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 子どもに自由を与えていますか?

 ここで言う自由とは、好き放題に甘やかすことではなく、子どもの意思を尊重することです。そのせいで、子どもがツライ思いをすることになっても、力の限り応援していく…。

 原田マハさんの小説『奇跡の人』は、不自由な暮らしをしていた主人公のれんが、教育を受けて自由を手にするまでの奇跡を描いた物語です。

 三重苦に苦しむ主人公に与えられた境遇は…

 物語の舞台は、明治時代の青森。主人公の介良(けら)れんは、ヘレンケラーと同じく「目が見えない、耳が聞こえない、口がきけない」という三重苦に悩まされていました。

 しかし、両親はそんな彼女を獣のように扱います。広大な屋敷の奥深くに閉じ込め、まともな食事も与えず、お風呂にだってほとんど入れませんでした。

 さらに、誰からも愛情を注いでもらえなかった彼女は、人との接し方がわからず、突然暴れ出すことがありましたが、そんな彼女に父や使用人たちは、愛情ではなくムチを与えました。

 彼女が少しでも暴れると父はすぐに平手打ちをし、使用人たちは隠れて彼女を痛めつけます。爪から血が流れ出るような仕打ちはごく普通のことでした。

 そんな彼女の元に一人の女性が現れます。その女性とは…。

 愛情を注げば人は誰でも成長できる

 岩倉使節団随行の留学生としてアメリカに渡り、自由の大切さを学んだ女性・去場安(さりばあん)でした。

 安はれんと会ってすぐに、彼女を救いたいという気持ちでいっぱいになりました。境遇の酷さに衝撃を受けたからです。

 その日から安は彼女に付きっ切りで教育を始めました。噛みつかれたり、引っ掻かれたりしても、根気強く向き合います。

 こうして、安の愛情をいっぱい受けたれんは、「はい」と「いいえ」という意思表示ができるようになったことをきっかけに、お箸を使ってご飯が食べられるようになったり、同年代の子どもと遊べるようになりました。

 ところが、れんの成長した姿をみた両親は、突然甘やかしはじめるんですよね。「もうこれで十分じゃないか」と安の教育を中断させたのです。

 そんな両親に向かって安は…。

 教育とは子どもの自由を広げること

「確かに、れんは、見違えるほどおとなしくなりました。けれど、それは、男爵や奥方さま、この家の大人たちにとって、都合よく振る舞ってくれる子供に変わった、というだけのことです。あなたさまも、奥方さまも、ご自分たちの娘御に、この世界の何も見せず、何も聞かせず、しゃべらせようともしていない。ただ、お人形を膝に載せて可愛がっているようなものではありませんか」

 と怒ります。お人形のような暮らしでは、本当の自由、すなわち自分らしく生きているとは言えないからです。

 そこで両親は、れんに選ばせることにしました。安の厳しい教育を受け続けるか、それとも両親との楽しい暮らしをするのかを。

 この結末は本書を読んでもらうとして、子どもにとって必要なのは、「甘やかし」ではなく「厳しくもあたたかい教育」です。

 そんな教育が出来れば、子供はきっと自分らしく育っていきます。親の想像を越える自分らしい人生を歩んでいくでしょう。

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