会社の同僚で、現在は社長の堀田憲雄は、社宅住まいだった頃の彼との思い出を語り、幼馴染の永山徹は、施設暮らしだった頃の思い出を、義理の息子である大野武志はグレて少年院に入った自分を何も言わずに受け入れてくれた思い出を…というように、誰もが正一とのポジティブな思い出を語るんですよね。

 なぜなら、誰もが正一に「もっと長生きしてほしい」と思っていたからです。死の直前にそう思ってもらえるのは本当に愛されているからですよね。

 これほどまでに多くの人に愛されていた正一ですが、実は…。

 誰からも愛されない苦しい時代があった

 誰からも愛されない苦しい時期がありました。

 その時期とは幼い頃で、彼は両親の顔も知らず、捨てられた事情も知らず、赤ん坊の頃から養護施設(孤児院)で育ちます。友人はいましたが、両親がいない寂しさは隠しきれませんでした。

 しかし、彼は寂しさを振り切るかのように持ち前の能力を発揮してエリート街道を邁進します。高校を卒業後、奨学金をもらいながら国立大学に進学し、一流企業に就職。妻の節子と結婚して幸せな家庭を築きました。

 そんな正一が定年を迎え、その日に突然倒れて病院に搬送されるわけですが、死を直前にありえない事態に遭遇します。指一本も動かせない状況にも関わらず、身体から抜け出し、マダム・ネージュと名乗る年上の女性と食事に出かけるようになるんですよね。

 実は、ここに浅田次郎さんらしい泣けるポイントが隠されています。苦労時代のご褒美として死の直前に驚くようなプレゼントを用意していたのです。

 詳しくは本編を読んでもらうとして、正一は苦しい時代があったにも関わらず、人にはそのことを語りませんでした。妻にさえもです。そんな彼だからこそ…。

 愛される人とは「誰よりも人を愛する人」のこと

 多くの人に愛されたのです。正一は、人から愛されなかったことを言い訳にしませんでした。むしろ、人を愛することに注力します。

 だからこそ、妻や娘、義理の息子や幼馴染、同期の社長などから愛されたんですよね。

 反対に、人から愛されることに注力する人は、自分のことばかり考えているので愛してもらえません。

 なんだか矛盾しているようにも思えますが、人から愛されたいと願うなら、まずは自分から人を愛する必要があります。そんなコミュニケーションの機微に気づかせてくれる物語でした。

 ◆

 浅田次郎さんの小説『おもかげ』。読めば「心揺さぶられること間違いなし!」の物語なので、気になった方はぜひ読んでみてください。

 主人公の竹脇正一のように、「人から愛されるような生き方をしていこう」と心から思えますよ。

 関連記事

有川浩『別冊図書館戦争2』感想/性格が悪い人ほど正々堂々と勝負しない

 仕事でも、恋愛でも、趣味の世界でも正々堂々と勝負しない人っていますよね。  他人の成果を横取りしたり、ありもしない悪口やデマを流したり、負けそうになると強引に力でねじ伏せようとしたりと容赦ありません。  では、このよう …

伊坂幸太郎『シーソーモンスター』/対立はなくならない…ではどうする?

 なぜか出会った瞬間にイヤな気持ちになる人っていますよね。何がイヤなのかはわからないけれど、とにかく気分がムカムカしてくる人がいます。  そんな人がいる限り「対立」はなくなりませんが、ではどうすれば互いにとって良い関係が …

人に騙されるのが好きな人が多すぎる/伊坂幸太郎『SOSの猿』感想

 ツイッターを見ていると、ある有名人の発言を徹底的に擁護している人たちがいます。明らかに差別的な発言をしているのに、誰かを傷つけているのに、擁護する人たちがいます。  なぜなら、彼らはその有名人に騙されたいと願っているか …

心に闇がある人ほど光を演出する!?/東野圭吾『マスカレード・イブ』

(※『マスカレード・イブ』表紙より)  誰もが自己顕示欲を持っていますよね。出世したかったり、モテたかったり、贅沢な暮らしをしたかったりと、人と比べてスゴイと思われるような生活に憧れています。  しかし、その欲求の裏側に …

有川浩『図書館革命』感想/革命は一人ひとりの自覚から始まる

 気がつけば新しい法律が決まっていることってありますよね。  司法試験の制度が変わったり、保育料が無償化されたり、消費税が上がったりと、私たちの生活に直結する内容が、いつの間にか決まっていることがあります。  もちろん、 …

適量を知ることが自分らしく生きる秘訣/柚木麻子『BUTTER』感想

 首都圏連続不審死事件をご存知ですか。多くの男性を虜にして多額の経済的援助を引き出すことに成功した女性・木嶋早苗さんが犯した殺人事件です。  しかし、彼女は若くもなく、美しくもなく、スリムな体型でもありませんでした。そん …

百田尚樹『風の中のマリア』感想/人間に与えられた特権を使わないのはもったいない

 人間に与えられた特権を活用していますか?  実は私たち人間には、他の生物にはない特権が与えられています。それにも関わらず、その特権を使わずに他の生物と同じように生きている人が多いんですよね。  百田尚樹さんの小説『風の …

他人の考えに縛られる必要はない/伊坂幸太郎『重力ピエロ』感想

 強姦魔に犯されて生まれてきた子・春が、遺伝子のつながりと家族との絆の間で揺れ動く物語。それが伊坂幸太郎さんの小説『重力ピエロ』です。  とにかく暗い物語ですが、ラストですべてが救われたような気分になれるんですよね。その …

木皿泉『カゲロボ』/他人の不幸を求めている人へ

 他人の不幸を望んでいませんか。  もしそうだとしたら、心が傷だらけの証拠。今すぐ癒される何かに触れるべきです。  たとえば、木皿泉さんの小説『カゲロボ』などはいかがでしょうか。  人の不幸をみて安心したい   …

若だんなに勇気づけられる!?畠中恵『うそうそ』は他人を犠牲にしても利益を得ようとする人たちを描いた小説

(※『うそうそ』表紙より)  畠中恵さんの小説『うそうそ』。  しゃばけシリーズ第5弾の本作は、相変わらず病弱な若だんなが箱根で誘拐事件、天狗の襲撃、止まらない地震などの厄介ごとに巻き込まれる物語です。  読めば、若だん …