自分の記憶に自信を持っていますか?
私は記憶力が良い方だと思っているので自信がありましたが、
辻堂ゆめさんの小説『あなたのいない記憶』を読んで、少し自信がなくなりました。
記憶がどれだけ曖昧なものかが描かれていたからです。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 気になる謎が次々と提示される物語が好きな人
- 記憶をテーマにした物語に興味がある人
- 結末がある程度予測できる物語が楽しめる人
- 辻堂ゆめさんの小説が好きな人
あらすじ:小学生時代の記憶がねじ曲がった大学生たちの物語
物語は、東京にある東慶大学に入学した新見優希が、岡本淳之介と偶然再会するところから始まります。
彼らは同じ高知県出身で、小学生のときに「アトリエ・ラ・メール」というお絵かき教室で寿美子先生のもとで一緒に絵を描いていました。
ところが、優希には、お絵かき教室が火事で燃えて閉めることになったという記憶がありませんでした。
また、寿美子先生の息子であるタケシについても、まったく覚えていませんでした。
一方の淳之介は、尊敬するタケシを追いかけてバレーボールの道を邁進していましたが、
彼が追いかけていた小田健志は、寿美子先生の息子であるタケシとは別人であることがわかります。
なぜ彼らはタケシの記憶がなくなったり、ねじ曲がったりしたのか…という物語が楽しめる小説です。
感想①:気になる謎が次々と提示される
あらすじで、優希は火事のこともタケシのこともまったく覚えていないと書きましたが、
実は彼女はタケシという人物について知っていることがありました。
それは、彼女が大好きな絵本『キングの冒険』に出てくる主人公がタケシだったからです。
優希はその絵本に出てくるタケシのようになりたくて、チェスを始めたのですが、
淳之介が話すタケシと絵本に出てくるタケシには多くの共通点がありました。
そこで、絵本を淳之介に見せたところ、彼は「健志さんといろいろ共通点があるね」と言い、さらに「その絵本は存在しない」と言い出します。
出版社であるクヌギ社に問い合わせても、「そんな本を出版した記録はない」と言われたというのです。
一方の優希も、淳之介に驚くべき事実を伝えました。
淳之介が追いかけていた小田健志の母は、小田芳子と言い、お絵かき教室の先生である寿美子とは別人だと言います。
お絵かき教室の月謝袋にも「ナガサカ」という小田とは別の名字が書かれていました。
畠中恵さんの小説『しゃばけ』では、次々と気になる謎が提示されたので、ページをめくる手が止まらなくなりましたが、

この物語でも気になる謎が次々と提示されるので、一気読みしてしまいました。
感想②:記憶の曖昧さをテーマにした物語
タケシに関する記憶が曖昧だとわかった優希と淳之介は、誰かにコントロールされてチェスを、バレーボールをやってきたようで気持ち悪くなりました。
そこでタケシを探して真相を明らかにしようとしますが、その途中で出会ったカウンセラーの晴川あかりから、記憶とは曖昧なものだと告げられます。
たとえば、ピアジェという心理学者は2歳のときに誘拐され、ベビーシッターに助けてもらった記憶がありましたが、実は誘拐未遂そのものが嘘でした。
ベビーシッターがご褒美欲しさに嘘をついていたのです。
しかし、ピアジェは誘拐の光景をしっかりと思い出すことができました。繰り返し聞かされる中で、頭の中で捏造されたのです。
だからこそ、あかりは、優希と淳之介の記憶も誰かに捏造されたのではないかと言うんですよね。
『限りなく黒に近いグレーな心理術』の感想で、人は他人だけでなく自分も騙してしまうと書きましたが、

この物語でも、記憶の曖昧さが描かれていたので、衝撃を受けました。
感想③:ラストはある程度予測できる物語
さて、この物語では、ここまで紹介してきたように、優希と淳之介、晴川あかりに、タケシの幼馴染である京香が加わって、
彼らの歪んだ記憶を取り戻そうとする物語が描かれていきます。
そしてラストでは衝撃の事実が明かされるのですが…。
読んでいる途中である程度予測できる内容でした。
百田尚樹さんの小説『夏の騎士』では、序盤で殺人事件の犯人も、恋愛の結末もすべてわかってしまう構成でしたが、

この物語でも途中で結末が予測できる構成になっていました。
とはいえ、予測している内容が本当にあっているのか確かめたくて、一気読みしてしまいます。
まとめ
今回は、辻堂ゆめさんの小説『あなたのいない記憶』のあらすじと感想を紹介してきました。
結末はある程度予測できる構成でしたが、それでも楽しめる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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