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 戦争に敗れたとある国の物語。それが伊坂幸太郎さんの小説『夜の国のクーパー』です。

 相変わらず謎の生物や個性的なキャラクターが登場しますが、視野を広く持たないと簡単に人に騙されることがわかる物語なんですよね。何度も驚かされます。

 戦争に負ける恐ろしさが味わえる

 この物語は、とある国が戦争に負け、敵国の兵士達が占領にやってくるところから始まります。王は安全だから心配するなと言いますが、その王がいきなり撃ち殺されるんですよね。

 その後の国民たちの不安は言うまでもありません。あれほど慕っていた王が殺され、しかも占領兵が女性を襲っている姿を目撃したり、過去に戦争で負けたときの噂話が広がったりと、恐怖に支配されていきます。

 その噂話とは、少しでも刃向かった人間は拷問され、仲間の名前を吐くまで痛めつけらる。名前を吐けば解放されるが、仲間を裏切ったことを後悔し、精神的に追い詰められていく…というものでした。

 さらに、ネコの世界でも似たような出来事が起こっていました。ネズミたちがネコに話しかけ、生贄を差し出すから、他のネズミは襲わないでくれと提案してきたのです。

 このように、力を持つ側と持たない側の世界が二分され、そのコントラストが色濃く描かれているので、力を失う恐ろしさがひしひしと伝わってくるんですよね。

 人の話を鵜呑みにするのはそれ以上の恐怖

 しかし、何よりも恐ろしいのは、人の話を疑わずに鵜呑みにすることでした。実は、国民たちが慕っていた王は、彼らが思っていたような人物ではなかったのです。

 ネタバレになるので詳しくは書きませんが、この視点で物語を見直してみると、これまで信じてきた世界が一変します。正義が悪になり、悪が正義になるんですよね。

 正義のためにと思って命をかけた行動が、まったく何の役にも立っていなかったことがわかります。ほんと無駄死にです。

 では、なぜ国民たちは嘘を疑うことなく信じてしまったのでしょうか。

 狭い世界に閉じこもっているのが原因

 これにつきます。国民たちが外の世界に興味を持っていなかったからです。

 もちろん、王がそのように仕向けたのは言うまでもありませんが、外の世界を見ようとせず、王の言葉を鵜呑みにしたので、命を無駄にしてしまったんですよね。

「俺を信じるかどうかは、おまえたちの自由だ。どんなものでも、疑わず、鵜呑みにすると痛い目に遭うぞ。たえず、疑う心を持てよ。そして、どっちの側にも立つな。一番大事なのはどの意見も同じくらい疑うことだ」

 とは占領兵の言葉ですが、家族でも、友人でも、会社でも、誰かの言葉を鵜呑みにして後悔しないようにしていきたいですね。

 ◆

 伊坂幸太郎さんの小説『夜の国のクーパー』。視野を広く持たないと簡単に人に騙されることがよくわかる物語です。ほんと何度も驚かされますよ。

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