webstation plus

 『魔王』から50年後の世界を描いた小説『モダンタイムス』。前作とはガラリと変わって、そのストーリーに惹き込まれ、最後まで一気に読みました。残酷なのに面白い小説です。

 誰もが運命に流されている

 物語の主人公はシステムエンジニアの渡辺拓海。彼はとても恐ろしい妻がいるのに浮気をしました。

 その結果、妻が雇った暴力業の男に指を切られかけるのですが、渡辺にとっては、これが初めての経験ではありませんでした。以前にも、妻に浮気を疑われ、恐ろしい目にあっています。

 それにも関わらず、なぜ彼は浮気をしたのでしょうか。それは、浮気相手との出会いが運命的だったからです。ダメだとわかっているのに、流されてしまったんですよね。

 世の中にも流れがある

 個人にも流れがあるように、世の中にも大きな流れがあります。

 たとえば、学校教育。昔は「詰め込み教育」と言われるほど、とにかく勉強することを推奨されていましたが、それではダメだと「ゆとり教育」が生まれました。

 ところが、それからしばらくすると、「ゆとり教育」はダメだと言われ、今ではもっと勉強しなさいと叫ばれていますよね。

 このように世の中は右や左にゆらゆらしながら進んでいます。

 流れに乗った人間がリーダーシップを発揮する

 では、それぞれの時代の教育者はどうだったのでしょうか。

 「もっと勉強しなさい!」「詰め込んで勉強しても意味がない!」「もっと勉強しなさい!」なんて時代にあった主張をしている人がほとんど。同じ人が主張を変えていることもよくあります。

 まるで国の方針に迎合するかのように叫んでいますが、そうやって時代の流れに乗った人だけがもてはやされるんですよね。

 大きく考えれば、ヒトラーやムッソリーニもそうなのかもしれません。流れにのって独裁者という立場を築きました。

 今回の物語では永島丈がそう。彼はある事件をキッカケに英雄として崇められるようになりましたが、その事件をネットで検索すると、なぜか恐ろしい目にあうことに。その理由は…。

 正義は権力者によって作り変えられる

 真実が明らかになるのを恐れている人物がいたからです。彼はあるシステムを使って真実を暴こうとする人たちを次々と殺していきました。

 つまり、正義は権力者によってどうにでも作り変えられるということ。

 第二次世界大戦中の日本でも、天皇や戦争を批判する人たちが次々と牢屋に放り込まれました。天皇陛下バンザイ、戦争バンザイと叫ばなければ極悪人に仕立てあげられたのです。

 しかも、そうして捕まった無実の人たちを警察は痛めつけたんですよね。仕事だから当然だと言わんばかりに。

 そんな悪事を働いているのに仕事だからと言い訳をしている奴らに対して渡辺の妻は…。

 悪いことをしても痛みを感じない奴は許さない

 と、徹底的に戦います。私もそんな強い存在でありたいって思える物語なんですよね。

 大きな流れには逆らえなくても、目の前にある小さな流れくらいは変えていきたい、そうして世界を少しでも良くしていきたい…そんな気持ちになれる小説です。

 伊坂幸太郎さんの小説『モダンタイムス』。おすすめです。

 関連記事

自分の弱さに嫌気がさしたときに読んで欲しい小説/西加奈子『おまじない』

(※『おまじない』表紙より)  自分の弱さが嫌になることありませんか?  私はよくあります。上司に「休ませてください」と直接言いづらくて、メールで連絡したり、プレゼンの前日に緊張して眠れなかったり、スマホのゲームに夢中に …

犯人は誰!?米澤穂信『愚者のエンドロール』は探偵がいないミステリー小説

(※『愚者のエンドロール』表紙より)  米澤穂信さんの小説『愚者のエンドロール』。  前作『氷菓』に続く古典部シリーズ第2弾の本作は、2年F組の先輩たちが自主制作したミステリー映画の謎に迫る物語です。読めば驚きの結末が! …

サイコパスと闘えるのはサイコパスだけ?/伊坂幸太郎『死神の浮力』感想

 サイコパスっていますよね。彼らは良心を持たないので、好き放題に振舞っています。  たとえば、多くの人を殺したにも関わらず少年法に守られて今も平然と暮らしている殺人鬼。彼は成人してからも被害者家族を侮辱するような本を出し …

人の不幸の上に幸せは築けない!?東野圭吾『容疑者Xの献身』は泣ける小説

(※『容疑者Xの献身』表紙より)  東野圭吾さんの小説『容疑者Xの献身』。  数学教師の石神が隣の部屋に住む女性を守るために、人生をかけて献身する物語です。読めば「人の不幸の上に幸せを築くことなんてできない」と思うこと間 …

誰もが宗教に関わっている!?今村夏子『星の子』は新興宗教にハマった家族を描いた小説

(※『星の子』表紙より)  宗教は自分には関係のないものだと思っていませんか。  私は思っていました。洗脳された人が、怪しいものを買ったり、変な行動を取ったりするものだと思っていました。  しかし、今村夏子さんの小説『星 …

理不尽な目にあったときは流れに身を任せよう/伊坂幸太郎『グラスホッパー』感想

 ひどくてツライ、重くてしんどい。そんな状況に追い込まれたことありませんか? ・必死になって仕事をしても上司から怒られる ・家族から理不尽に責められる ・義理の両親からいろいろ口出しされる  などなど。  そんなとき、ど …

正義なんて存在しない/伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』感想

 中世のヨーロッパで行われた魔女狩り。しかし、これは中世だけでなく、現代でも起こっているよね、というメッセージが込められた小説が伊坂幸太郎さんの『火星に住むつもりかい?』です。  とにかく暗くて読むのがツラくなりますが、 …

理不尽な目にあってもいつか救われる/伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』感想

 生きていると理不尽な出来事に遭遇することってありますよね。そんなとき、どうすることも出来なくて落ち込んでしまいがちですが、しばらく耐えれば救われるかもと思える物語があります。  それが伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のた …

家族のことを大切に思ってる?/伊坂幸太郎『AX アックス』感想

 家族のことを大切に思っていますか。  私は誰よりも家族を大切にしていると自負していましたが、伊坂幸太郎さんの小説『AX アックス』を読んで少し考えが変わりました。家族思いの殺し屋に衝撃を受けたからです。  殺し屋なのに …

東野圭吾『予知夢』は科学談義が面白いミステリー小説

(※『予知夢』表紙より)  東野圭吾さんの小説『予知夢』。  警視庁捜査一課の草薙俊平が、帝都大学理工学部の准教授・湯川学とともに科学的な視点で事件を解決していくミステリー小説です。前回紹介した『探偵ガリレオ』の続編。今 …